107 お客さんが熱中症にならないように
7月も半ばを過ぎて、夏休みシーズンが迫って来る。
「暑いわね」
「暑いのじゃ」
「「私たちは平気です」」
「ガラテアも平気デス」
暑さにやられているのが2名。
やせ我慢をしているのが2名。
本当に大丈夫なのが1名だ。
アミリアとマミリアは、ちゃんと水分と塩タブレットを取るように。
汗がダラダラだぞ。
朝の見回りを兼ねた散歩で、もう暑さの洗礼を受けている。
ウチは山の中なので街の方よりは涼しいのだが、熱波の影響で全国的に高温警報の様だ。
これは、今年も暑くなるのだろうか?
去年は殺人的だった。
今年もそうなるかもと考えて、対策はした方が良いな。
まず手軽に思いつくのが、天候操作の1つで気温を下げる事。
これは頻繁に行うと周囲の環境に大きな影響を与えるだろうから、あまりやりたくない。
けれど、連日体温を超える様な気温になるのは異常な状態なので、多少下げても良いんじゃないかと思われる。
親父が子供の頃って最高気温が30℃を超えるなんて稀って言ってたしな。
なので、最高気温が30℃を超えない様に設定して、それよりも低い時は自然に任せよう。
この気温調整は、ウチのダンジョンとして認識されている土地でしか効果は無い。
土地の境界付近では、熱気が流入して周囲と変わらないだろうけれど、キャンプ場付近は奥まった所にあるので、その影響は少ないと思う。
「この程度なら、何とか大丈夫ね」
「妾はもっと涼しくても良いのじゃ。何だったら、氷を所望するぞえ」
クーラー全開で冷気レンガも多数設置してある家に戻ったら、かき氷を食べる。
双子たち、頭がキンキンするのは毒じゃ無い。
冷房の効いた部屋で、熱いハーブティーを飲みながら、かき氷という退廃的な所業をしつつ、次の暑さ対策を考える。
大局的に気温の対策はした。
そうなると、次は局所的にどうするかだ。
局所的に温度を下げるのに『打ち水』を考える人は多いだろう。
だが、これは大きなミステイク。
焼けた石に水を掛ければ、サウナになるのだ。
打ち水をするなら、土砂降りレベルで水を掛けない事には話にならない。
それは、アスファルトの上の話で、山の中なら問題無いじゃないかと思われる事もあるだろう。
だが、ここにも1つ落とし穴が。
……ウサギ達が掘った穴の事じゃ無い。
だから、穴を埋めるって話じゃ無いから、ウサギ達は動揺しないでくれ。
話を戻す。
木陰なら涼しさがあるが、芝生や野っ原になっている部分は要注意なのだ。
そういう場所は、草いきれで低い位置の湿度が高い。
すると、ある程度の高温になった際に、汗の調節が効かなくなって、熱中症のリスクが爆上がりする。
場合によっては、日中のアスファルトの上より危険らしい。
特に、子供や小動物が危ない。
なので、日中の避難場所を作る。
多少の水では『焼け石に水』なら、大量の水があれば良い。
そう、滝だ。
水源は綺麗な泉からにし、数mの高低差で3段の滝にする。
川砂を敷いて、裸足で入っても安全な様に
水深は浅く、くるぶし程度。。
子供がちゃぷちゃぷ遊びをしても大丈夫な様に、深い所は作らない。
それを、キャンプ場内で数か所作った。
▽▼▽
「水を蹴っ飛ばすなよ。転ぶぞ」
レイナスはズボンの裾をまくり上げた裸足で、水を蹴り上げながらはしゃいでいる。
「うふふ、気持ち良いわよ。マスターも一緒にどうかしら?」
俺も靴を脱いで入る事にした。
もわっと熱が籠った足に冷たい水がふれると、その清涼感が全身を駆け上がってくる。
足の指の間に、冷えた砂が入ってゆくのも面白い。
これは、蹴り上げてはしゃぎたくなるな。
おっと、ウサギ達。
今日は周りにお客さんも居るから、衝撃波を出さない様に要注意だぞ。
「――きゃ!」
ぱしゃぱしゃしていたら、レイナスは転んでしまった。
仕方ないな。
手をかしてやろう。
「ほら、起き上がって――」
ああ、油断した。
あの怪しい眼の光の時には、最大限に注意をしなければならないのだ。
俺はレイナスに腕を強く引っ張られて、2人でびしょびしょになった。




