19.進化
明けまして、おめでとうございます。
ようやく時間が取れました。
2月ごろから仕事がひと段落すると思いますので、また書いていきます。
今年も何卒よろしくお願いします。
追記
ステータスがバグっていたので修正しました。
微睡みが思考を蔓延る。
いや、思考なんてものはまだない。
覚醒すらしていない頭が、何を思考すると言うのか。ずっと寝ていたような気がするし、少ししか寝ていない気もする。
作物が育つように、ゆっくりと、しかし確実に脳が目を覚ます。
肌を撫でる風が、無邪気に毛を揺らす。
その感覚が存外心地よく、ウトウトとしている意識が更に沈み込む。
このまま二度寝を決めようと、沈む意識に身を任せる。
そうすると、風の感触が先程よりも鮮明に伝わってくる。
そのまま感覚が肌に行った時に、何か違和感――異物がある事に気が付く。
お腹の辺りに何が当たっている。と言うか、何かが潜り込んでいるような感覚だ。
そこからスピースピーと、外気とは違う風圧を受けている。
【肉体適合終了。状態バックアップを基に、状態の再構築を行います】
折角人が気持ちよく寝てるのに、邪魔をされた気分だと、ピクリと眉を歪め、少し覚めた頭で原因を思い出す。
同じような出来事が無いか記憶を探ると、すぐに答えが出た。
……あぁ、後輩か。
後輩の鼻息が腹の下から来ているのだ。こっちに来てから割とよくある事だ。
それを思い出せる程度には起きてきた。
【"念話"を個体名:リルに申請……一時保留。"黄昏の月"から強制承認を受諾しました。"念話"の再接続を確認、起動まで3……2……1……】
まだ眠っていたい気持ちが、名残惜しそうにこちらを見ているが、お腹の鼻息がそれを許さない。
それに、お腹自体にも異常を期している。
簡潔に一言で纏めると、とても空腹な事に気付いた。
丸一日、もしくはそれ以上に何も食べてないような程、お腹が空いている。
致し方無しと、クワァーと大きな欠伸をし、伸びを一つ起こす。
すると、毛の塊が、ぶふぁと顔を被さる。
これも何度か経験した事がある。後輩の尻尾だろう。
こいつは俺が動くと何故か尻尾が揺れて、まるで動くなと言っているかのように顔を覆いにくる。
もしかしたら、俺もやっているのかもしれないが、寝てる時の事なんか恥ずかしくて聞けない。
ぺちぺちと言うよりはフサフサと尻尾ビンタを受けながら、目を開ける。
目の前には、大きな毛の塊が未だにワシワシとしてくる。
【概念スキル:"空想郷" 発動】
若干の鬱陶しさを感じながら、前足で器用に押さえつける。
とここまでは、今まで――――ここ数日通りの出来事だった。
――――また顔に尻尾がかかった。
視界の上から降りてくるようにして、押さえている尻尾とは別の尻尾が顔を塞ぐ。
慌てて押さえつけている尻尾を見るが、ちゃんと後輩の尻尾だ。
付け根の方まで視界を辿ると、付け根には二本のフサフサな毛が生えていた。
押さえつけている方は脱出を試みてるのか、少しずつずれるように地面を動いているし、執拗に顔を狙うもう一本はゆらゆらと揺れている。
【状態の再構築を完了しました】
ぽくぽくぽくぽくぽくとBGMが流れる。もちろんその先に鳴るのは一つしかない。
チーン。
『えええええええええええええええ!!!』
『くぁwせdrftgyふじこlp!!』
そりゃあもう大声で叫んだから、とびおきたよね。
☆ ☆ ☆
草原にポツポツと生えた木の陰で、雪のように真っ白な二匹の狐が佇んでいる。
地面には草が生えているのだが、何故か狐の下だけはぽっかりと穴が空いたように何も生えていない事に、二匹、いや、二人は気付いていない。
『――先輩! 私達の尻尾が二本に増えてますよ!』
先ほどまでペタンと耳を垂れてさすっていた奴とは到底思えないほどにハイテンションだ。と言うか、耳で聞いている訳ではないのだから耳を塞いだところで聞こえてくるし、完全に意味が無いはずだが、後輩は気付いているのだろうか。
『そうだな、さっき俺が言ったもんな』
