ミオ・リ・レーゼと警鐘
魔人族・・・準長命種の人型。魔法体術に優れ、近距離最強と呼ばれる希少種族である。
悪魔族・・・羽をはやし、対価を持って何事をもなす希少種族。悪魔から派生して吸血鬼がおり、悪魔と鬼人の混血が吸血鬼である。
「ねえ、レンジくん」
「うん?...えっとなんでしょうかミオさん?」
こんな幼くてかわいい顔してなんて積極的なのでしょう。
でもレンジは誘惑に逆らいます。「俺にはミレイがいるから」と。
それは愛ゆえか、はたまた恐怖ゆえか...考えないことにしましょう。
しかし、今の状況はとてつもなく悪いのは事実。
なぜなら・・・今腕にしがみつき、ちょっとまずい物が当たっている。
ちょっと濁して言えばサクランボの乗った双丘。・・・って、ブラつけてないのか!?
ミオは男を魅了するサキュバスのような甘美な声に上目ずかいというダブルコンボで先ほど聞こうとしたことを僕に聞いてきた。
「さっきのハリケーンどうやって消そうとした?」
「それは・・・」
さっきはあれの風の向きを逆転させ、霧散させようとした。
発生の原理を知り、方向操作できることを知った自分はできるか試したかった。
ただこの世界ではどんな影響を与えるかわからない。
この場にミレイがいればうまいアドバイス答えられたかもしれないが、この世界を全く知らない今はそれはまずい。
「そうだな、ほかのSランク風魔法で対消滅かな?」
「・・・ふーん。まあいいや」
ミオは納得していないようだったがとりあえずそれ以上の詮索はしなかった。
レンジは別に嘘は言ってない同じSクラスの技を反対回転で当てて相殺しようとしただけなのだから。
しかしながら深く探ってこない事に感謝はしながら話題をそらすため、少し気になっていたことを口にする。
「・・・ところで君はもしかして魔人かな?」
レンジはミレイの残しは本に載っていた各種族の特徴と照らし合わせてそう聞く。
すると彼女は少し驚いたようにレンジを見あげてくる。
「・・・!なんで?・・・その、一応私、悪魔族だけど?」
そう言って彼女はどこからともなく羽根を生やして見せる。
「・・・嘘はダメかな?」
「え?」
僕は即座にそういうと彼女はかなり驚いたようにこちらに視線を向ける。
そんなに意外だったのか腕に抱きつく力が抜け、技が緩まる。
「よっと」
僕はその隙に彼女から離れた。
「あ・・・。うー、離れるためのブラフ?」
彼女は頬を膨らませて怒る。心なしか涙目じゃないか?
「いや完全にそうではないよ。ただあのままだとちょっと腕が死にそうだったから離してもらったけど」
実際問題、腕に血液がいきわたっていなく、かなり白くなっており壊死しそうだった。
「まあ、気づいた理由としては簡単なんだけど・・・さっき魔法試して思ったんだ」
僕はそう言って日に背を向け、地面を指す。
「魔法は影を持たない」
「!?」
彼女は驚き、自分の影を見る。・・・彼女の影には翼が写っていなかった。
「・・・いい着眼点だね。私も知らなかった」
彼女はそういうと自分を値踏みするようにじっとりと見つめ、唇を1舐めする。
「そうなの?それに君は魔術専門ではなさそうだからね。でも、これは大発見かな?」
「ふふ、私が光の大魔法使ったというのにその感想は珍しいね」
ふとそんなことを言う彼女に違和感を覚える。
「光の魔法使いって珍しいのか?」
「あら、そんなことも知らないの?闇と光は使い手は少ないわ。特にライファーの闇魔法使い。ブレイファーの光魔法使いはね」
「・・・回復魔法は主に光魔法に偏ってる。ブレイファーじゃ、けが人が出たら大変そうだな」
そういうと彼女は近くの葉っぱを一枚採る。
それはこの前世のある薬草に似ていた。名前は確か・・・カキドオシ。
「そうね、その分薬草学が発達しているから」
「・・・なるほど。ちょっと興味深いな。薬膳料理がありそうで楽しみだ」
僕は戦争状態で薬がろくにない場所では現地で薬を調合する必要のあった自分は少なからず薬学の知識がある。また薬膳料理もたしなんでおり、少しばかりブレイファーの土地にも興味が出た。
「変な人。あんなの苦いだけじゃない。まあ、私は・・・確かに魔人だから。ばれてるならこれはもいらないわね」
自分が薬膳料理に思いをはせていると、ミオは羽根を消した。
「・・・そうだ、君はあの丘。今日は来客が少ないようだけど理由知ってる?」
ふと感じていた疑問を彼女に聞くと彼女は意外と言いたげな表情でこちらを見てくる。
「うん?ああ、ライファーに勇者召喚されたからよ。勇者は・・・というか異世界渡りを果たした人はだいたい強いからね。その人を一目見ようとたぶん王都に多くの人が集まってるからじゃないかな?…けど負け越してるライファー、それも人間種のあなたが勇者に興味を待たないとは珍しいね」
「まあ、ね。しかしそうか、なるほど。あ・・・!?」
ミオの情報から察するに地球人かな?もしかして日本人だったりして・・・
そんなこと考えていると、急に頭の中で警報が鳴る。
ただしこの警報音は自分に対する警報ではない。
・・・ミレイ!
