127 ダンジョンへの侵入者
ヒョウタンにワインを入れるとブランデーになった。
日数が経つほど熟成が進んで美味しくなる。
それでは、水ならどうなのか?
結果は、普通の水だった。
けれど、悪くなっている感じでは無いので、抗菌力は高いのだろう。
かなり優秀なヒョウタンとわかる。
他の酒ならどうなるか、後で買って来て試してみようと思う。
そんなヒョウタンでできたブランデーをチビチビやりながら、キャンプ場の改善案を練るのが、最近の夜の楽しみになっている。
因みにだが、水晶のダンジョンの外の異世界側と日本は、ほぼ同じ時間が流れている。
そんな、ある夜。
闇夜に乗じるかの様に、水晶のダンジョンサイトへ侵入する集団があった。
外套をまとって、フードを被っているので、どんな人種かよくわからない。
コア達によると、透過スキャンができるみたいだけれど、それはもうちょっと様子を見てからにしようか。
盗賊とかだったら問答無用で良いけれど、そうじゃなかったら色々と問題が起こりそうだ。
謎の集団は、魔人帝国や鬼人王国の保養所前にある待機部屋に入ると、何やら調べるそぶりを見せて立ち去ってゆく。
……『人数分のお金を入れてください』の案内板を見て、荷物を確認してから待機部屋を出ているから、金欠なのかな。
扉の先に入れないとなると、ダンジョンの奥の方へとずんずん進む。
数十人は居る感じだな。
けっこうな集団だ。
水晶のダンジョンは、実入りが無いダンジョンとして噂が広まっているから、今更来るのは探索者じゃ無いはずだ。
それなのに奥に進もうとするのは、非常に怪しい。
ここは注意をしておこう。
いきなり転移して現れたら驚かれるし警戒される。
ここは、ダンジョン内アナウンス通信を起動して――
「天樹の森キャンプ場・水晶のダンジョンサイトへようこそ。どんなご利用ですか?」
どんな時だって、挨拶は大切だ。
俺の挨拶をうけて、謎の集団は死角をカバーする様に円陣を作り、構えを取った。
戦闘態勢だな、これは。
今回も話し合いは通じないのだろうか?
武力を示さないとならないのだろうか?
異世界人相手に下手に出ると相手がつけあがるから、高圧的に対応するようにってレイナスやラキは言うけれど、どうにも慣れない。
しないといけないのかなぁ。
レイナスとラキに、意見を訊いてみた。
「問答無用よ」
「軽く倒しちゃった方が良いぞ」
やっぱりか。
一応、アミリアとマミリアの双子にも訊いてみる。
「「侵入者は皆殺しにするべきです」」
もっと厳しかった。
よし、あんまり考えても上手くいかないだろうから、下手になりすぎず高圧的になりすぎずで、自分らしくしてみよう。
それで上手くいかなかったらその時だ。
謎の集団に、再び声をかける。
「こちらは無暗に敵対するつもりはありませんよ。今日はどんな御用ですか?」
そう声をかけたら、集団の中の1人が声をあげる。
代表者なのかな?
「こちらを騙そうとする者ほど、そういう事を言う。卑怯に隠れていないで、姿を見せたらどうだ?」
あら、なんか俺が悪者みたいに言ってきたぞ。
「何か誤解が無いかな? ここは俺のダンジョンなんだけど、その中で何をしようとしているかって聞いているんですよ?」
「我々が何をしようと、卑怯者が知る必要は無い」
やっぱり、姿を現せって事なんだろうな。
取り合えず、現場に行った方が良いか。
レイナスたちに声をかけて転移しようとする。
「待ってちょうだい、マスター。1つ考えがあるわ」
レイナスが言うには、俺がそのまま出て行ったら大概の人は侮ってくるとの事。
だから、魔力を練り上げてそれを纏った姿を見せた方が良いと言う。
「そんなの、どうやってするんだ?」
「イメージが大切なのだけれど、危機的な状況を思い浮かべてみてちょうだい」
ピンチな感じか。
それって、漠然とした事じゃなくて、具体的な事の方が良さそうだよな。
この前、外でトイレに行きたくなったけど、行ける状況になれなくて、凄くピンチだった事があった。
車の運転中に、大きい方をしたくなって、コンビニも見当たらず、信号は必ず赤につかまって――
「す、すごいぞ、マスター。魔力がもりもり高まってるぞ」
「ええ、ピリピリと肌を焼くほどの魔力だわ」
上手くいった様だ。
コア達によると、通常の100倍以上の魔力を放出しているのだとか。
それって、息切れとかスタミナ切れみたくならないか?
……大丈夫か。
よし、それなら、侵入者の元へ転移してみよう。