『どうしてでしょうか!』
『分からん……ってさっきから何してるんだ』
『そりゃあ、おニューの尻尾が生えてきたんだから、触り心地をですね!』
『なら自分の触れよ! なんで俺の尻尾いじり倒してるんだよ』
二本になった尻尾を楽しそうに振りながら、尻尾に顔を埋めている。
『さっき触ったんですけど、自分のだとなんか物足りない感じがして先輩のを拝借しています!』
『勝手に拝借するな』
全く分からない感情だ。と切り捨てても良いが少しだけ考えてみようか、共感は大事だ。――――本当に大事か? いや、きっと大事だ。
あれか、女性が自分胸を揉んでも興奮しない的な、いや、何か違うな。
女性が自分の胸の柔らかさを堪能出来ないのと一緒か。
『そんな感じですけど、なんか先輩が言うと変態ちっくなんですけど。まぁ、胸なんかよりも100倍はこっちの方が良いに決まってますけどね!』
そう言えば忘れていた。
こいつは狐が好きなのだった。見ると頬擦りしている。ちょっと、いや、だいぶキモい。
当の本人はそんなのお構い無しに、一心不乱に感触を楽しんでいる。
と言うか、この感覚が俺に伝わっていると理解しているのかすら危うい。そんな顔だ。
『……はぁ、さっさとやめて考察に移るぞ』
『先輩そんな事言わずにもう少しだけ』
これは絶対に少しで終わらないなと、立ち上がり尻尾を隠すように座りなおす。『……あぁ』と残念そうに呟いてるが、そんな事知ったことではない。
『はいはい、話を戻すが、どうしてか俺達は意識を失ってたみたいだな』
『そのようですね、進化と言うのと関係あると思います』
こいつも話始める、意識の切り替えは流石学者なだけはある。性根は研究好きなやつだからな。
『まぁ、俺もそう思う』
意識を失う前に進化をすると天の声が言っていた。そして、起きたら尻尾が二本になっていた。
客観的に見ても、これらの出来事は関連しているだろう。
『私達が妖狐で、進化で尻尾が増えるって、まるで九尾の狐ですよね』
九尾の狐。そう言う伝承には疎いが、名前くらいは聞いたことがある。
中国や日本で聞く妖怪の一種だったか、それくらいしか分からない。
『九尾の狐はですね、中国や日本における神獣の一種でして妖怪とも言われてます。玉藻前や妲己のように美女に化けて男を惑わしたりする話がポピュラーですね。悪性の話が有名になりがちですが、善性の物語もあるので神獣の一種と考えられています。他にも子孫繁栄の象徴とされたりもしてますね。大まかにはこんなものでしょうか』
『やけに詳しいな』
『まぁ狐ですし』
狐関係だから、調べたと。
後輩は狐の生態を調べる職業とかの方があっていたのではないだろうか。
『それで説明が付くのはどうかと思うが、今は助かったな。それで狐博士の後輩はどう思う?』
『どう、と言われても、実際に会った事があるわけではないですし、美女になって人間を誑かしたりもしてませんしねって……あれ? 私達大事な事忘れてませんか?』
『……俺も今の話を聞いて思い出した』
"鑑定"
ステータス
名称:ルディアージ・ノア
状態:正常
種族:妖狐 二尾
能力:概念スキル"空想郷"
スキル"念話"
擬似スキル"炎"
"水"
"土"
"風"
"索敵"
"望遠鏡"
"翻訳"
"捕獲"
"人化"
限定的擬似スキル"鑑定"
補足:妖狐の幼生体、食べられる。双子。
ステータス
名称:リル・ノア
状態:正常
種族:妖狐
能力:概念スキル"理想郷"
スキル"念話"
擬似スキル"鑑定"
"索敵Ⅱ"
"翻訳"
"特定"
"捕獲"
"人化"
限定的擬似スキル"鑑定"
補足:妖狐の幼生体、食べられる。双子。
……あった。
他にも気になる点があるが、それよりもだ。
―――――"人化"。
『先輩、見間違いじゃないですよね?』
『よし頬を引っ張ってやろう……ってこの手じゃ無理か』
頬っぺたを引っ張るどころか、持つことすらままならない。なので前足で後輩の顔をプレスする。
『ふぎゅう!』
どこかの闇医者の助手がやりそうな、見事なあっちょん○りけだ。
