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140 双子の甘い時間

 管理棟のティールームエリアを拡張した。

 むしろそれがメインな程にしたので、スイーツの充実を図る。

 

「「はい、お任せください」」


「アミリア、マミリア、フォークは置いておこう。今は食べる時間じゃない」


 双子はポロポロと涙をこぼしだす。

 

「いや、後で食べて良いんだけど、まず作ってからって意味だ」


「「悲しさに我を忘れる所でした」」


「そんなにか……」


「「はい、時に冗談ではなくなります。ご留意くださればと」」


 さて、カフェなどでは、提携しているパティスリーから仕入れている場合があるという。

 けれど、ウチは自作してご提供するのをモットーにしたいと思う。

 

 だから、食材の買い出しに行く。

 

 卵や牛乳は業務用を配達してもらっているが、流石に生クリームやバター等はストックが少ない。

 それと、特殊な食材もまずは買って使ってみて、良さそうなら自分達で育てるのもありだと思う。

 

 そういうわけで、ショッピングモールへ皆でやってきた。

 ピストン輸送はきついので、大型バスを頼んで出してもらう。

 自分が運転しないで移動できるのは、久しぶりで新鮮だった。

 

 ただ、予定は前もってバス会社に伝えておく必要があるから、ちょっとだけ面倒だ。

 ウチにも大型バスが欲しいなと思ってしまう。

 だけど、それは大丈夫なのだろうか?

 

 今までは、軽トラと3人が乗れる2トントラックで、なんとかなっていた。

 買い出しは軽トラが楽だったし、その当時の家族皆で出かけようと思ったら、レンタカーで間に合うとも思っていた。

 

 それが、人数が増え、ウサギ達が大きくなったから、いっその事マイクロバスだと張り切って買ったら、更に家族が増えた。

 

 こうなると、大型バスを買ったら、もっと家族が増える予感がする。

 その時はその時なのだろうか?

 

 集合時間を伝えて、それぞれ自由行動だ。

 

 俺は双子達とスイーツ用の食材購入。

 双子達は、メノウの様な緑の深い髪をミディアムボブにしてある可愛らしい外見だ。

 

 普段は、ガラテアが作った、クラシカルな人形っぽい服装が多い。

 けれど、今日はパンキッシュな感じの可愛らしくてカッコいい感じの服装だった。

 

 これもガラテアが作ったという。

 1着のデザインはアシンメトリーだけれど、2人が着るとシンメトリーになる面白いデザインだった。

 

 そんな双子と一緒に3人で、カートを押して食材を物色する。

 

「アミリアは、どんなのが良いと思うんだ?」


「美味しい物なら何でも良いものだと思います」


 そういうのは、一番困るパターンだぞ。

 

「……マミリアは?」


「マスターが作ってくださるのは、どれも美味しいです」

 

「いや、今回は2人とも作るんだよ」


 何でそこで、聞いて無いよって顔をするのか。

 

 思い起こせば、双子がウチに来てから半年近くなる。

 その間、双子が料理をしているのを見た事が無かった。

 

 大まかな料理は、クリスタルゴーレム達が作って用意してくれる。

 その他に、俺とガラテアとラキが追加で作る感じだった。

 

 レイナスはたまに作るが、そう頻繁でも無い。

 天狐はあんな感じだから、食べるのが専門だ。

 

 そして、双子はレイナスの身の回りの世話をするのは仕込まれているらしいが、料理は専門の者の仕事って事で、やった経験が無かったそうだ。

 身分が高くなる程、多くの使用人を抱えるのが普通になるので、仕事が専門化されるという事だ。

 

 今までは忙しさもあって、一緒に作る機会が無かったから、双子が料理にチャレンジする良いチャンスだと思う。

 

「自分で作れるようになったら、もっと美味しいスイーツが食べられるようになるだろ?」

 

「「その考えに至るとは、流石マスターです」」


 そういう、変な持ち上げ方はくすぐったいなと思ったら、どうやら本気だったみたいで、目から鱗が落ちた顔をしていた。

 

 色々と大量に購入し、集合時間になったらバスに行く。

 他の皆も、色々楽しめた様で何より。

 

 ウチに帰ると、早速スイーツ作りだ。

 

 今回は、シンプルだけれど一見凄そうな物をつくる。

 初心者な双子でも失敗せずに、達成感の高い物をチョイスしてみた。

 それは『チョコを使わないチョコレートムース』だ。

 

「「意味がわかりません」」


 そうだと思うが、やってみよう。

 

 牛乳に、砂糖とココアパウダーと粉ゼラチンを混ぜる。

 

「「粉がポフポフします」」

 

「混ぜるのは、最初はゆっくりで、次第にしっかりと、だな」


「「はい」」


 双子はボウルから中身が飛び出ない様に、慎重に泡立て器を動かす。

 だいぶ混ざったら、80℃の温熱レンガで囲んで、ゆっくりと過熱しながら、また混ぜる。

 

「「シャビシャビとしてきました」」


「ああ、ココアとゼラチンが溶けたな。良い感じだ」


「「はい」」

 

 ただ、手をぐるぐる回しているだけなのに、ボウルの中の状態が変わるのが面白い様だ。

 

 しっかりと温度が上がったら、茶こしで濾しつつ、別のボウルへ移す。

 そして、0℃の冷気レンガで、荒熱を取る。

 

「「温めたり、冷やしたり、忙しいです」」


「必要な事だから、しっかりとする様に」


「「はい」」

 

 今度は、生クリームを8程度に泡立てる。

 かき混ぜるのは、ちょっと『ベチョ』っとした程度に抑える。

 

「「ケーキでしたら、もっと固いクリームの方が美味しいです」」


「これはその先があるから、こんな程度で良いぞ」


「「はい」」

 

 良い感じで生クリームが泡立ったら、荒熱を取った牛乳ココアと混ぜる。

 緩い感じで良くまぜる。

 

「「デロデロですが、これで良いのですか?」」


「大丈夫だ。俺を信じろ」


「「はい」」


 良く混ざったら、パウンドケーキの型にクッキングシートを箱型に折って入れて、牛乳ココアクリームを注ぐ。

 そして、冷蔵庫で冷やして固める。

 

 これで、『チョコを使わないチョコレートムース』の完成だ。

 

 木製トレイの上に出し、クッキングシートを剥がしたら、プルンとした柔らかムースがお目見えする。

 

「「これは! ムースです!」」


「そうだ、ムースだ」


「「頂いても?」」


「更にココアパウダーを掛けても良いぞ」


 双子はムースを切らずに、ブロック状のまま、両端からスプーンで食べ始めた。

 

「「ちゃんとチョコ味です!」」


 風味が良くて、口に入れると蕩ける感じの食感も、美味しさを引き立てる。

 

 ……。

 

「マミリア、私がココアパウダーを多く混ぜました。遠慮しなさい」


「クリームは私の方が上手く泡立てました。アミリアこそ遠慮しなさい」


 最後の1口をめぐって、双子は喧嘩をし始めた。

 

「2人とも、良いか? 食べたいなら、もっと作れば良い」


 そう言って、ひょいっと俺が最後の1口を食べる。

 

「うん、美味しいぞ」


 自分でも簡単に、まるで本格スイーツのようなムースを作る事ができて、双子も1つ成長できただろう。

 だから、2人してわき腹をつねるのを止めてくれ。

 

「「はい、これからは自分達でも作れますね」」


「そうだな。それと、自分達の分だけでもダメだぞ。皆が待っているから、がんばろうな」


 甘い匂いに釣られて、ウチの皆が集まってきていた。

 さあ、俺も一緒にするから、全員の分をがんばろうな。


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