120 夏の終わりに
怒涛のお盆期間を過ぎて、少しずつ、客足が落ち着いてきた。
夏休みの収束を感じる。
この時期はテントサイトにペグの抜き忘れを見つける事が多い。
ペグが残っていると、その後のお客さんが怪我をしたり、テントを破損させかねないので、しっかりと探す。
けれど今年は、ダンジョンマスターの能力で全体を把握できるから、探すのが楽で助かっている。
そんな感じで、秋に季節が移ろい始めたなぁと思う8月の終盤。
この日は高校生だと言う5人組の予約があった。
一番暑い時間帯にウチへ到着し、皆汗まみれだった。
ウェルカムドリンクのスイカと豆乳のスムージーは、彼女達の身体に染み渡っただろう。
遠慮がちにお替りを欲してきたので、快く振舞った。
そこまで汗をかいていたのは、暑さの所為だけではなく、自転車で来たからだという。
彼女達の自転車は、スポーツタイプでは無く、いわゆる『ママチャリ』だった。
街からウチまでは20km、麓からでも10kmはあるので、その距離を登ってきたとなると、随分と冒険した物だと感心する。
施設の利用説明をして、テントサイトへ案内する。
アウトドアの経験は少ないそうなので、テントの張りやすい場所を案内した。
少女達が夏の終わりに思い出作りをするとなると、つい応援したい気持ちになる。
暫くすると、5人が小声で言い合いをしながら、管理事務所まで来た。
「あのー、ガムテープってありますか?」
聞くと、テントのポールを折ってしまったらしい。
6か所も。
どうして、そんなにまで……。
聞けば、テントを張れた事でテンションが上がって、5人で室内に突入したら盛大に転んで、全体を巻き込んで折ってしまったと……。
それはもう、補修でどうにかなるレベルじゃ無いよな。
当然ガムテープだけじゃ修理は無理だ。
何かで添え木をして巻けば強度は出るけど、6か所もあったら1晩もつだろうか。
補修キットは置いてあるけど、ここはちょっと違う提案をしてみる。
「野宿なんてどうかな?」
彼女達は銀マットと寝袋を持っていた。
それなら、テントサイトでタープを張れば、今の季節なら気軽に野宿ができる。
タープの高さを低くして蚊取り線香を焚けば、虫の問題も少なくなる。
面白そうだとの事で、タープを貸してあげる事にした。
アウトドアメーカーの物では無く、建築用のハウスラップで作った格安超軽量の自作品である。
デカデカとカタカナで商品名がプリントされているので、その辺はペンキで塗りつぶしてある。
迷彩風にしたので、遠めに見ればそれなりの品だ。
近くで見ると秘密基地感がするので、俺は気に入っている。
彼女達と話をすると、用意された何かを楽しむよりも、自分達の手で何かを楽しみたいと思っているように感じた。
なので、ウチのモノポールテントや既製品のタープを提案するのは野暮に思えた。
ロープワークの手本を見せながら、彼女達にタープを張ってもらう。
こういった事も自分達でするから思い出になるだろう。
彼女達はちょっとした事でも笑い合いながら、設営をしていった。
夕闇が迫る頃。
今日の仕事は落ち着き、後は薪の補充を求めるお客さんが来るくらいかなぁと、夕食の支度をしている頃。
高校生の彼女たちが、また事務所の方に来た。
今度は、タープのお礼にと、おすそ分けを持って来てくれたみたいだ。
紙皿に、たっぷりとスモアが並んでいる。
クラッカーの上にこんがりとろ~りマシュマロが乗っていて、更にチョコレートがトロっと乗っていた。
とても美味しそうだ。
こちらもお返しに、燻製リンゴと各種ドライフルーツの詰め合わせを渡す。
遠慮されたが、お礼の気持ちが嬉しかったので、受け取ってもらった。
それから先は、彼女達がどんな感じで夜を過ごしたのかは知らない。
けれど、チェックアウトをする時の5人は皆が充実した良い顔をしていた。
後日、ウチのメールアドレスに、彼女達から写真が届いた。
高校生らしく可愛くデコっていて、良い思い出を作れたんだなぁとわかって、とても嬉しかった。
低いタープに蚊取り線香は、煙いですが慣れると手軽で良いと思います。
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