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ふたきつねは異世界で何を想ふ  作者: 茜村人
1章.謎の惑星
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5.咆哮

『あぁ~、生き返りましたぁ』

『さっきからそればっかりだな』

『人間お風呂から上がると大体こうなりますよ~』

『まぁ、気持ち人間だから何も言えんが、なんと言うか、そのまま寝そうだぞ』

『だって、先輩の水出すスキルが高性能だったんですもん』


 あの後、スキルを使ってみたが、なんと、水の形状から水力、水量まで全て思いのままに出す事が出来たのだ。これにより霧にしたり、シャワーにしたり少し頑張れば温泉のジェットバスのような事すら出来る。それを知った後輩の目が輝いた事輝いた事、あれこれ注文し満足行くまで水浴びを行った。

 はしゃいだせいか、まだ朝だと言うのに既に疲れて眠そうな顔をしている。


 それと、判明した事がある。水は俺から出るのでは無く、俺の周囲から出た。

 これにより俺だけ水を溜めて入るという危機を回避出来たのは個人的に大きい。俺だってシャワーとか浴びたかったのだ。

 そして、この"(ウォーター)"だが、多分イメージをしっかり持てば刃物のような使い方すら出来る。つまり攻撃にも運用出来る。

 少し便利過ぎて、使用回数があったら即使い切りそうで怖い。


 それとだが、地面の水を飲むことに殆ど抵抗が無かった。感覚が狐に寄っていると思って良いだろう。

 もしこれで、地面の水が飲めなかったらどうなる事やらと思ったが、スライムとか食べたんだ。正直今更だったかも知れない。

 もし、翌日に腹でも下したら、状況的には一ミリも笑えないが笑えるところだ。


『これで温風送るスキルとか覚えたら最高なんですけど、私それも"理想郷(ユートピア)"と統合しているみたいなんですよね……』

『いや、そんな微妙なの覚えないぞ。用途が限定的過ぎる。と言うか覚えようとするなよ』

『こ、これは勝手に心の声を汲み取られたんですー。分かってますよーだ。私もそこまでバカじゃないですもん。むしろ研究員だったんですから地頭は良い方なんですよー!』

『その考えだと俺も地頭が良い事になるが?』

『先輩は地頭良いので問題ないです』


 あ、そうですか。


『何故だ。何かが釈然としない……』

『そんな事より先輩……実はですね……』

『眠たいとか言い出したら、次から水の出が質素になります』

『さぁて! 目も冴えてきた所で、今日も1日頑張りましょう! ……なんですか先輩、そんなジト目で見つめて……そ、そんな今日はやる事いっぱいあるのに、眠たくなるはずないじゃないですか! あはは』

『と言うか、よくこの状況でリラックス出来るよな』

『それはほら、先輩と一緒だからですよ。知らない人と一緒だと安心なんて到底出来ないですけど、もう知り合って結構な仲ですし、それに……』

『それに?』

『何かあったら先輩が何とかしてくれるって信じてますので!』


 まるで乙女のように照れながら頬を染めている。この一日で俺も狐顔の変化も分かるようになったようだ。


『ふむ、つまり丸投げって事だな?』

『そうです!』

『胸を張って言い張るなよ! 頭くらいは使ってくれ!』

『ぶ~、うまい事いけば先輩に何でも任せられると思ったのに……先輩のケチですぅ……』

『いやいや、これケチとかそんな問題じゃないから、俺達の生死がかかってるから、後輩も是非一緒に頑張ってくれよ。もしかしたら、俺達以外のも生まれ変わってる人も居るかも知れないし、探していけば帰れる方法だってあるかもしれないからさ』

『あ、そうですね。私たち以外にも居る可能性もありますよね』

『ただ問題はどうやって見分けるか、なんだよなぁ……』

『追々って感じですかね』

『そうだな。とりあえずは目先の事をやっていこう』


 丁度、近場に丸い輪郭が浮かんでいる。スライムと見て狩れそうなら狩ろう。


  ☆  ☆  ☆


【――"空想郷(ディストピア)"を経由、"(コア)"より選定の■▲への協力支援の要請を確認。"理想郷(ユートピア)"……応答無し、"黄昏の月(ダスク・ムーン)"……承認、"空想郷(ディストピア)"、許可致しますか?】


