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ふたきつねは異世界で何を想ふ  作者: 茜村人
1章.謎の惑星
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4.二日目

『先輩起きて下さい! 一人で起きとくの怖いんで起きてくーだーさーいー!』


 鬱蒼と生える草木の隙間から、朝を伝える日が差し込む。夜の湿った風は既に無く、草に募った朝露が一粒鼻に降りかかる。ゆっくりと流れるような風は身を包み込んでくれているようで気持ちがいい。


『また明日起きるから許して……』

『何言ってるんですか、そんなに寝れるわけないじゃないですか、ていっ!』

『――グエッ!?』


 気持ちの良い眠りが俺を支配していると、思いっきり腹部に何かが乗ってきた。

 どうやら後輩の前足が勢いよく乗り込んできたようだ。


『で、出る……うぐぼぉ……』

『何が出るって言うんですか、昨日のスライムなんてとうに胃を通り越してますよ』


 起きたら元の世界に居る事を願ってはいたが、まぁフラグだったわな。

 俺も後輩も狐の姿だった。


『それより先輩! おはようございます!』

『お、おう。おはようございます』

『早速なんですけど、スライム食べません? お腹空きました!』

『別に待たなくても勝手に食べて良かったのに』

『あー! そんな事言うんですね! 折角可愛い後輩が先輩が起きるまで待っていてあげたのにぃ!』

『はいはい、ありがとーござんした』

『いいですもん。次からは先輩の分も食べといてやりますもん』

『それは……なま言ってすいあせんっした。それだけはほんまに勘弁してくだせぇ』

『なんで極道風になってるんですか』

『いや、あの木の実を食べるのは本当に嫌だからさ……』

『あー……、確かにあれは人間の食べ物ではなかったですよね。私たち狐ですけど』


 危険を冒してまでスライムを狩ったほど木の実がまずかったんだ。出来れば一生口に入れたくない。他にも"鑑定(シーター)"で食べられると出たものをいくつか口に含んだが、他はそれ以上にまずく飲み込む事すら出来なかった。


『はーやーくー』


 背中をぺしぺしと叩きながら起きるのを促してくる。まだ日が上がってすぐなんだろう。"索敵(サーチ)"で辺りを見渡すが活発に動いている生命体の数が少ない。

 よし、と気合いを入れ直し伸びをしながら起き上がる。


『食べるか、今回も毒見やるか?』

『お願いします!』

『分かった……ってお前、もしかして、毒見(これ)待ちとか言わないよな?』

『……』


 後輩は目を菩薩のように和らげ、『そんな訳ないに決まってるじゃないですか』と震えながら伝えてくる。


『本音は?』

『十割それです! だ、だって昨日のと色違いますし大きいし怖いじゃないですか! やめてください先輩そんな軽蔑するような目で見ないでください! 兎はその目でも死んじゃうんですよ!』

『……はぁ、だから兎じゃなくて狐だろ』

『細かい事を気にしてはだめなんです! もっと本質を見ないといけませんよ!』

『まだ本質を見れるほどデータが揃ってないんだが』

『つまりはあれですか、先輩はもっと私のデータが欲しいって事ですか……変態ですぅ……』


 これ以上付き合っても埒が明かないので、無言で昨日狩ったスライムに(かぶ)り付く、色や匂いに変化は無く腐ってはいないようだ。味は――。

 そのまま無言で咀嚼(そしゃく)に飲み込む、食感はゼリーよりも少し硬いが、特に問題はなかった。


『さて、昨日と同じ形式にしようか、質問を二つ受け付けよう』

『と言う事は、昨日とはまた違った味なんですね。毒が無いことは"鑑定(シーター)"で確認済みですし……、先輩の顔からして食べられないって訳ではなさそうです。フルーツっぽいですか?』

