133 自然薯(じねんじょ)を掘れる様にする
ハロウィンが終わると、世間的に次の大規模イベントはクリスマスになるだろうか?
ウチの場合だと、11月いっぱいでその年のキャンプ場の営業を終えるので、ちょっと縁の無い話になる。
紅葉は見ごろのシーズンになるので、キャンプついでにハイキングに来るお客さんも多い。
今年は山道を整備してあるし、目印になるポイントも沢山設置しているので、散策しやすいと評判だ。
そんな中、渋めの催しをしたいかなと思いついた。
常連の山中さんに意見を訊く。
「山中さん、周辺の自然薯の場所って把握してます?」
「ああ、うん。大体はね」
「山籠もりには必須ですかね?」
「掘って食料にしたりはするけど、無ければ無いで何とかするよ。訊いてくるって事は、自然薯掘りの体験会とかしたいって事だよね?」
話が早くて助かる。
常連さんの楽しみも大切にしたいし、新規のお客さんも取り込みたい。
なるべく両立するように、気を付けたいところだ。
自然薯とはヤマノイモの事。
摩り下ろしたら、トロロになる。
それをお客さん自身が掘って食べてもらうという、山の恵み体験の催しを思いついた。
深く長い穴を掘る必要があるから、斜面を崩してしまうので、採集を禁止している山もあるという。
けれど、ウチの場合は手軽に地形を調整できるから、問題無い。
そういう事で、山の整備に向かう。
今回はレイナスと2人で山に入る。
「私はマーカーのチェックと地図の確認がメインなのね」
「ああ、どこに自然薯があるか目立つようにしたいからな」
山の中をピクニック気分で歩き、自然薯の蔦を探す。
生えているのを見つけたら、折らない様に気を付けて掘り、収穫できたら魔法の鞄にしまう。
その掘った場所をクワモードで耕し、新たな自然薯の種を植える。
なるべく折れにくくて、摩り下ろすと美味しくて、天ぷらにも合って、育つスピードは速いけど、周りはあまり侵食しない感じで……。
そうイメージして、自然薯の種である『むかご』を召喚した。
それを植えたら、近くに目立つようにマーカーを立てる。
ダンジョンマスターの力を使えば、どこにどんな植物があるのか瞬時にわかるけど、今回は足と目で探す。
「探索するって事よね?」
「そう。だから、レイナスと一緒にな」
「あら、じゃあ、今日の私はマスターのダンジョンを攻略する探索者になるわけね。久しぶりだわ」
「そうそう。お宝は、自然の恵みだから、簡単にはいかないな」
「腕がなるわね」
そう言ってレイナスは腕まくりをしながら、ウインクをする。
俺もウインクを返してみたら、「マスターは下手ね」と笑われた。
「でも、好きよ」
だったら、良いか。
レイナスは気合の入り方が変わり、サクサクと自然薯を見つけていった。
彼女は調べる、見つけるというのが、とても好きなのだ。
山を歩いて数十分程度の範囲で、自然薯を探し、そこに新しく植えてゆく。
掘るにも時間がかかるから、あまり遠くまで範囲を広げないで良いだろう。
新しく植えた場所では、毎日自然薯が掘れた。
よほど乱暴に掘らなけらばポキリと折れる事も無いので、初心者でも大丈夫だろうと思う。
収穫した物を食べてみる。
今回は、シンプルに麦とろご飯にしてみた。
まず、フリーズドライの麦飯を戻す。
そして、自然薯を擦る。
「先に全部皮を剥いちゃうとやりずらいからな」
「ぬるっとするから、先の方だけ剥くのね。使うのは、このおろし金で良いの?」
「そうそう、目の細かい方な」
レイナスはシャリシャリと自然薯を擦る。
「写真だと、もっとドロッとした感じだったけど、そうでも無いのね」
「そこから、すり鉢で更に擦るんだ」
あぐらをかき、膝の間にすり鉢をはさんで、すりこぎ棒をシャシャっと回す。
「空気を混ぜる感じにすると、トロトロになるぞ」
「あら、本当ね。……でも、どちらかと言うと、ドロドロになったわ」
「まあ、粘りが強いからな。白みそのお汁をちょっとずつ混ぜて」
「ああ、うん、スルスルになったわね」
良い塩梅になったら、麦飯にかけて完成。
シンプルな、麦とろご飯だ。
刻みネギや海苔はお好みで、だな。
麦飯の少し硬い食感と、トロロのスルスルとしてネバっとした食感が、非常に美味い。
「不思議なイメージだけれど、お昼に合うって感じね」
「そうだな、軽くランチにって感じだな」
脂っこい物をおかずとして食べるなら、夕食にもピッタリだろう。
けれど、シンプルに漬物とお味噌汁で食べるなら、お昼ご飯に合う気がした。
ただ、量はいくらでも食べられる感じだな。
麦飯だけで、1合や2合はいけそうだ。
レイナスも、スルスルっとトロロを啜りながら、もぐもぐと美味しそうに食べていた。
その後、紅葉狩りするお客さんに、自然薯ポイントを案内すると、けっこう喜んでくれた。
掘り方が分からないお客さんは、ウチの採集に同行するって感じで付いてきてもらい、その後で、摩り下ろして食べる。
フリーズドライの麦飯が大活躍して、これも好評だった。
太いリピーターを掴んだ手ごたえを得た、良い経験になったと思う。