これはミレイに設定した緊急時用のアラームだった。
自分はすぐさまミレイの居場所をmapを開き、検索。
王都、城内、謁見の間にいた。
その場には白の人(無害判定)と灰色の人(気絶状態)と青の人(味方判定)がいた。
ただ、その数がおかしい。
・・・青が二人?
この世界に来てからいまだ知り合いと呼べるのは・・・と言うよりミレイとミオにしか会っていない。
確認すると青判定が二人おり、片方はミレイではもう一人は?
わからないながらもとりあえず気配察知の設定を変える。
赤をミレイに敵意を持つ者。
すると、・・・意外と少なかった。ミレイは権力争いに巻き込まれていないのか?
と、前世の癖でそんなことを考えてしまう。
しかし、5人くらいだろうか?ミレイのいる場所には意外と多くの人がおり、部屋の隅、柱付近にいるのは暗殺者などの影の警護人だろう。
そんな数人赤判定がいるが、問題は先ほど青だった人が赤にあったことだ。
・・・俺の味方で、ミレイの敵?まったく意味がわからない
「レンジ君?」
アラームで忘れていたがこの場にはミオがいるのだった。
「すまない、緊急の連絡が入った」
自分はミオにそう告げ、王城へと向かい走り出そうとする。
「うん?レンジ君って近衛兵か何かなの?」
「はあ?・・・ああ、ちがうよ。友達から。ちょっと急ぐから僕はこれで失礼していいかな?」
「ふーん、・・・まあいっか。ねえ、ステータスウィンドウ開いて?」
「え?」
急いでいるのにわけのわからないことを言われ、少し苛立ちを覚えるも彼女のきょとんとした顔にそんなものはすぐに消える。
「・・・どうしたの?連絡先交換するだけだよ?」
「あ、そういう機能あるのね」
『メニューにメッセージが追加されました。以後、スキルウィンドウを開かなくてもこちらよりメッセージ、念話を送れます』
頭の中に知らせが響く。その新機能に戸惑いながらもとりあえず優先すべきことを行う。
「・・・ステータスウィンドウ」
そう言うとスキルウィンドウが現れる。
「右上に不思議なマークあるでしょ?」
「右上?・・・あー、これか」
そこには地球でよく見た電話のマーク。
・・・いや、なんで?
