125 お手軽スコーン
ワイン類は美味しいものが手軽に大量に造れるようになった。
日本酒の方は、まだ時間が必要になりそう。
じっくり取り組む。
お酒の卸先のメーカーと面談して、どういう方向性でゆくかも決める。
試飲してもらえば、メーカーの人は確かな手ごたえを感じた様子。
薄利多売では無く、高級品路線で行くという事だ。
けれど、いきなりそれで通じるのか心配になる。
どうやら、ウチの特大松茸は富裕層の間で非常に有名で、それの出荷元の作物を使ったお酒となると、良いイメージを演出できるという。
それでブランドイメージを固めてから、普及品を広めるつもりらしい。
味の細かい調整は、メーカー側でするから、ウチは最大限美味しいと思う物を作れば良い事になった。
俺の仕事は『ワインが美味しくなぁれ』と気合の祈りを込めて種を召喚するだけである。
この気持ちの込めようで、味の違いが出てくるので侮れない。
きっと魔力が込められているのだと思う。
種を蒔いたら、後はクリスタルゴーレム達が働いてくれる。
彼等はワーカーホリックな感じがあるので、時折労いたいと思う。
家の地下の流れる温泉のかき混ぜ役は、彼等にとってその日の役得らしい。
直接俺の為に働くのが幸せと思ってくれている様だが……もうちょっと、ちゃんと労おうと思う。
鉢植えにした自然発酵するブドウの木は、家にも1つ置く事にした。
皆、好きな時に摘まんで食べている。
発酵し過ぎて破裂しそうな物は、予めコズミンが食べてくれていた。
たまに、コズミンの体内からポコっと泡が立つが、炭酸ガスの影響の様だ。
コズミンによれば、身体の内側から撫でられているような感覚になって楽しいらしい。
気に入った様で良かった。
そんな感じで過ごす秋の日。
ラキが、何かを練り練りと捏ねていた。
鬼人は丸薬作りが得意で、ラキはその中でも名人だという。
今日は何を作っているんだろうか?
「スコーンを作るんだぞ」
丸薬ではなかったようだ。
「そう言えば、ラキが料理をする姿を見るのは初めてだな」
「こっちの食材がどう使えるか分からなかったからな。勉強したから、これから作るんだぞ」
科学実験は調理に通じると聞くし、丸薬作りが得意なら、料理も上手いだろうとうかがえる。
今は、昨日仕込んだ生地を、捏ねて整えオーブンに入れる所らしい。
小麦粉に、べに花油をちょっとずつ加えて練り、豆乳も少しずつ加える。
良く混ざったら、自然発酵ブドウの3日目の物を入れて、軽く潰しながら混ぜる。
そして、1晩寝かせたら、オーブンで焼いてできあがり。
「少しふっくらした感じのスコーンだな。ブドウの酵母で生地が発酵したからか。美味しい」
「そうだろ? 有る物を利用の簡単レシピだぞ」
確かに、全部ウチで簡単に手に入る材料だ。
何でバターを使わないのかって思ったけど、冷蔵庫を見たら切れていた。
今度買ってこよう。
「何か作る時に足りない材料があったら、遠慮なく言ってくれな」
「色々試したい料理があるんだ。その時はお願いするぞ」
「ああ、何が出てくるか楽しみにしてるよ」
ラキの焼いたスコーンを持って、裏庭へゆく。
ガラテアにも声をかけて、ハーブティーを淹れてもらった。
今日は3人で午後のお茶タイムだ。
「舌触りが良いデス。このスコーンはお茶に合いマス」
「あはは、それは良かったぞ。ガラテアがスコーンを作るとしたら、何を混ぜるんだ?」
「そうですネ……ガラテアなら抹茶を混ぜマス」
「それは面白そうだぞ。じゃあ、次は一緒に作ろう」
それから、一緒にお菓子作りをする2人をよく見る様になった。
おそろいのエプロンも着けていたりする。
仲が良い事は何よりだ。
「ラキの丸薬の知識は参考になりマス」
「ガラテアのハーブティーも独特で凄いぞ。勉強になるぞ」
そういう方面でも気が合ったようで、何よりだ。