思わず笑いが口から溢れる。俺も突然の事で少し浮かれているのかも知れない。か
『ははっ、どうだ。痛いか?』
『ひはひほひうかはへへはいへふ!』
『口から喋ってるわけでも無いのに、よくもまぁそんな再現するよな。ほんとこういうところは器用だよな』
『褒めるならそろそろやめてください』
『そうだな。それで、どうする?』
勿論あっちょん○りけの事ではない。
『そうですね、とりあえずやってみるしか無いです』
百聞は一見に如かず。
いくら考えても実際にやってみないと始まらない。
考えが先行してる節があるが、どうせやるのだ。
早い方に越したことはないだろう。
それに――
『何かあったらお前の"理想郷"が何とかしてくれると信じて、まずは俺だけでやってみるか』
『精一杯頑張ります!』
何かあった時は是非頑張ってほしいと思いながら、少しだけ目を瞑り深く息を吐く。
思っていたよりあっさり手に入ったとは言え、念願のスキルだ。自分で聞こえるくらい鼓動が早くなっているのも無理はない。
かと言って試さない手はない。既に後輩から熱い眼差しを貰ってる。この人化が期待通りのものだったら、状況は一気に良い方向に持っていける可能性が高い。
もう一度深く息を吐き、心を整える。
"人化"!
いつものように、自然に、そして力強くスキルを唱える。
途端、異変はすぐに起きた。
尻尾がゆっくりと、俺の意思とは関係なく動き始めた。
慌てて尻尾に力を入れるが、まるで別の生き物だと言うように、勝手に俺を取り囲んでゆく。
そこに俺の意思は存在していない。
二本の尻尾は、蜷局を巻くようにうねっている。
そこで、おかしい事に気付く。
既に俺の周囲をぐるっと一周以上はしているが、尻尾はそこまで長くない。
つまりはだ。
尻尾が伸びている。
よく分からなかった尻尾の感覚も、伸びている感覚だと理解すると鮮明に感じ取れた。
やがて、完全な半円となり、その活動を停止させる。
『おぉ!』
最初に声を上げたのは後輩だった。
当の本人は、あまりの出来事に驚く声すらあげる事すら出来ず、為すがままに今となった。
そのまま一拍ほど間を空け、俺が光った。
眩しいほどの光源が俺の視界を閉じさせる。
もう驚き過ぎて疲れた。
なんかこの世界に来てから体が発光し過ぎじゃないか。
夜道には便利かも知れないな、いや、夜でも結構見えるし"索敵"もあるし意味ないか。と若干の現実逃避を脳内で行なっていると、瞼越しから入ってきていた光が弱まってくる。
それと同時に尻尾もまた独りでに動き始める。
感覚があるから、勝手に動いているのが不気味で、良い気分ではない。
しかも先程と逆。今回は縮んでいる。
ぐねぐねと逆再生のように元の長さに戻ろうとする尻尾に慄きながら、ゆっくりと瞳を開くと、丁度外の世界がはだけた。
そこには瞳をキラキラとさせながらこちらを見ている一匹の狐こと後輩が、綺麗にお座りをしている。
と、そこでようやく尻尾が自律行動をやめ、主導権がこちらに渡ったのがわかる。
尻尾を振ってみると、ちゃんと振れている感覚が伝わってきて、安堵のため息が漏れる。
『先輩!』
『お、おう……あれ? なんかお前微妙にちっちゃくなってないか?』
よく見ると、今まで水平に見ていた後輩が、少し見下ろしている形になっている。
『そりゃ、無事に人になったから先輩が、高くなったんですよ!』
言われて、思い出したように手を出す。
視界に入った手のそれは、完全に人肌をしている。
つやつやとした肌が肘まで伸びている。
おぉ、と感動を露わにし、視界を肘から更に下げる。
ゆっくりと肌が更に露出している。そこで少し嫌な予感が過る。
先程までの首の動きと違う、ギギギと油が切れた機械のように顔を下げる。
そして、体まで到達した時、嫌な予感が的中する。
『先輩すっぽんぽんです! あと先輩の面影ゼロですね!』
完全に何も着ていない。自由、フリーダムスタイルだった。
『――――キャァァァァァァァァァァァァアアッ!!』
その声は後輩の頭にだけ響いた。




