109 イノシシは脅威
夏休みシーズンに入る。
スイカと豆乳のスムージーはウェルカムドリンクとして振る舞う事にした。
美味しいから、凄く評判が良い。
念の為、どちらかにアレルギーがある人に向けて、塩タブレットも何種類か用意した。
これで、お客さんの熱中症がゼロになってくれたら良いな。
今年は、妖精の隠れ里サイトと、バオバブの木登りサイトを新規に作って、更には洞窟サイトも作った。
そして、ちゃぷちゃぷ程度の水遊び場として滝を幾つか設置した。
なかなか充実しているので、今年のお客さんの満足度は高いんじゃないだろうか?
アミリアとマミリアも連絡要員の仕事が無い時はウチで働いてくれるので、手が増えて助かっている。
今日は、キャンプファイヤーがしたいというお客さんの要望に応える為、丸太を乾燥小屋から運んできた。
斬撃を強化をした影響が体になじんで来て、上がった筋力も遺憾なく発揮している。
お客さんの男の子から、尊敬の眼差しを受けた。
照れる。
そうして、丸太を組み終わった夕方。
コア達から警報が届く。
敷地内で異常が起こった様だ。
転移するのに人目につかないように、家に戻って急いで現場に向かう。
そこでは、スライムの1体が、でろんと構造物をこぼしながら倒れていた。
そして、コズミンは、怒りの感情を露わにしながら、体内に取り込んだ異物を消化している。
スライムが敵に襲われて大怪我をし、その敵をコズミンが倒したようだ。
急いでスライムに回復薬をかける。
傷はすぐさま塞がり、何事も無かった様に元通りになった。
うんうん、プルプル震えて、怖かったな。
助かって良かった。
コズミンによると、最近畑のエリア近くにイノシシがやって来る事が多いらしい。
認識阻害のトラップをかけているので、畑に入って来る事は無いが、匂いが広がっているので、何かあるのではと、周囲をウロウロしているのだとか。
それで、キャンプ場から畑に来ているスライムがそれと遭遇してしまい、鋭い牙で攻撃を受けてしまったのだそうだ。
春先に常連の山中さんが、イノシシの移動が例年と違うと言っていた。
だから、用心の為に認識阻害の範囲を拡大していたのに、イノシシの執着はそれを上回っていた。
俺の認識が甘かった様だ。
スライムには怖い思いをさせてしまって、悔やんでも悔やみきれない。
スライムを襲ったイノシシはコズミンが倒したが、まだ付近には沢山居る。
コア達にサーチしてもらうと……凄いな。
近年は、猟師さんの数が減ったのと、狩るのに使う罠の規制が厳しいのとで捕獲量も少なくなって、イノシシ自体は大繁殖している。
そして、人を恐れなくなっているから、平気で里に下りて来る。
更には、里に居る人間は武器をもっていないと舐めているので、平気で人を襲う事もある。
始末に悪い。
なので、始末しようと思う。
何も、根だやしにするのでは無い。
ウチに近づいて、ウチの可愛い子達やキャンプ場のお客さんに危害を加えるような奴だけ始末するのだ。
方法は簡単。
天然の餌を沢山用意して、そこに集まったのを一網打尽にする。
まず、天然の餌となる『どんぐり』を大量に用意する。
大粒のどんぐりを実らせて、イノシシにとって好ましい匂いを発する木を育てたい……と念じて木の種を召喚。
こぶし大のどんぐりが出た。
日本で1番大きなどんぐりである、『オキナワウラジロガシ』のよりも大きいな。
それを沢山植える。
そして、そこを含めて半径100m程一帯の地盤を、6m切り下げる。
イノシシは2m程度の高さならジャンプして飛び越えるというので、その3倍だ。
取っ掛かりの無い滑らかな崖に囲まれた窪地ができあがった。
崖の周囲に、地面が続いているかのように見えるトラップを設置。
これで、どんぐりに誘い込まれたイノシシは、不自然に脱出不可能な天然の窪地へと落ちるだろう。
イノシシホイホイの完成だ。
これを敷地内に多数作る。
念の為、人が入って来た場合を考えて、『この先危険』のマークと蛍光カラーのテープを周囲にぐるりと設置した。
「くははっ、今に見ておれ、イノシシどもよ。ウチに手を出した事を後悔させてやる……っ!」
自分の領域を荒らす不埒な者どもに、甘い報酬を用意し誘い込み、罠をはって一網打尽にする……。
俺、今までで一番ダンジョンマスターをしている気がする!
その後、沢山のイノシシがホイホイされていた。
無限に実る巨大どんぐりを、無邪気に食べまくっている。
これは、どんぐりを食べて育ったイベリコ豚みたく、凄く美味しくなるんじゃないか?
なるだろうな、ウチのどんぐりを食べているんだから。
よし、このまま猟期まで放置して、冬になったら食べる事にしよう。
今年の冬は肉に困らないぞ。
今から楽しみだ!




