106 危険な事
魔人帝国トラキスから、アミリア、マミリアの双子がやって来てウチに住む事になる。
ウサギ達を見て緊張がマックスになり、コズミンを見て気絶してしまった。
シャワーを浴びてもらい、夏にぴったり冷んやりココアを飲んで落ち着いてもらう。
「「大変お見苦しい所を御見せいたしました」」
彼女達はお嬢様育ちで、動物たちに慣れていないのだろう。
ウチはキャンプ場だから、虫も沢山出るし、やっていけるのか心配だ。
「大丈夫よ。トラキスで私以上にお嬢様暮らしをした女子は居ないわ」
非常に説得力のある、全く参考にならない皇女レイナスの言葉だった。
何カ月もダンジョンで単独行動できるお嬢様って他に居るのだろうか?
「「レイナス様以上のご令嬢は他にいらっしゃりません」」
「つまり、ダンジョン探索も、淑女の嗜みなのか?」
……双子は目を反らした。
うん、わかっている。
双子達は、動物に不慣れなんじゃ無い。
ウサギ達とコズミンが異世界では魔物扱いだから怖がられたんだ。
レイナスだって、今でこそ家族だけど、最初はすんなりいかなかったんだ。
やはり、異世界で魔物は危険な扱いなんだな。
ウチはキャンプ場だから、街では危ないからって禁止される様な事でも楽しめる施設でもある。
木登り、危険。
焚火、危険。
野宿、危険。
危険だけれど、それで害が出ない様に楽しむのがウチだ。
安全に楽しむには、それらがどういった行為なのかを知る事が大切だと思う。
もっと言えば、そんな状況にならない方が良いのは前提だけど、のっぴきならない災害に見舞われた時に、自分や家族の負担を軽減させるには、プリミティブな技術は知っておいた方が良いとも思う。
まあそれとは別としても、ウチの子達が異世界の人達にも怖がられない様に、その可愛さを少しでも多くの人に知ってもらいたいな。
その為にも、連絡要員として駐留する双子には頑張ってもらいたいと思う。
ウチに2人が住むとなると、部屋が足りなくなる。
家の広さは3LDKで、その内訳は俺の寝室、皆の物置部屋、ガラテアの衣装製作部屋となっている。
足りない分の部屋は、ダンジョン改変を駆使して地下に作っているので、双子の部屋もそうする事にした。
「「私達は馬小屋の隅でもお借りできれば十分です」」
そっちの方が準備するの大変だから、素直に地下室の部屋を使ってほしい。
双子の部屋を作ったら、レイナスから、里帰りをしていた時の様子を訊く。
お土産の農作物は非常に好評だったみたいだ。
好評過ぎて、争奪戦の決闘騒ぎが頻発したらしい。
「下手をしたら、国が割れていたわ」
「そんなにか」
「私も、そこまでとは思わなかったわよ」
「「大変美味しゅうございましたので、有力貴族の関心が多数向けられております」」
「そういう訳だから、不用意にウチの農作物をあちらに持ち込むと、争いの火種になりそうなのよね」
異世界の方は不作が続いて万年食料不足だと聞く。
肉類は狩りで賄っているが、農地では穀物を育てるのが手いっぱいで、野菜は壊滅的だとか。
だったら、ウチから少しでも食料支援はできないかなと考えていたが、下手に手を出すと、焼け石に水どころか火に油っぽい。
特に、無償の支援はダメだそうだ。
相手は、もっと引き出してやろうと調子に乗るし、何だったら自分の土地にしてやろうと攻めて来るまであるという。
そういった、極端な事にならない様に調整するために、情報を交換してゆくのが双子の役割の1つだそうだ。
だったら、その情報の精度を上げる為にも、ウチで作った物をもっと食べてもらおうか。
甘さを抑えた素朴なクッキーに、ウチ特製のフルーツジャムをたっぷり乗せて、どうぞ。
「マミリア、その星のクッキーは私が次に食べようと狙っていた物よ」
「そのハートの方こそ私が食べようとしていた物だわ、アミリア」
「……まあ、こういう事になる訳なのよ」
息ぴったりの双子が取り合いをする位に、ウチの物は魅力が高いのか。
クッキーならもっと焼くから、喧嘩は程々にな。




