17.情報収集
すみません年末で忙しく、執筆の時間を取れませんんでした。
少し更新が遅くなるかもですが、ご理解いただけたらと思います。
『簡潔に申し上げると、今目の前に居る狐があなたに話しかけています』
なんか誤解があっても面倒だと、ストレートに言う。
あと後ろでクスクス笑う奴も居る。
「人語を理解する魔物……だと……?」
それを聞いた途端、男の顔が青褪めているのが見て分かる。先ほどまで勇敢に戦っていたはずなのに、その腰は引けていて、周りのメンバーも何があったのか分かったのだろう、同調するかのように体はこちらを向いているが、逃走体勢を取っている。
それもそうだろう。分かっているのかは分からないが、状況証拠的に先ほどのトロールを殺したのも俺たちだと思っているだろうし、少し顔をずらして後ろを覗けば幾十体ものトロールの死骸が存在している。
人から見ればトロールよりも遥かに強い魔物に見えるだろう。てか条件が揃えばトロールよりは絶対強い。
それは目の前の4人よりもこちらの方が強い事を示している。
実際、俺もこの4人組なら勝てると踏んで姿を現しているのだし、それは向こうも気付いているだろう。
分かってはいたが、こうも恐れられると良心が痛む。
「え、それってかなりやばいんじゃ……」
「僕には聞こえなくてランドルには聞こえてるって事だよね? これって魔法も使えるタイプだよね、逃げた方がいいんじゃない……?」
小声で言っているのだろうが、普通に聞こえている。やはり人間の時に比べて、動物は五感に優れている。
『待ってください。私達は対話を求めています』
「……なに? 対話を?」
『はい、そちらが危害を加えない限り敵対するつもりはありませんし、危害を加える事もありません』
ランドルは軽くメンバーを見つめるが、みな不安そうに見つめ返している。
ランドル以外には"念話"を繋いでいないから、何を話しているのかも分かっていないはずだ。不安にもなるだろうな。
「……分かった。ただ少しだけ待ってくれないか、仲間に伝えたい」
『勿論構いません』
「助かる」
そう言ってランドルは、こちらに背を向けないように、ゆっくりと下がっていき、仲間に今の起きた事を話し始めた。
他のメンバーも既に察しが付いていたのだろう、大それた混乱はないが、動揺を隠せてはいない。
『とりあえず、何とかなりましたね?』
少し陽気な声が後方から届く。
『どうなんだろうな』
こちらも目線は離さないようにしているが、それだと周りの警戒を怠るので、後輩が周囲の"索敵"を行なっている。
その情報が言葉になるよりも早くこちらに届くのは、とても便利だ。
ただ、エルフのように"索敵"を欺く方法も存在している。あんまり悠長に姿を出すのはそれだけリスクを負うので、出来るだけ早く交渉――と言うより情報収集か――を終えたい。
『ただ、ファミ◯キ下さいは卑怯です』
『捏造するな、そんな事言ってないだろ』
『あの流れは絶対ファミ◯キですよ! ファミ◯キ、ファミ◯キ……』
言葉がみるみると力を失うように、暗くなる。だが、トロールの生き残りや、他の生物の気配はしていないと情報が入っている。どうしたのか。
『……? 後輩?』
『ファミ◯キ食べたい……』
『流石に空気を読め』
『あいたっ!』
いや、殴ってないから。
ランドル達の話がそろそろ終わりそうで、殴りたくても今はそんな空気じゃない。
「何度もすまないのだが、もう一つだけお願いを聞いてくれないだろうか」
良かった。後輩とのやり取りは聞こえていないようだ。
少し緩んでいた気を引き直して答える。
『お願い、ですか』
「いや、出来ればで良いんだが、他の奴にも声を聞こえるようにしてやれないだろうか、対話が望みならその方が何かといいだろうと思ってだ」
橋は扇状に真ん中が一番高くなっていて、俺たちはそこに立っている。必然的に相手を見下ろす形になっている。と言うことは、相手は此方を見上げているのだが、その目には確かに不安が宿っている。
『分かりました。全員に繋げます』
当たり前だが、俺達に戦闘する気は一切ないので、早々にその不安を取り除いて、出来るだけラポールを形成していきたい。
【"念話"を個体名:アニに申請……接続を確認、起動まで3……2……1……】
【"念話"を個体名:テットに申請……接続を確認、起動まで3……2……1……】
【"念話"を個体名:マイアに申請……接続を確認、起動まで3……2……1……】
全員に繋がった事を確認して声をかける。
『これで聞こえてますか?』
「うわっ! びっくりした!」
「うん、びっくりした。こんな魔法もあるんだね」
弓の女――名前をアニと言ったか――と、短剣の男が年相応の反応を示す。
二人はまだ十代後半のような出で立ちをしている。
アニはひまわりの花のような黄色のショートヘアに動きやすそうな軽装をしている。
後ろに携えた矢入れには数本の矢が入っている。
短剣の男、名前はテットと言っていたか、そいつは重装備と言うほど重装備ではないが、腰に刺した短剣と、折れて剣は無いが大剣の鞘がある。さながら海外版武士みたいだな。
髪色も黒と言うよりは明るい茶色と言ったところだが、何よりも面白いのが、髪色がプリンなのだ。
毛染めか?