 すぐ近くにいたスライムに飛び掛ろうとした時、それは起こった。


 この二日でいくつか聞いた天の声だと言う事は、すぐに理解できたが内容が全く違っていた。

 初めて聞く内容で、思わず行動を止め、ゆっくりと振り返る。

 同じような顔をしている後輩と目が合った。


『聞こえたか?』

『はい』


 それ以上は何も言えず、ただ時間だけが過ぎた。

 スライムを狩るタイミングも見失い。スライムはこちらに気付かずに森のほうへと消えていった。


【一定時間の黙秘を確認。権限を一時"黄昏の月(ダスク・ムーン)"に譲渡します。"黄昏の月(ダスク・ムーン)"……許可。権限の返還を確認。選定の▲■への協力支援を開始します】


 少しすると、また声が聞こえた。


『先輩……また……』

『一回、戻ろう。ここじゃあ気が散る』


 後輩はひとつ頷くと、周囲を伺うようにしながら踵を返す。俺もそれに追随する。本当は俺が先頭になった方がいいのだろうが、それすら思いつかない。

 天の声の内容が分からないにしろ、事態がひとりでに進んだのだ。それだけで心が荒れた。


 木の幹に入ると周囲をもう一度見渡し、生命体が居ないのを確認し口を開く。


『まず状況確認だ。天の声が聞こえたのは二回。内容は協力支援の要請』

『私もそれであってます』

『現状を鑑みて、内容は一緒だろう。次に聞いたことの無い言葉があったが、俺は知らない。あれがどこの言語か思い当たる節はあるか?』


 今までは天の声は全て日本語で構成されていたのだが、今回のは一部日本語ではないものが混ざっていた。聞き取れなかった訳ではないのだが、俺の知る言語には該当しない。


『私も残念ながら分かりませんが、ただ……』

『ただ?』

『昨日の人達のイントネーションに似てませんでした?』

『……あー、確かにそう言われるとそんな気がするな』


 昨日の人間の叫び声を思い出すと、確かにイントネーションに近しいものを感じ取れる。


『とりあえず現地語と呼ぶとして、そうなると天の声は()()()()()()()()()()()()()()()()()になるな』

『そう……なりますよね』


 もしかしたら、天の声は何かの翻訳機能を使っていて、現地語を日本語にしている可能性があった。それが無くなった。

 つまりは、日本語が存在した事の証明になる。


『もしかすると、私たちの記憶を読み取って日本語を得たって事もありえるかと』

『まぁ、そうなったらもう何でもありだな……駄目だな。これ以上変な考えをしていたら知能が腐りそうだ。次の話題に行こう』

『次は……内容、ですね』

『まず俺のは新しい単語が出てきたな』

『……"(コア)"』

『名前からして、何かの核なんだろうな。俺達と同じで概念スキルだった場合は、使用者が居るはずだ。後輩はどう思う?』

『現状概念スキルと断定して、もし友好的ならば、会って……みたいですね』

『そうだよなぁ、俺達と同じように生まれ変わりか、もしそれ以外でも、このスキルについて情報があるかも知れない』

『あと、少し気になったんですけど、さっき天の声が聞こえた時先輩の耳の飾りが光ってましたよ』

『耳飾り?』

『ずっと聞こうと思って忘れてたんですけど、先輩耳にリングの飾りが付いてますよ?』


 そう言われ、耳に意識を集中するが、リングが付いている感触なんてしない。目で見れたら楽なんだが、生憎俺の目はそんなに飛び出してこない。

 ただ、後輩の耳にも同じようにリングが付いている以上、俺の方にもあると考えるのが妥当だろう。


『つまりはペアルックか』

『え?』

『俺も言うの忘れてたけど、後輩の耳にもリングの飾りついてるぞ?』

『えっ!? 全然分からないんですけどっ!』

『まぁ俺も言われるまで一切気付かなかったしな。それにしても光る、か……』


 何気なく後輩のリングを見ながら"鑑定(シーター)"を唱えた。


 ステータス

  種類:創生の指輪

  名称:不明


『……後輩さん』

『ど、どうしたんですか先輩急に敬語になって……』

『俺の耳飾に"鑑定(シーター)"してみてくれ』

『分かりました……ッ!?』

『……どうでしたか後輩さん』

『もしかして、私のも同じだったりしないでしょうか先輩さん』

『いっせーのーせで言わない?』

『わかりました』

『いっせーのーせ!』

『創生の指輪』

『創生の指輪』

『……』

『……』


 重い沈黙が流れた。

 この世界に来て一番重たい空間だっただろう。この混乱した状況の中、創生と豪語する指輪が双方に備わっているのだ。まさしく火に油だろう。黙りたくもなる。


『これってどう言う事でしょう……』

『さっぱり分からんが、名前とこれが光った所から考えるに、天の声との関係性は見込めそうかな』

『それは……ありそうですね』

