116 ハンモック
「……ぅにゅぅ……もっと寝られるのじゃ……」
昼寝をしている天狐は、夢の中でまで寝ている様だ。
ソファーからずり落ちて、巫女装束がはだけまくっている。
旅館に泊まって浴衣で寝ると、翌朝酷い状態になるが、そんな感じでだらしない。
せめてソファーに寝かし直そうと抱え上げる。
よいしょ。
「……んむ? 日が高いと言うに、主殿は盛んじゃのう」
「ソファーから落ちてたから戻してやろうと思っただけだよ。起きたなら、ちゃんとしろ」
「嫌じゃ。昼寝の時間はあと30分ある」
「だから、足を絡めてくるなよ」
「腕なら良いのじゃな?」
「……そういう意味じゃないから」
ペイっと天狐をはがして、ソファーに放り投げた。
「いけずじゃのう」
「意地悪じゃなくてケジメだよ」
「むぅ、主殿はもっと妾を甘やかしても良いと思うのじゃ」
「これ以上甘やかしたら、天狐の身体が砂糖になっちゃうんじゃないか?」
「まったく、いけずじゃ」
もっと甘やかせと天狐は言うが、実際の所は雑に扱ってもらった方が気が休まるらしい。
現に、この前甘やかしてみたら、3時間でギブアップした。
逆にプレッシャーに感じてしまったようだ。
そういう事なので、適度に働いてもらう。
「ほれ、起きろ。ちょっとやってもらいたい事がある」
「放り投げておいて、勝手な男子じゃの」
天狐の手を引っ張って、起き上がらせる。
……着替えも必要だな。
外でしてもらいたい事だから、うっかりポロリとなったら事だ。
ラフな恰好でも良いから、Tシャツとホットパンツになってもらった。
そして外に出る。
「暑いから嫌なんじゃがのう」
家の裏手で試しにハンモックを張った場所に、うんざりした顔の天狐を連れてきた。
どうせ昼寝するなら、こっちを使ってもらって、その感想を聞きたい。
使い勝手が良ければ、今後のキャンプ場設備に導入したいと考えている。
俺が使おうと思っていたけど、天狐を起こしてしまったので、後で見られたらちょっとバツが悪いと思ったのは内緒だ。
揺れるハンモックに天狐が寝て、幾らか時間が過ぎる。
「どうだ?」
「うむ、ちと腰回りが沈み込み過ぎじゃな。妾は平気じゃが、腰を痛める者が出そうじゃ」
そう、ハンモックは快適と思われがちだが、セッティングが合わないと拷問器具の様になる。
今の天狐が使った感じだと、寝そべって使うよりはブランコの様にして使った方が快適なのだ。
「こりゃ! 分かっておるなら試さすでないわ!」
「ああ、すまん。一度悪い方を体験してもらった方が、良い方との違いがわかると思ってな。10分もさせてない訳だから許してくれ」
「くぅ、今宵は覚悟せい」
「ああ、覚悟しておく」
「まったく……そう朗らかに微笑むで無いわ。ずるい男じゃ」
今度は、ハンモックの両端に棒を組み入れ、幅を広くして使ってもらう。
こうすると、腰の位置で沈み込み過ぎず、寝返りもうてたりする。
「うむ、これなら良い塩梅じゃな。もう、今日の妾は何もせぬぞ。主殿が悪いんじゃからな」
「ああ、長い時間使って、その感想を宜しく頼む」
「そうじゃの、うっかり間違った感想にならぬ様に、色々試す必要があるの。揺らしてたもれ」
促されたので、ゆっくりと左右に揺らした。
この際だから、団扇でも扇いでやる。
「はう、涼やかじゃの」
「何か飲むか?」
「……そうやって、後で妾を働かせる気じゃ。やはり、いけずじゃ」
「そんなつもりじゃ無いから、警戒するな。じゃあ、後でガラテアにアイスティーでも頼んでおくよ」
「うむ、妾は寝直す事にするのじゃ」
そうして天狐は夜までハンモックで休んでいた。
問題も無く快適な様なので、お客さんに使ってもらう分を用意する事にする。
天狐は相当気に入った様で、家の裏で昼寝をするのが天気の良い日の習慣になった様だった。




