103 レイナスの帰還
ティールームを作ったり、食品衛生責任者の資格を取ったり、洞窟サイトを造ったりしていたら、梅雨が明けた。
そんなある日、水晶のダンジョンから警報が届く。
様子を見ると、レイナスが戻ってきた様だ。
それなら警報は要らないのだけれど、彼女だけじゃ無かった。
異世界側の入り口に、何やら人だかりが。
緑色の装束が何人か。
髪の毛も緑の人がいるので、魔人帝国トラキスの人達だろうか。
彼らは武装していて、何やら殺気立っている。
その集団を、レイナスは抑えようとしているらしい。
いや、違うのか。
レイナスに対して、泣き落としたり、詰問している感じにもみえる。
どうなっているのか?
様子見なんてしていないで、全速力で現場に行こう。
留守を天狐とガラテアに任せて、事務所からゲートに転移。
そしてゲートをくぐったら、レイナスの居る入口側へと転移する。
「レイナスさまぁ! 何卒この者たちを御付け下さいまし。レイナス様にもしもの事がと思うと、ばあやは死んでも死に切れません」
「ばあやは私の子を見るまで死なないのでしょ? 生きてちょうだい」
老女がレイナスに泣きついている。
「この身に代えてもレイナス様をお守りするのです。不埒な只人も召し取ってみせましょう!」
「貴方達は足手まといでしかないわ。お帰りなさい」
鎧を着ている何人かは、テンションが上がっていた。
「え~っと、何の騒ぎですか? レイナス? どういう事だ?」
声を掛けたけど、周りの人達の騒々しさにかき消された。
もう、2度ほど声掛けしてみるも、無駄。
どうしようか?
ちょっと困ってしまうと、コア達からアドバイスが。
ダンジョン内アナウンス通話があるのか。
それで、魔王っぽい演説をかまして欲しい?
いやいや、喧嘩をしに来たわけじゃ無いから、それはしないぞ。
……わかった、あとで人が居ない時に、こっそりやろうか。
スモークも炊いて、ライティングもこだわるのか……。
ドキドキだな。
さて、気を取り直して、ダンジョン内アナウンス通話を音量最大で。
「天樹の森キャンプ場・水晶のダンジョンサイトへようこそ! 本日はどの様なご利用ですか!?」
挨拶は大切だと思う。
いきなり鳴り響く大音響に、皆がびっくりしている。
「ああ、マスター、大勢引き連れて来てしまってごめんなさい。こっそり来るつもりが、見つかってしまったのよ」
「まあ、気にするな。それで、どうしたって言うんだ? この人達はお客さんか?」
「来訪者って意味ではお客さんで良いけれど、キャンプを楽しみに来た人達では無いわ」
そうなのか……。
それは残念だ。
レイナスの話によると、父親であるトラキス皇帝を物理的に黙らせたが、元侍女長であるばあやに、ソロ探索は止めて側付きの同行を求められたとの事。
「何なのです? 貴方は! 危険な場所に、レイナス様を御一人にする事などできません!」
「貴様がレイナス様を倒したとか寝言を言う只人か!? その夢、消し飛ばさせてもらおうか!」
どちらも勢いが凄い。
「ウチは危険じゃないし、喧嘩腰にならないで、落ち着いて話し合いませんか?」
「危険かどうかは、貴方が決める事ではありません!」
ばあやの人らしい老女は、ぴしゃりとこちらの話を遮る。
「何を腑抜けた事をぬかすか、臆病者め!」
そして、鎧の人達は、今にも剣を抜きそうな勢いだ。
どうしよう?
話し合いができそうな雰囲気にないんだが。
そして、だったらここは俺が力を見せつける場面だとコア達は言う。
「そうね、ここが管理された安全な場所だとわかれば、ばあやも安心するかしら」
「鎧の人達は?」
……無言で首を振らないで。
そうなのか、仕方が無い。
俺の持つ力ってやつを見せつけるとしよう。
来い! クリスタルゴーレム達!
いっちょ、派手に料理してやろうじゃないか!




