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135 狩りの時間だ

 穏やかに11月が過ぎ、12月へとカレンダーは移る。

 

 今年のキャンプ場の営業は、これで終了だ。

 

 皆で天樹様をお詣りする。

 総勢で53人。

 大所帯になったものだ。

 

 ウサギ達やスライム達、クリスタルゴーレム達もお詣りしてくれる。

 地面の浅い部分に根がある所には小石を置いてあるから、そこは踏まない様に気を付けてな。

 

 皆で手を合わせる。

 

 大きな事故や怪我人や病人がでないで良かった。

 ありがとうございました。

 天樹様には、これから先も見守っていただきたい。

 

 12月になると、世間的には何が訪れるだろうか?

 

 そう、猟期だ。

 既にハイシーズンになっている。

 

 呑気にどんぐりを食べまくっているイノシシを狩る時期がきた。

 

「マスター殿、腕が鳴りますね」


 イーズを始めエルフ達は、この時期を心待ちにしていた。

 異世界で、人里離れた土地を放浪していた彼女達は、狩りが習い性になっている。

 山中に罠を張ったり、獣を見ると弓矢を射掛けないと落ち着かないという。

 

 それを、なんとか宥めて冬になるまで待ってもらった。

 また、今の日本だと弓矢での狩りは禁止なので、その説得にも苦労した。

 

「つまり、マスター殿は我々の身一つの力を試してくださるんですね」

 

「ちょっとニュアンスが違うけど、魔法を使えば問題ないと思うから、怪我には注意してくれ」


「はい、獰猛な狼としての本性を披露したいと思います!」


 うん、やる気があるのは良い事だな。

 

 エルフ達と、何故かイノシシが多数生息している窪地に向かう。

 

 何故か6m程の深さに掘り下げられたかの様な、不思議な地形だ。

 そして、何故かイノシシが大好物な巨大どんぐりの木があって、そこで生息するイノシシは、丸々と太っている。

 

 まるで、放牧しているかの様な、不思議な自然のイタズラ空間だ。

 

 さて、言い訳が完了したところで、エルフ達にイノシシを狩ってもらう。

 

 彼女達の手際は鮮やかだった。

 部分的身体強化の魔法を使って、イノシシの急所を一撃で殴り蹴り仕留める。

 

 ……ファイヤーボールとかみたいな、飛ばす系の魔法は使わないんだなぁ。

 

 俺もイノシシを仕留めようと思ったら、エルフ達に悲しい顔をされてしまった。

 任せっきりはダメだと思うんだが……。

 子犬の様に訴えかける瞳に負けてしまった。

 

 エルフ達は、俺の前では子犬のようだが、実際は狼と言っても遜色ないと思う。

 笑顔で仕留めた報告をしてくれるが、美人さんだったり可愛い系だったりする彼女達が、難なくそうするのは、やはり異世界の出身なのだと感心した。

 

 そして、すかさず血抜きをして、肉に冷却の魔法をかけていた。

 

「血抜きの時に、全体に微弱な電撃魔法を使うのがコツです」

 

 そうすれば、心臓が止まっていても筋肉のポンプ効果で血抜きが上手くいくのだとか。

 

 考えるもんだなぁ。

 

 イノシシは皮下脂肪が厚いのに、皮をぐのも手際が良かった。

 後で、革になめして色々な物を作ってくれる様だ。

 豚革に近く柔軟性があるようなので、手袋やコートにすると良いとの事だ。

 

 そして気になる、イノシシ肉の味はどうだろうか?

 

 シンプルにステーキで食べる。

 

 今まで食べた豚肉って、偽物だったの? と口の中が混乱した。

 

 噛むとしっかりとした弾力があるが、肉がパサついている感じはしない。

 むしろ、脂分がしっとりと浸透していて、噛むほどに旨味がある。

 

 イノシシ肉はクセが強いと聞いた事があるが、コレは充分な血抜きと餌の良さとで、臭みや雑味は全く無かった。

 熟成されていなにのにもかかわらず、非常に旨味が高い。

 

 無我夢中でイノシシステーキを食べる俺を見て、イーズが嬉しそうだ。

 

「マスター殿、私の仕留めた獲物はどうでしたか?」


「うん、美味い。文句なしだ」


「ほんとうですか! やったぁ!」


 ピョンピョン跳ねて、身体全体で嬉しさを表すイーズ。

 

 ウチに来た当初は、緊張からか硬い所があったが、今は彼女の素が出ている様だ。

 

 その後は、キャンプ場が無事に終わった事を祝って、宴会になったのだが――

 

「マスター殿! これが私の仕留めた肉です!」


 エルフ達は、列をなして皿にこんもりとイノシシ肉を持ってきた。

 

 全部食べてくれって事だよな……。

 

 その晩、俺は頑張った。

 久しぶりに、自分を自分で褒めたい気分でいっぱいだった。

 

 あとで運動を頑張ろうと思う。

 


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