表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/175

120 夏の終わりに

 怒涛のお盆期間を過ぎて、少しずつ、客足が落ち着いてきた。

 夏休みの収束を感じる。

 

 この時期はテントサイトにペグの抜き忘れを見つける事が多い。

 ペグが残っていると、その後のお客さんが怪我をしたり、テントを破損させかねないので、しっかりと探す。

 けれど今年は、ダンジョンマスターの能力で全体を把握できるから、探すのが楽で助かっている。

 

 そんな感じで、秋に季節が移ろい始めたなぁと思う8月の終盤。

 

 この日は高校生だと言う5人組の予約があった。

 一番暑い時間帯にウチへ到着し、皆汗まみれだった。

 

 ウェルカムドリンクのスイカと豆乳のスムージーは、彼女達の身体に染み渡っただろう。

 遠慮がちにお替りを欲してきたので、快く振舞った。

 

 そこまで汗をかいていたのは、暑さの所為だけではなく、自転車で来たからだという。

 彼女達の自転車は、スポーツタイプでは無く、いわゆる『ママチャリ』だった。

 街からウチまでは20km、麓からでも10kmはあるので、その距離を登ってきたとなると、随分と冒険した物だと感心する。

 

 施設の利用説明をして、テントサイトへ案内する。

 アウトドアの経験は少ないそうなので、テントの張りやすい場所を案内した。

 

 少女達が夏の終わりに思い出作りをするとなると、つい応援したい気持ちになる。

 

 暫くすると、5人が小声で言い合いをしながら、管理事務所まで来た。

 

「あのー、ガムテープってありますか?」


 聞くと、テントのポールを折ってしまったらしい。

 

 6か所も。

 

 どうして、そんなにまで……。

 

 聞けば、テントを張れた事でテンションが上がって、5人で室内に突入したら盛大に転んで、全体を巻き込んで折ってしまったと……。

 

 それはもう、補修でどうにかなるレベルじゃ無いよな。

 当然ガムテープだけじゃ修理は無理だ。

 何かで添え木をして巻けば強度は出るけど、6か所もあったら1晩もつだろうか。

 補修キットは置いてあるけど、ここはちょっと違う提案をしてみる。

 

「野宿なんてどうかな?」

 

 彼女達は銀マットと寝袋を持っていた。

 それなら、テントサイトでタープを張れば、今の季節なら気軽に野宿ができる。

 タープの高さを低くして蚊取り線香を焚けば、虫の問題も少なくなる。

 

 面白そうだとの事で、タープを貸してあげる事にした。

 アウトドアメーカーの物では無く、建築用のハウスラップで作った格安超軽量の自作品である。

 

 デカデカとカタカナで商品名がプリントされているので、その辺はペンキで塗りつぶしてある。

 迷彩風にしたので、遠めに見ればそれなりの品だ。

 近くで見ると秘密基地感がするので、俺は気に入っている。

 

 彼女達と話をすると、用意された何かを楽しむよりも、自分達の手で何かを楽しみたいと思っているように感じた。

 なので、ウチのモノポールテントや既製品のタープを提案するのは野暮に思えた。

 

 ロープワークの手本を見せながら、彼女達にタープを張ってもらう。

 こういった事も自分達でするから思い出になるだろう。

 

 彼女達はちょっとした事でも笑い合いながら、設営をしていった。

 

 夕闇が迫る頃。

 今日の仕事は落ち着き、後は薪の補充を求めるお客さんが来るくらいかなぁと、夕食の支度をしている頃。

 

 高校生の彼女たちが、また事務所の方に来た。

 今度は、タープのお礼にと、おすそ分けを持って来てくれたみたいだ。

 紙皿に、たっぷりとスモアが並んでいる。

 クラッカーの上にこんがりとろ~りマシュマロが乗っていて、更にチョコレートがトロっと乗っていた。

 

 とても美味しそうだ。

 

 こちらもお返しに、燻製リンゴと各種ドライフルーツの詰め合わせを渡す。

 

 遠慮されたが、お礼の気持ちが嬉しかったので、受け取ってもらった。

 

 それから先は、彼女達がどんな感じで夜を過ごしたのかは知らない。

 けれど、チェックアウトをする時の5人は皆が充実した良い顔をしていた。

 

 後日、ウチのメールアドレスに、彼女達から写真が届いた。

 高校生らしく可愛くデコっていて、良い思い出を作れたんだなぁとわかって、とても嬉しかった。



低いタープに蚊取り線香は、煙いですが慣れると手軽で良いと思います。


ブックマークや評価を、良かったら宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