117 天体観測会
8月も半ばに入り、暑さが本番の時期になった。
天候操作で敷地内の気温は最大30℃に設定しているから、厳しい暑さにまでは感じない。
夕方に買い出しをするのに街へ出ると、そのうだる感じで身がとろけそうになる。
日中はどれ程の高温になっているのだろうか。
ずっとこの環境でいたら、身体が持たないよな。
天候操作は必要な処置だと、心に強く思った。
気温もそうだが、天気自体も気になる日が多い。
今の所はまだ大丈夫だけれど、ゲリラ豪雨で大変な事になる時もあるかもしれない。
お客さん用の避難場所も確保しないとな。
今の所は、薪の乾燥小屋が広く屋根もあるので、緊急避難場所になる。
いずれもっとしっかりとした建物を用意する事にしよう。
そして天気が気になると言えば、夜間のイベントとして、天体観測会を企画した。
これは晴れてもらわないと、企画が成り立たない。
……もし、曇りだったとしても、30分位は雲を散らしても大丈夫かな?
そんな感じで思っていたけれど、観測会の当日は良く晴れた。
今回の目的はペルセウス座流星群の観測だ。
今年は、月が明るく出ているから、月の入り時間になる日付の変わった頃の北の空を見るのが良いとネットの情報があった。
詳しくないので、とても助かる情報だ。
観測会を開くに当たって、天体望遠鏡を数台購入した。
流星の見ごろまで時間があるから、他の天体も観測する狙いだ。
これはスマホと連動してアプリで星を探せたり、写真を転送できたりする。
探しやすく、思い出に残しやすいのは、初心者にとって重要と思う。
観測会に参加しないお客さん達にも協力をお願いして、灯りを少なくしてもらう。
望遠鏡で月のクレーターを見たり、土星の輪っかを観測したりして、気が付いた。
俺、土星の輪っかが肉眼で見えるな。
そうか、コア達が解像度を上げてくれたのか。
木星の大赤斑の渦も肉眼でクッキリだな。
コアの数がもっと増えたら、電波望遠鏡みたいな事も可能だって?
それは凄いな。
ウチのコア達は優秀だ。
おお! 星の位置関係も把握したのか。
望遠鏡の向きを合わせるのに、アプリや星図を見ないで素早くピタリと行えるから、非常に助かる。
「わぁ! 図鑑で見たのと一緒だよ!」
天文に興味がある女の子が興奮の声を上げていた。
図鑑と一緒というのは重要だ。
知識の蓄積や継承を感じられるからね。
それに、図鑑で見た物と、実際に見た物の違いがあったら、そこから疑問が生まれて、その先には未来の大発見があるのかもしれない。
夏の時期は特に思うけど、子供が楽しんでいる姿を見ると、キャンプ場をやってて良かったと思う。
時間が遅くなり、日付が変わると、地面に寝ころび北の空を仰ぎ見る。
流星が見えたら星図に書き込み、30分でどれだけ観測できたかの記録を、皆でとる事にした。
「ねえ、マスター。ここでは星に願いを込めるんでしょう?」
隣で横になるレイナスが訊ねてきた。
そう願ったから、今があるとも言えるかな。
思いや気持ちを表現するのは、良い事だよな。
「そうだな。そういう曲もある位だ」
「マスターは何を願うのかしら?」
「お客さんにもっと楽しんで貰えるようにと、家族とずっと幸せに居たいって事かな」
「あら、2つなんて贅沢。でも、マスターなら大丈夫ね」
「そうなる様に、楽しみながらやってゆきたいね。レイナスは?」
「そうね、私は――あ! 流れたわ!」
流星にかき消された。
言葉にして来ないけど、手を握って来るのが答えって事で良いのかな。
うん、困ったな、これじゃ観測記録が書けないぞ。
そうだね、片方が星図を持って、もう片方がペンを持てば良いか。
この日は沢山の流れ星を観測した。