「それを押すと自分の念話番号とウィンドウアドレスが出てくるよね。その下の連絡先一覧の一番上の新規登録で魔力線通信を押して」
彼女の言われたとおりに押すと、ステータスウィンドウより一本線が伸びる。
彼女はそれをつかむと自分のステータスウィンドウにつなぐ。
しばらくすると連絡先の中にミオ・リ・レーゼと言う名前が登録される。
「ミオ・リ・レーゼ?」
「・・・フフ、それが私の本名。どう?おどろいた?」
本名を見せてどう?私有名人ですオーラ出されてもこの世界に来てまだ一日もたっていない自分には申し訳ないがわからない。
「え?本当に有名人なの?すまんな、自分ちょっと常識に疎くて・・・」
「・・・嘘、私を知らない人がいるなんて」
かなり偉そうに自慢していた分、ミオはかなり恥ずかしかったようで膝をついて落ち込む。
「うーん、もしかして運動会で活躍した人か?そういうのなら君みたいな体術の達人なら有名になり易いだろうし・・・」
「まあ、そんなところ・・・今なんて?」
「君は運動会で活躍した人?」
「いや、そのあと」
ミオは信じられないものを見たような目でこちらを見てくる。
・・・何か変なこと言ったか?運動会うんたらかんたらのあとは…
「ああ、君みたいな体術の達人なら有名になりやすい?あ、もしかして気に障った?だとしたら謝る。ミオ、すまん」
「・・・え?あ、いや。いいよ別に。それより行くべき場所があるんでしょ」
「あ、そうだ。ありがとう、忘れるところだったじゃあね」
そう言って僕は森の奥に消える。
彼女が少しさびしそうにしているのが目に映ったので思わず言ってしまった。
「また連絡するよ!」
レンジが森へと消える瞬間、ミオの顔には明らかに喜びが見て取れた。
それを見てレンジは満足げに彼女のもとへと走り出した。
※※※
「スキル〈鉄壁〉発動。風魔法 〈加速〉」
僕て自由鉄壁を畳のような形にして下に展開、それの上に乗り風魔法で自由鉄壁の移動速度を上げる。
自由鉄壁は自分から半径10メートルなら動く。つまりその上に乗れば乗り物替わりになるのだ。
「自分の時、青と言うことは逆に自分の言葉なら聞いてくれるかもしれないということだよな。・・・すぐに行くからバトルとかにならなんでおいてくれよ」
あの青で表記されたものは恐らく勇者であるとレンジは推測を立てていた。
異世界を渡ってきた俺の知り合い。そしてミレイに敵意を持つもの・・・。
その条件にあてはまる人物を二人だけ思いついた。
だが・・・どっちであっても、ちょっと面倒なことになることは否めなかった。
「・・・たぶん、アヤカだろうな」
自分はそう言いながら王都に向かって飛んで行った。
※※※
一方、おいて行かれたミオはレンジが見えなくなるとその場にうずくまる。
「はわわわ、めっちゃ緊張した~。はぁ、レンジ君か」
彼女は彼の容姿や声はもちろん、真剣に魔法を解析する姿や魔法変換効率の美しさ、その観察眼の高さに心がときめいていた。
今でも目を閉じれば、自分の名を呼んでくれた彼の声が・・・
「おーい、ミオー!」
「・・・ちっ」
向こうで兄の声がする。
「はあ、トールにいさんが来なければもっとお話ししたかったんだけどな・・・」
ミオは肩の力を抜き、彼の走って行った方を見つめる。
自分の事を知らず、そして自分と同等かそれ以上の力を持つ人間。
「・・・あ、ミオ!やっと見つけた」
「兄さん、拳闘王なのにここにいていいんですか?」
「いや~、これから王都に勇者でも見にいこうかと思ってな・・・て、どうした?顔が赤いぞ」
そういわれて、ミオは片手で自分頬に触れる。・・・暖かい。高揚している。ミオはそのことに気付くと胸が苦しくなる。
「お、おい。ミオ!?」
「え?・・・なんでもありません」
ミオは深呼吸して顔色を元に戻す。
初恋の彼女にはこの気持ちを抑えるのが少し難しく、3回ほど深呼吸をすると心が落ち着いた。
「ど、どうした?風邪でも引いたか?」
「・・・そうですね、恋の病かもしれません」
バァン!・・・ミシィミシィ、バダン!
近くにあった木が盛大に倒れた。
「にいさん?」
ミオはその木を倒した兄さんに満面の笑み(憤怒)を向ける。
「・・・あ、す、すまない。お前が変なこと言うから」
兄は自分に言い寄ってくる男に容赦がない。
ほぼ反射的に殴って、その自力の強さも相まって相手は簡単に吹き飛ぶ。
「・・・なに言っているのですか?まあいいです。・・・ああ、一緒に暮らせたらいいな。そしたら自分の部屋に大型のゲージ作って絶対に外にださないのに…」
「うん?動物か?」
「はい?ちがいますよ・・・。なに言ってるんですか」
兄にあきれたようにため息をつくミオ。
だが先ほどの言葉に気に入った大型動物がいるかと思ったトールは困惑する。
・・・大型のゲージに入れたい?動物ではないのか?まあ動物に恋をするのはわからなくはないが、彼ができようものならこの魔王の兄トールが直々に見てやる
そう心に決めた兄は小さく笑う。
「・・・にいさん。きもいです。さっさとお王都に行きますよ」
「うん?お前も行くのか?」
「ええ、もしかしたら知り合いに会えるかもしれませんので」
「ああ、あいつか」
そう言うトールの頭の中でジョブに似合わない天真爛漫な女の姿が浮かぶ。
・・・まあ、ミオの相手できる数少ない女だからな
そして二人は心躍らせながら二人は王都に向かって歩いてゆく。