148 クリスマスのプレゼント
クリスマスと言えば、1つ大きな問題がある。
そう、サンタさん問題だ。
「上空からやって来ると言う事は、陸路は使わないのでしょうか?」
エルフのイーズが変な疑問を持ち始めた。
「鼻が光り、空を駆けるとなると、トナカイとは魔獣の事なのですね」
「しかも、大荷物を運んで超長距離を移動できる点から、相当に強大な魔獣だと推測されるわ」
「それを多数従えるとなると……。サンタ、強敵ですね」
エルフの皆は、ゴクリと生唾を飲み込み、冷や汗をかきそうな表情だ。
「いや、そういうのじゃ無いから」
「ですが、逸話が具現化して、今では世界各国で観測されているのですよね?」
「そうですよマスター殿。ネットに追跡サイトもあるじゃないですか」
「逸話から発生した幻想魔獣は、時に暴走して人々を苦しめると言います。今の内に対策を練っても良いのではないでしょうか?」
どうやら、異世界ではそういう言い伝えがある様だ。
そんな酒の飲みの与太話をしていたら、ラキが子供の姿になって、もじもじとしながら俺の隣に座る。
「なあ、サンタって子供の所に来るんだろう? だったらアタシがこの姿なら来るんじゃないかな? って思うぞ」
そうきたか。
「そうは言っても、ラキはもう大人なんだから、それは、他の子供に譲ってやれよ」
「え~イヤだぞ。サンタって強いんだろう? 戦ってみたいぞ」
それが目的か。
「そこは子供達の為にも戦わないでやってくれ。そもそも、サンタって実際には……どうなんだ? 天狐はそっちも詳しいか?」
「会うた事は無いのじゃ。じゃが居るのではないかのう? 神あれば信仰が生まれ、信仰あらばまたそれらも具現化するのじゃ。あやつらからしたら『聖人』じゃったかの」
ヒョウタンで熟成したブランデーをグビグビしながら、天狐は気だるげに答えてくれた。
あと、ラキ、酒を飲むなら、大人の姿に戻りなさい。
日本の価値観なら、八百万に神がやどる。
そうなると、日本ではサンタは神なのかもしれない。
「それは夢があるな。となると、ウチの天樹様も具現化するのかな?」
「何じゃ? その様な事を望まんでも、お山の上で会えるじゃろうに。詣でてまいれ」
そう言われたら、そうだな。
なるべく頻繁に天樹様へお詣りもしよう。
そんな感じでグデグデと話しながら、ウチでのサンタの取り扱いが決まったりした。
まず、捕獲しようと思ってはいけない。
次に、見つけても戦いを挑んではいけない。
更に、コア達が警報を鳴らさないなら見て見ぬふりをする。
最後に、靴下は枕元に吊るす事。
こんな感じになって、皆はそれぞれベッドに入った。
さて、これからは俺がサンタになる時間である。
今日の日の為に、全員分のネームリングをSSを使って入手した。
透かし彫りで名前が入っているデザインで、チェーンを通してペンダントトップにもなる、ちょっと幅広の物だ。
最近は、こういう細かいアイテムもSSで生み出せる様になった。
その分、SSが減っているけど、まあ有る分は有効に使おう。
まずは、エルフ達の部屋に行く。
こっそり侵入するが、やましい事は無い。
プレゼントを贈るイベントの一環なのだ。
彼女達は、枕元に靴下を吊り下げてくれていた様だ。
ちなみに、靴下はガラテアが皆の分を作ってくれた。
クリスマスっぽいアクセントがつけられていて、可愛いデザインだ。
そこへ、ネームリングを入れる。
「う~ん、むにゃむにゃ……」
ふう、寝言か。
気付かれたかと思った。
……寝言だよな?
なのに、なぜに彼女は俺の腕を掴むのか。
「もっと食べられるよぅ……むにゃむにゃ」
寝言って事にしろってわけか。
さっき決めたサンタ対策に、こんな抜け穴があったとは……!
▽▼▽
俺は頑張ったと思う。
全員の枕元の靴下に、プレゼントを入れる事に成功した。
スモモとキラリには、とびきり魔力の高いニンジンを作ってあげたし、コズミンには物凄く甘いブドウをプレゼントした。
スライム達も、理解ができる子達とはペチペチぽよぽよとした。
コア達とゴチゴチ戯れて、クリスタルゴーレム達皆に、労いの言葉を贈った。
皆のおかげで今の俺が居ると思うから、プレゼントを贈れる事はとても嬉しい事でもあった。
寝室に戻る。
ベッドの上にレイナスが居た。
レイナスの枕元にもプレゼントを入れたのだけれど、結局俺の寝室に来てしまったみたいだ。
「マスター、お疲れ様。ほら、いらっしゃい」
彼女はハイバックに背中を預け、足を伸ばしている。
そして、太ももをポンポンと叩いた。
「膝枕かな?」
「そうよ。男の人ってこれが好きって聞いたわ。でも、マスターは嫌いだったかしら?」
「そんな事は無い、と思う。そういえば、してもらった事が無いから、ちょっと分からないな」
「だったら、ほら。私からのクリスマスプレゼントよ」
初めての膝枕は、収まりの良い位置を探すのに、ちょっと手間取った。
けれど、それもレイナスとのコミュニケーションになって、良かったと思う。
そのあと、俺が熟睡するまでレイナスは膝枕していてくれた様だ。
ありがとう。