『あー、流れたがとりあえずの方針としては、"(コア)"を概念スキルと断定して、その所有者に会う。でいいか?』

『何も無いよりは、それを目指すのが良いかと思います。それと、一度この星の文明にも触れてみたいですね』

『じゃあ、ある程度の生活基盤の構築のち、近隣の人間との接触乃至(ないし)は追跡かな、それまでにはスキルの全容を掴めていると尚よしって所か』

『結局、内容は全然わかりませんでしたけどね』

『まぁ、推測は出来たから収穫が無いことは無い。それに目標も決まったし』

『そうですね。これで帰れる方法を聞き出せたら万々歳ですね!』

『……そうだな』

『なんですか今の間は』

『いや、後輩がいらぬフラグを立てるから、先輩として少し心配になってきただけだ』

『えー、私そんなフラグ立ててないですよー!』


 ここは一度先輩とがつんと決めた方がいいのだろうか迷いどころだな……。


『がつんと決めない先輩が好きです!』

『本当に駄々漏れだよなこの"念話(テレパシー)"』

『それだけ、先輩が私の事を思っているって事ですね!』

『何故そうなる』

『わかりません!』


 あっ、こいつ考えるのに疲れて思考を放棄しやがったな。


『してます!』

『だから、また思考を読むな!』


 それから、改めて森に出かける。何はともあれ目先の目標もきっちりやらなければ。

 丸い輪郭を探しながら森を慎重に歩く。先ほどのスライムは結構離れていて、他を当たった方が良さそうだ――。


 ☆  ☆  ☆


『――あれ凄く大きかったですよね』

『あれは危険だったな……』

『ですね……池かと思ったら全てスライムとか……どんなトラップですか』


 途中で大きな池を発見し、近寄ったのだがうるさいくらいに"索敵(サーチ)"に反応し、調べたところ池そのものがスライムだと言う事が判明した。

 よく見ると、鳥や昆虫などが取り込まれており、近寄った餌を片っ端から捕まえているようだった。俺達は潜伏状態のためか見つからずにすんだが、もし見つかっていたらと思うと背筋が凍る。


『もしあれがイチゴ味なら後輩はどうする』

『えっ!? あれ全部がイチゴ味ですか? もっちろんいただきます!』

『え、マジで? 勇気あるなぁ……』

『先輩期待してます!』

『結局俺任せかよ!』

『はい!』


 言い切りおったぞ。

 その顔は悪びれている様子はなく。寧ろ堂に入っている。こいつの中での俺の立ち位置に不安しか感じない。


『まぁ、これがイチゴ味かもしれんから、あのでっかいのには突っ込まんからな』


 俺の口には先ほど狩ったスライムが加えられている。色は青。最初に狩ったスライムと似ている。

 先ほど、無事に狩りを終え元いた場所に向かっている。


『最初のスライム味と一緒に、700ジンバブエドル賭けます』

『それもう廃止されたやつだから、てかこの世界にないから、しかも700ジンバブエドルって1円未満じゃなかったっけ』

『うーん、今のツッコミは50点ですね』

『なんで採点されなきゃいけないんだよ』

『あと2匹狩ってから食べます? それともこれ食べてから次行きます?』

『……狩れなかった事を考えて残しとくのがベストなんだが、後輩君お腹空いてるよな?』

『……ちょびっと』

『着いたら食べるか』

『しっかたないですね~、先輩がそう言うなら食べましょう。そうしましょう』


 実は先ほどからお腹空いたと何十回も後輩の心の声が漏れている。これでお預けでもすれば、一人で全部食べる可能性すらある。いや、どうだろう。物理的に全部は入りきらないか、いやいや、後輩を(あなど)ってはいけない。動けなくなるまで食べる場合だってある。


『流石に私もそんな事しません……』

『失敬、つい心の声が』

『むー、先輩のイジワルです!』


 ぶー、と膨れる後輩を尻目に木の幹へと入る。とりあえずは、一息つけそうだ。


『じゃ、食べようか。毒見は?』

『そろそろ先輩に悪いので一緒に食べます!』

『うーん、心の声の『"鑑定(シーター)"を信じよう』って声がなかったら百点満点なんだがなぁ……』

『うっ……、プライバシーの侵害です……』

『はっは、ようやく後輩にもプライバシーが出てきたか、俺が満足したところで、いただきます』

『いただきます』


 そのまま、スライムに齧り付く。味は昨日の青いスライムと一緒だった。

 これなら色で味が変わると考えて良さそうだ。


 あまり味わう事なく、黙々と腹に入れていると、それは起きた。


「――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」


 叫びなのか、それとも、咆哮なのか。それすらも曖昧な声が鼓膜を盛大に揺らした。


 ただひとつ分かったのは、森が――――――揺れた。

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