『毛染めでしょうね』
まぁ、それしかないよな。
そうなると、文化レベルには期待出来そうだ。嬉しい限りだ。これはどうにか街に入って安全性を高めなければならない。
「この人数でこの精度……、ランドル」
「分かっている」
残りの二人、アニやテットよりは歳がいっているのであろう。確実に二十歳は超えている。
大剣を持っている方はランドル、見た目的にこのチーム? の代表格だと思い、俺もこの人に"念話"を繋げた。
杖を持った女性はマイアと言っていた。
先程まで死にかけていたのだが、後輩の"理想郷"で完全に回復している。毎回思うが大したものだ。
『えっへん』
スキルが凄いのであって、後輩はまだあんまり凄くないぞ。と伝えると"なんでですか! 私のスキルだから私が凄いに決まってます"とか伝わってきたが無視だ無視。
『幼子な女の子の言葉を無視するとか、先輩ひどいです!』
はいはい、ちょっと先輩は大事な話の途中だから、幼気な少女だったら空気読んで少しお口チャックしようね。
『むーー!』
魔法と言う単語が存在しているし、スキルがあるのだから、マイアは魔法使いなのだろうか。
この二人は小声で何か呟いたが、ばっちり聞こえてしまった。
『これで問題ないですか?』
「あぁ、大丈夫だ」
『そうですね、色々聞きたい事があるのですが、あまり時間もないので手短にいきます』
「お、おう」
ランドル達の後方に不特定多数の輪郭が見えている。
まだすぐには来れないだろうが、いきなり攻撃される可能性も十分存在するから、そうちんたらしていられない。この四人もこちらに対しての警戒を解いている訳ではない。全員獲物を持っていたり、意識しているのが分かる。
『それもですけど、そのアニって人、まだ足が完全に治ってないですよね?』
よく見れば彼女の足は、治ってはいるのだが、反対の足で庇っているのが見て取れる。骨はくっ付いたが応急処置のような感じなのだろう。
「それで、何を話せばいい」
『そうですね、まずこの星の名前と大陸の名前を教えてください』
「……星の名前は分からないが、大陸の名前は聞いたことあるな、なんだったか」
「アキレマ大陸です」
うーん、とうねるランドルに続きマイアが答える。
『ありがとう、次に国家は存在するか、するなら今この場所はどの国家の領域ですか』
「国家は存在してる。名前はノア、領域も何も国はただこれ一つだ、この大陸の全ての領域はノアのものだ」
ノア、どこかで聞いたことがある。
今は考察に耽るより、情報を多く入手しなければ。
『そうですか、では他の大陸は知ってますか?』
「……知っているか知っていないかで、言えば知っている」
『教えてもらっても?』
「そうか、魔物だから習わないんだね」
「おい、アニ勝手に喋るな」
小さな呟きでも聞き逃さなかった。
「まずはこの星には大陸と呼ばれるものが二つある。アキレマ大陸と、ええっと――」
「ユーマ二大陸」
「――そうユーマ二大陸、その大陸のうち生き物が生きていけるのが、このアキレマ大陸でユーマ二大陸はもう死んじまっていて、誰も住み着けない場所らしい」
らしい。と言うことは習ったもしくは誰かに聞いたのだろう。先程のアニの言葉からすると習ったのだと思う。
『わかりました。では、あの樹はなんですか』
俺たちの後方に座する大樹を見上げる。
結構離れたはずなのに、未だにその存在感を露わにする老樹、ここまで来てようやく全貌とまではいかないが、ある程度は見えた。その樹は雲をも超えている。現代では考えられない代物だ。
「あれは四神の一柱、神木様だ」
ランドルは何気なく、あたかも常識であるかのように語ってくれた。
「五千年前に、でっかい戦争か何かが起こって、ユーマ二大陸は死の大陸に成り果てて、このままではアキレマ大陸も滅びるって時に神月夜様がご降臨なさった。月夜様は争いを退け、平穏な日々を送れるように四柱の神様を置いていった。その一柱があの神木様だな。あの神様のおかげでこの大陸は死なずに済んだんだそうだ」
『そ、そうですか、詳しい説明ありがとうございます』
どうしよう。
思った以上に壮大な話に発展して、次聞こうと思ってた質問全部飛んでしまった。
『歴史については今のところ必要ないですし、街について聞いてみては?』
ナイスだ後輩。
『では、ここから一番近い……、いや、街に魔物は入れますか?』
