134 土地を買うとダンジョン領域が広がる
「あ、広がった」
天樹の森が広がった感覚を得る。
先日、山地の買収が1件済んだと弁護士から連絡があった。
それで、役所の方の名義が変更されたのだろう。
そのタイミングで、俺がダンジョンとして管理できる範囲が広がったのだ。
こんな感じで自分の領域が変わるのは変な感じだが、無暗に人の土地を占領してどうこうするのも避けたい事だ。
だから、ちょっとした心のブレーキとして機能するんじゃないかな?
特大松茸を売っている分のお金は、毎日順調に振り込まれている。
これから、どんどん土地を買ってゆこうと思う。
領域が広がったので、その場所へ足を運んでみる。
離れていても、ダンジョンマスターの力で現地の状態が手に取る様にわかるが、実際に行く事で感じる何かもあるだろう。
今回は俺とイーズを始めエルフが数人で向かった。
「マスター殿。領地が拡大したと聞きましたが」
「ああうん。領地っていうより、領域な。土地が無事買えたんだ」
「それは、おめでとうございます」
「マスター殿の覇道が一歩進んだのですね」
「そうなると、今夜は宴でしょうか」
「そうだな、そういうのは大切だな」
それを聞いてエルフ娘たちは、きゃいきゃい喜んでいる。
ほとんど毎晩宴会状態なんだけど、きちんと名目があると違うのだろう。
エルフ達は山を進む際に、俺を取り囲む様にして周囲を警戒している。
そんなに危ない事は無いんだが……。
「のんびり気楽にしてもらって良いんだぞ?」
「ありがとうございます。ですが、山はいつ何が起こるかわかりません」
「その気持ちは忘れない様にしたいけど、本当に大丈夫だぞ。だって、俺のダンジョン領域なんだから」
そう言ったら、イーズが失敗したという焦りの表情を見せる。
冷や汗もかき始めた。
「も、も、申し訳ございません! マスター殿のお力を疑うような事をしてしまって。この責は私にあります。なにとぞ、他の者に累が及ばないように、なにとぞ……!」
そして土下座をするイーズ。
いやいや、そこまでじゃ無いから。
怒ってないからね。
「まてまて、何も悪い事はしていないんだから、土下座もやめてな」
「ですがっ! 御方の偉大な御業を知りながら、このような……!」
ああ、俺の事を呼ぶのが『御方』に戻ってしまった。
最初、エルフ達を受け入れた時にそう呼ばれた。
柄じゃないから、止めてもらうと説得して、陛下、閣下、ご主人様と経て、マスター殿で落ち着いたのに。
「ほら、イーズ。俺の呼び方が変になってるし、大丈夫だからな」
「おんか……マスター殿。集団を維持するのに、規律は必要なのです。代表たる物は、それを率先して示さないとなりません。ですので、罰を」
……なんで、イーズは期待に満ちた目で見てくるの?
キラキラと輝いているんだけど。
「ウチではそういうのは無いの。危ない事は叱るし、怠ける者には怒るけど、失敗には怒ったりも叱ったりもしないぞ」
「……そう、なのですか」
ああ、イーズは物凄くショボ~ンっとしてしまった。
長い間、46人の集団をまとめて放浪していたわけだから、なかなかそういった考えは抜けないよな。
「そうそう、ウチでは大丈夫だから。イーズは、がんばっていて偉いぞ」
そう言って、イーズの頭を撫でた。
「はい、ありがとうございます」
「よし、それじゃ立とうか」
「いえ、このままで」
はい?
「マスター殿の忠実な犬として、働く気持ちを新たにしました。忠犬としての気持ちを表しています」
ええ……?
他のエルフ達も、『そうかっ』って表情で4つん這いにならないように。
……撫でれば良いのか? 頭を。
そう、じゃあちょっとだけだぞ。
「……イーズ。何で、仰向けになってお腹を見せてくるんだ?」
「はい、獰猛な狼も、群れの優秀なリーダーにはこの様にして服従の態度を見せるものなのです」
「犬じゃなくて、狼にしたのか」
「ええ、やっぱりその方が凄そうですし、マスター殿のしもべとして相応しいかと」
そして、他のエルフ達も、イーズの真似をし始める。
「はっ!? 私とした事が! 手抜かりが……」
「いや、シャツをめくって本当にお腹を見せるな」
「ですが、直接の方が……」
「ですがじゃ無い。それはダメ!」
外ではそういった、はしたない行為をしない様に厳重注意をした。
その後は、新しくウチの土地になった場所を見て回って、無事に帰る。
そうしたら、同行しなかったエルフ達全員の頭を撫でる事になった。
あ、ウサギ達、後で撫でてあげるから、割りこんじゃダメだぞ。
……左手が空いているから、そっちで撫でろとな。
それなら、割り込みじゃ無いのか。
もう、仕方が無いな。
ああ、イーズがウサギ達の後ろに並んで……。
キラリは、右手側のエルフ達の後ろに並びなおすんだな。
左手で撫でるだけじゃ、満足できなかったか。
よし、徹底的に皆を撫でるとするか。




