102 冒険気分
梅雨の時期なので、お客さんの足取りは少ない。
ここ数年は空梅雨な事が多いが、雨が降るかも? と思うだけで外に出るのは面倒になるもは仕方が無いと思う。
むしろ雨キャンプが良いのだという上級者も居るが、多くの人は避けるだろう。
「いっそ休みにしたらどうじゃ?」
天狐が彼女らしい事を言う。
そうしても良いかなと気持ちが傾く事があるが、お客さんがゼロってわけじゃ無いんだよな。
「じゃが、今日はもうする事が無いじゃろ」
確かにそうだ。
天気予報の通りに雨が降っている。
今日のお客さんは1組で、他に予約も入っていない。
「まあ、のんびりしようではないかの。ほれ、うさぎ達もそう言っておるのじゃ」
ウサギ達は、薪を立ててボールを転がして、ボウリングをしていた。
面白そうだな。
俺も混ぜてもらおう。
スライム達は、身体ごと突撃するのか。
うん、全部倒れたな、上手だぞ。
▽▼▽
さて、雨のキャンプ場を考える。
雨対策に、テントサイトでは川砂利の様な細かい小砂利に敷き替えた。
これも、ダンジョン改変で手軽にできる。
地面が土だとテントや道具類に泥が付いて面倒になる。
小砂利なら、パラパラと払いやすいので、お客さんの手間も減ると良いな。
雨でも気兼ねなくキャンプ場を利用してもらうのに、他に手を入れるとなったら、コテージやバンガローを作る事が確実だろうか。
俺としては、キャンプ場に来たら外で感じる非日常空間を味わってもらいたい。
風でタープやフライシートがバタバタする音や、そこから抜ける『ひゅう』っとした風、目まぐるしく変わる周囲の匂いなど、外の感覚を楽しんでもらいたい。
そう思うと、コテージ系は無いかな。
キャンプは不便な状況を楽しむ面もあるから、ここは逆に、時代に逆行した感じはどうだろうか?
例えば、竪穴式住居。
とても古代。
更に、横穴式住居。
つまり、洞窟。
崖に穴が開いているだけ。
良いんじゃないかな?
キャンプサイトの近くで、妖精の隠れ里サイトとは反対面の方で試してみる。
傾斜のきつい場所でダンジョン改変を行い崖にする。
高さは8m程度。
ここから3つの洞窟を造る。
まず、高さ2m幅1m程の穴を開ける。
3mも進んだら、大きな洞窟空間に。
内装は鍾乳石の洞窟っぽくし、床だけは転んで怪我をしない様に滑らかに。
所々に光コケを生やし、ランタンを消したらぼんやりと不思議な灯りに包まれる幻想空間に。
こんな感じで作ったのをコピペして、3つの洞窟を造った。
ドアや家具の類は置かない、むき出しのままで、この中でキャンプをしてもらう冒険空間だ。
建築士の都築さんに来てもらって見てもらう。
天然の空間と言えるので問題無いでしょうとの事で、キャンプ場の施設として利用する事を関係各所に届け出た。
これらは、梅雨の間は無料で開放して、夏になったら予約制にしようかな。
洞窟内は音や匂いや煙が籠るから、1つの穴に1グループで調整した方が良いと思う。
そういうわけで事務処理も済んで、本日ご利用のお客さんを案内した。
「へえ? こんな洞窟あったの?」
「ええ、今年から解放する事にしたんですよ。良かったら、1泊試してください」
お客さんは、興奮を隠せない感じでワクワクしていた。
「うわぁ! 声が響くね。わぁ~!」
分かる。
トンネルや洞窟空間に入ると、大きな声を出して反響を楽しみたくなる。
「中は殆ど自然のままなんですけど、テントのロープが張れるようになってるから、是非使って下さい」
「良いね! 探検家になったみたいだ。小さい頃憧れたんだよね」
「藤岡隊長ですか?」
「川口隊長の方」
この日のお客さんは物凄く気に入ったらしく、その後常連さんになってくれた。




