100 里帰り
ある日、レイナスとラキが何やら言い合っていた。
「――そんな事はどうでも良いじゃない」
「良く無いぞ。一回顔を見せれば済む話だぞ」
ラキがこちらに来て10日程。
魔力も体力も十分に回復したので、ラキは一度帰る事にしたらしい。
それで、ついでにレイナスも魔人帝国トラキスに顔を出せと言っている様だ。
親や兄弟も心配するだろうし、顔を見せに一度帰るのも良いと俺も思うが。
「……面倒なのよ」
レイナスは珍しくムクレていた。
「確かにレイナスの父ちゃんは面倒くさいけど、アタシが帰ってレイナスがここに居るって知ったら、もっと面倒だぞ」
「えっと、そんなにか?」
「……否定しないわ」
レイナスが語りたがらないので、ラキが言うには、レイナスの父親ことトラキス皇帝は『娘を嫁に出しても良いが俺を越えてみせろ!』的な人らしい。
「それじゃあ、俺も行った方が良いか。そうなると冬まで待ってもらいたいな」
「気持ちは嬉しいけれど、マスターが来たらトラキスが滅ぶから止めてちょうだい」
「そうだぞ。物事には順番があるんだぞ」
凄く突飛な事を返された。
レイナスが渋々語ってくれた事によると、トラキスには決闘制度があるそうだ。
皇帝の言う『俺を越えて』というのは、決闘して勝ってみせろとの事らしい。
そして、それには代理人を立てるのも認められている。
更に、上位貴族なら、負けた後でも『3回勝負ね』ができるそうだ。
規模も回数を重ねる度に1対1から多数対多数へと大きくなってゆくとの事。
もし皇帝がそれをするとしたら、3回目は戦争レベルになるらしい。
そして、今の皇帝はレイナス絡みだとそれを躊躇なくするという。
「それは物騒だな。でも、だからってトラキスが滅ぶとかは大げさじゃないか」
「こちらにはコズミンやウサギ達が居るし、クリスタルゴーレムも居るから一方的な展開になるわ。兵士を出すだけ無駄な消耗になるわね。それに軍事力が下がると、横やりを入れてくる国も幾つかあるわ」
「マスターは過小評価だぞ。そうならない様に、根回しが必要なんだ。だから、レイナスは一旦顔を見せに帰った方が良いぞ」
そういう事なら、俺もレイナスの背中を押す事にしよう。
「もう1ヶ月もしたら夏休みシーズンで忙しくなるから、それまでに帰ってきてくれ。頼りにしてるから、待ってるぞ」
「……しょうがないわね。なるべく早く済ませてくるわ。元々、拠点に魔道具が置きっぱなしだから、持ってくるつもりもあったしね」
そういう訳で、魔法の鞄一杯にお土産の野菜や果物を詰めて、レイナスとラキは帰る事になる。
水晶のダンジョンでは、入り口まで転移させる事ができたので、大幅な時間短縮になっただろう。
戻ってきた時も、コアが直ぐに察知してくれるから、来た時の様にダンジョン内を何カ月も掛けて移動する必要がない。
……。
……。
……。
1ヶ月とか、直ぐだしな。
おや、スモモとキラリ、俺のわきの下の匂いを嗅いできて、どうした?
え、違う、そうじゃない?
うん、頭を突っ込んで、身体を捻じり入れて、腕とわきの間に収まって……。
抱え込んで抱っこしろって事か。
今日は2頭とも甘えんぼうだな。
よしよし。
はは、ウサギ達に慰められてしまったな。
どうも、両親が突然亡くなった事を思い出して感傷的になってたかな。
そういえば、それがあってペットも飼わなかったのかもしれない。
今は、皆が居るから、毎日賑やかだ。
レイナスが居ないのは、少しの間なんだし、明日から気を取り直そう。




