137 金貨の山をどうするか
異世界へのフリーズドライ食料の輸出が具体的になり始める。
異世界からすると、ウチの作物の盛り籠1つで決闘騒ぎが発生しかねない。
それほどに価値があると言う。
価格の設定や分配率の調整など、大変そうだ。
担当のアノマス子爵はがんばってほしい。
そして、今までの分の礼金だと言って、山の様な金貨を置いていった。
色んな貴族が「自分はこれだけの財力と意気込みがあるから、多少はね?」と暗に便宜を求める為に集まってしまった金貨の様だ。
この金貨はどう使ったら良いのだろうか?
異世界では錬金術があるので、地球側で消費しても完全に枯渇する事は無いそうだ。
けれど、金貨が大量に流出すると、市場が混乱しかねない。
なので、異世界の金貨は異世界で消費する方が良いだろう。
「それにじゃ、日本で換金するにも、多くはできんのじゃ」
天狐が言うには、1億円程度は換金できそうだけど、それ以上となると無茶をする外部勢力が動き出すかもしれないとの事。
金は特殊な事情があるらしい。
今現在でもウチは、油断したらグレーからブラックになりかねない部分があるのだから、危ない橋は渡らないようにしないと。
よほどの事が無いかぎりは、日本円にするのは止めておこう。
では、異世界で何に使うか?
「大きく分けると、物・人・食料そして土地よね」
レイナスが指折り数えて提案する。
物は、何かを買ってこちらで売るって事ができるな。
人は、誰かを雇って何かをさせるって事か。
食料は輸出する側だから、除外。
土地は魅力を感じるな。
あれもこれもと全部に手を伸ばすと、頭が混乱しそうになるから、どれかに絞った方が良いかな。
「悩むなら、一度異世界に行ってみるのはどうかしら? 現場に立つから感じる事もあるって、マスターはよく言っているわよね」
確かに、ウチの敷地内の様子はダンジョンマスターの力で手に取る様にわかるけど、自分の足で現場に行って見回りをするのは欠かしていない。
だったら、異世界の方は知らない事だらけなのだから、一度足を運ぶのも良いだろう。
さっそく、行ってみる事にした。
そして、俺だけ外に出られなかった。
水晶のダンジョンの異世界側の出入り口は、普通の洞窟の出入り口と似た感じだ。
地球側の様に光る雲状の転移ゲートとはなっていない。
地続きな感じだけれど、その境界から先へは透明な壁にぶつかった様な感じがして、俺は行けなかった。
天狐やガラテア、ウサギ達やコア達も外に出られたのに、俺だけが異世界に行けないのだ。
皆がダンジョンの外へ出て伸び伸びとしているのに、俺だけ日陰に取り残されてしまう。
異世界でキャンプが楽しめるかなって思ったのに、残念だ。
ちょっと落ち込む。
「マスターはダンジョンマスターなんだもの。領域を守って欲しいって事かもしれないわね」
レイナスが、優しく頭を撫でて慰めてくれる。
それに甘える事にした。
……。
……。
……。
たっぷり甘えた。
さて、異世界に行けないなら仕方が無い。
それならそれで、できる事を考える。
物を買う方は、アノマス子爵に関係する商人に来てもらう事にしよう。
「レイナスは、何を持ってきてもらったら良いと思う?」
「そうね、蓄財目的なら魔石が無難かしら。魔物を倒せば手に入る分、値段が変動しやすいけど、劣化する事も無いしね」
魔石は、空間魔力をじっくりと集める性質があるらしい。
その為、強力な魔物は体内に大きな魔石を持つ事になるとか。
地球に魔石を置いたら、ひょっとしたら魔力が拡散してしまうかもしれないが、水晶のダンジョンに貯蔵部屋を作っておけば良いだろう。
「地球側に置くなら、温泉セメントで箱を作れば大丈夫だと思うわ」
それなら、問題は無いか。
「ラキは何かアイデアはあるか?」
「そうだな、毛皮なんか良いと思うぞ。アタシの故郷だと余りがちなんだ。皆、大喰らいだからな」
毛皮は物によったら地球でも売れそうだよな。
無理そうなら、ウチで加工して使っても良い。
ガラテアは色々と裁縫してくれるだろうし、エルフ達も自給自足生活が長かったからか、革細工が得意だ。
「アミリアとマミリアはどうだ?」
「「はい、美術品は如何かと」」
異世界だから、独特な文化様式もあるだろうし、それも良いかもな。
地球にも変な物が好きな資産家は居るだろうから、物珍しさで目を引くかもしれない。
何となく方向が見えてきたので話しはそこそこに、今夜はダンジョン内でキャンプする事にした。
異世界側の出入り口を広く拡張して、外の様子が良くみえる様にする。
だいたい、横100m位の大きな口にした。
外から見たダンジョンの様子を、コアに送ってもらう。
水晶の柱が絡まり合うように重なって、鳥の巣を逆さまにした感じの構造から、出入り口が開いている印象を受けた。
大きさ的には、もっと拡張できそうかな。
食事は、エルフ達がイノシシ肉のハンバーグを焼いてくれた。
パンを、表面はパリッと中はふんわりと焼いて、レタスやトマトを挟んで食べる。
合わせる酒は、生姜を使って作ったジンジャービアにした。
ピリッとした辛さが、ハンバーガーとマッチする。
ほろ酔い気分で焚火を囲む。
イーズが最近練習しているリュートを弾いてくれた。
ちょっと陽気にアップテンポの曲だ。
リュートって、哀愁をそそる音色だけれど、明るい曲にだって合うんだな。
凄く柔らかい感じだ。
出入り口から眺める異世界の夜空は、やっぱり地球と星座が違っていた。
その土地を踏めなくても、こうして皆と夜を過ごせば、楽しい異世界キャンプだな。
この夜は、テントを張らずに、皆で寝袋に包まってゴロゴロと寝た。