『はい』

『じゃあ、美味しいですか?』

『うーん……俺からすれば、はい』

『おっ! おぉっ!? ほんとですか! 食べます!』


 そう言うと後輩はスライムの反対側に回り込み、齧り付く。期待に胸を膨らませた顔は嚙むたびにドンドン神妙な顔つきへと変わっていった。


『……これ、どこかで食べた事あるのはわかるんですけど、なんの味ですか?』

無花果(イチジク)だな』

『あっ、あー……、イチジクってあの球根みたいなやつですよね? 昔おばあちゃんの家で食べた事あります』

『その顔から察するに無花果苦手か?』

『苦手って程ではないんですけど、もっと色的にメロンとかスイカの味をイメージしてたので、うーん……』


 まぁ、俺も子供のころはあまり無花果は好きでは無かったかな。果物と言えばもっと華やかなイメージを持っていたが、大人になって久しぶりに食べると味覚の趣向も変わっていて、案外いけるもんだと思えた。


『いつかイチゴ味のスライムに出会えるといいなぁ……』

『既に後輩の中でスライムが果物と化している事に戦慄を隠し切れないんだが』

『先輩も沢山スライム狩ってくださいね!』

『しかも実働は俺かよ!』

『当たり前じゃないですか! こんなか弱い後輩があんな凶暴なスライムに立ち向かうなんて……』


 おろろ、とワザとらしい演技と共に崩れ落ちる後輩を余所目に、今日の事を考える。近くにまだ丸い輪郭の生物が居る事は"索敵(サーチ)"で分かっているので、それらを狩るとして、問題は俺たちのスキルだ。

 先ほど確認したが、未だに潜伏状態が解除されていない。俺の+αも気になるところだし、検証しなければいけない事は多々ある。

 まずは、潜伏の効果時間の把握が第一優先だ。クールタイムが必要ならそれの把握もしておきたい。今のところ潜伏には既に2回ほど命を救われている。

 現在考えうる中で一番最悪なのは、使用回数がある場合だ。

 潜伏が半日以上持つとは言え、それがいつ使えなくなるのか分からないのは恐怖以外の何者でもない。


 出来れば天の声で使い捨てれるようなスキルを――貰えるなら――貰って、それも検証しなければならない。

 欲を出すなら、二種類ほどデータを取って精度を上げておきたい。

 今日はやる事が多い。

 それにスライムも狩らなければいけない。

 今のところはスライムで問題ないが、もしかしたら、スライムだけでは体に異常を来たす可能性だってある。この狐の体も肉食と考えた方が無難だろう。

 スライムが肉とはとてもではないが思えない。そこらへんも追々考えないとなぁ。まずは後輩と決めていくか。


『それで、先輩、今日はどれから調べます?』

『んー……、ん? もしかして、後輩も同じ考えに至った感じ?』

『いえ、先輩さっきから思考駄々漏れでしたよ?』

『本当にプライバシーもクソもねぇなおい!』


 そう言えば、"念話(テレパシー)"もまだ続いた状態になっている。


『まー別にいいじゃないですか、どうせ私と相談するつもりだったんですよね? 手間が省けたと思って!』

『……まぁいいか、それで後輩の意見は?』

『さっき考えてた中からですか?』

『それ以外にあるならどんどん言ってくれ』

『イチゴ味のスラ――』

『却下』

『ぶーぶー、まだ全部言ってないんですけどぉ!』

『却下』

『ちぇー……、でもスライムの保存期間とかも知っておきたいです。半日は保つようですけど、二日くらい置いとけるなら少し無理して沢山狩るのも有りかと』


 確かにそれもあるな。潜伏が有効なうちに食料を集めるのは有効な手だ。だが、少し短期的過ぎる気もする。


『スライム一匹で二食と考えて、一日三匹必要として、四匹狩って一匹様子を見るか』

『そうですね。それでいきましょう! あと神の声がどこまで出来るのかも知りたいです』

『それもあるな、ただ概念スキルに統合されている場合は極力控えよう。どうなるか分からん』

『じゃあ何を願います?』

『まずは対話の可不可、次に物品の要求、スキルの要求の順だな――』


  ☆   ☆   ☆


 結論から言うと対話は不可能だった。

 二人で心の中で10分ほど呼びかけ続けたが、うんともすんとも言わなかった。

 次に物品の要求、これも不可能だった。

 もし、これが可能ならば食料などの要求などを行うつもりだったのだが、返答は無かった。

 最後にスキルだが、これは昨日に引き続き覚える事が出来るだろう。


 後輩と俺は各々、役立ちそうなスキルを三つ覚える事にし、今は二人で頭を悩ませている。

 何故三つなのかは、天の声の使用制限を危惧してだ。

 天の声が無限に使える保障はどこにも無い以上、無闇矢鱈(むやみやたら)にスキルを覚えるのは良くない。それに、天の声は()()()()()で該当するスキルを覚えさせてくれた。

 つまり、天の声が発動するラインは比較的簡単に超えるのだ。

 うっかり発動する事も視野にいれて行動しなければならない。


『先輩は何かいいの思い浮かびました?』

『使い潰していい有能なスキルとなると、全然思いつかん』

『ですよねー』

『別に後輩はそこまで考えなくてもいいぞ? 後輩が使えそうと思ったスキルで問題ない』

『でも現状問題点が挙がってない状態で、当てずっぽうに覚えるのもどうかと思うんですよね』

『まぁそれもそうなんだが』

『思いつくには思いつくんですが、今すぐ必要かと言われると微妙なんですよね……』

『例えば?』

『清潔にしてくれるスキルとか? ……ちょ、ちょっと待ってくださいそんな目で私を見ないでください。私も可愛い女の子なんですよ! 昨日お風呂に入ってないの気にもなりますよ!』


 確かに日本人として、湯浴みをしていないのは気になる部分ではある。ただ今すぐ必要かと聞かれれば全く必要ない。


『……まぁ追々だな。もう少し我慢してくれ、湯浴みで思いついたが、水を出すスキルとかどうだ?』

『それです先輩! さっすが先輩です! ……あっ』


 木の幹の中でぴょんぴょんと跳ね回る後輩が急に動きを止め、宙を見始めた。

 これは、早速スキルにしやがったな。


『……先輩、"理想郷(ユートピア)"に統合されてるって言われました』

『おうふ、マジか……』

『使いますか?』

『ストップだ! いいか? 絶対に使うなよ? これはフリじゃないぞ。いざ水を出そうとスキルを使って、気付いたら辺り一面湖になっていたとか、そんな可能性だってあるんだ。俺の概念スキル(仮定)と同等と考えるならこの場所が海になる事だって有り得る。早まるなよ』

『ですよねぇ……』

『ちょっと待ってろ』


(水を出すスキルをください。出来れば出し方と水量を選べるタイプでお願いします)


【個体名:ルディアージより"空想郷(ディストピア)"を経由、擬似スキル申請を確認、"理想郷(ユートピア)"……申請を許可、"黄昏の月(ダスク・ムーン)"……承認、擬似スキル"(ウォーター)"を構築……構築完了、適応……適応完了します。擬似スキル"(ウォーター)"を取得】


『よし、俺が覚えれたから安心しろ』

『ほんとですか先輩っ!?』


 先ほどまでしょぼくれていた顔が、明るさを取り戻し満面の笑みが咲いている。


『あぁ、これはこれで使い潰しても……良いのか……?』

『まぁ良いじゃないですかぁ! 早速水浴びしません?』

『既に無駄撃ちする気マンマンだな』

『や、やだなもう先輩ったら、丁度喉が渇いたので水浴びはついでデスヨつ・い・で』

『今なんか明らかにイントネーションがおかしかったけど?』

『ま、まままぁ、細かい事は良いじゃないですか!』


 水浴びしたい気持ちも分かるし、初回だから大目に見るか、それにこれ以上引っ張ったらなんか可哀想だし。


『さっすが先輩! 話が分かりますね!』


 さらっと心の声漏れてるし。今更な事だな。うん。


 木の中ですると、後々ジメジメして使い物にならなそうなので、周囲に脅威となりそうな生命体が居ないのを確認し外へ出る。

 葉の隙間から燦々と降り注ぐ朝日が眩しいが、吹き抜ける風はとても心地よく包んでくれた。


 ただ、森は静かに俺達を見ているような気がした。

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