「許可証がある魔物なら入れるけど、まさか入ろうって事じゃ、ないよな」
ランドルの獲物を握る手に力が入っているのがわかった。
見ると他の三人も行動には移してないが、すぐに行動出来るように関節を曲げている。
俺が反対の立場なら同じ感じになるだろうな、人間を脅かせる魔物が街に興味を持っているってだけで脅威だ。
かと言って俺達も諦めたくはない。戦闘にならない程度のラインを見極めなければ。
『……なるほど、ありがとうございます。参考までに許可証がない場合は?』
「……街の近くに居る魔物は優先的に討伐対象になるから、すぐに討伐隊が結成されて討伐される、はずだ」
『そうですか、では許可証はどうやれば貰えますか?』
「誰かに"捕獲"されなければ許可証は貰えない」
"捕獲"とな――
【個体名:ルディアージより"空想郷"を経由、擬似スキル申請を確認、"理想郷"……申請を許可、"黄昏の月"……承認、擬似スキル"捕獲"を構築……構築完了、適応……適応完了します。擬似スキル"捕獲"を取得】
えぇ……。
いや、覚えても仕方ないでしょ……。
『……先輩、私も覚えちゃいました』
うそーん。
これあれでしょ、簡単に言うとペットにする的なあれでしょ。多分俺達が使っても街に入れないやつだよね。
完全にスキルの無駄撃ちした。
「どうかしたか?」
『いえ、なるほど、誰かと言うのは人に限りますよね』
「ヒューマンって意味なら、エルフ以外の人類種、ドワーフも認められている」
ドワーフか、エルフはきっとこの前森で見たあいつらなんだろう。
まさかの新情報が出たけど、この情報は特に活かせそうにないから、あまり嬉しくはないな。
『そう、ですか……』
改めて四人の後方を見る。
『そろそろ時間も無くなってきたので――』
「えっ? あ、待ってくれ! 一つだけ質問をさせて貰えないだろうか」
ランドルが察したのか慌てるように声を上げる。
『……そうですね、とその前に』
忘れないうちにしとかなければ。
後輩、頼む。
『任せてください! "理想郷"』
「うおっ!? なんだこの光!」
「えっ、えっ、なに!? どうなってるの!?」
マイアを除く全員の体が光り輝いた。
何度かやっているから少しは慣れたと思ったが、まだまだそんな事は無かった。
瞼が光を遮ろうと閉じようとするが、今のうちにやっておかないといけない事がある。
『"鑑定"』
ステータス
名称:ランドル・トーラ
状態:正常+α
種族:人
能力:スキル"肉体強化"
スキル"肉体硬化"
補足:人間の成体。大体は食べられる。
ステータス
名称:アニ・ラピス
状態:正常+α
種族:人
能力:スキル"疾風"
スキル"腕力強化"
スキル"百里眼"
補足:人間の成体。大体は食べられる。
ステータス
名称:テット・カサンドラ
状態:正常+α
種族:人
能力:スキル"肉体強化"
補足:人間の成体。大体は食べられる。
ステータス
名称:マイア・ラピス
状態:正常+α
種族:人
能力:スキル"火"
スキル"水"
スキル"治癒"
スキル"聖域"
補足:人間の成体。大体は食べられる。
よし、情報の整理はここを離れた時にでもするとして、目標は達成した。
時間にして十秒程だろうか。
眩かった光は徐々に輝きを失い、何事も無かったかのように消え去っていく、その中に居た三人も健在している。
『驚かせてすまない。そこの弓の少女の足がまだ治っていなかったようだったから、こちらで対処させてもらいました』
「えっ、……本当だ。痛みも全く無い!」
先ほどまで足を庇っていたのに、飛んだり跳ねたりしている。
「治癒魔法まで使えるとか嘘だろ……」
『他の二人はサービスです。そこの杖の、マイアさんと言ったかな、あなたは先程治したから不要とさせてもらいました』
「……今の光を見て、もしかして、と思いましたが、あなたが命を救ってくれたのですね。本当にありがとう」
『で、質問はなんでしょう』
一同は動揺を隠せないようだが、後ろにある輪郭はだいぶ近付いている。と言うか肉眼で既に確認出来ている。あの数が一度に攻撃してきたら多勢に無勢、考えるだけでも恐ろしい。
正直既に離脱したい域にまで達している。早く言って欲しい。
「あ、あぁ、いえ、はい。今ので確信しました。貴方がたは龍神様に近しい方なのですね」
……?
「お教え願えないでしょうか、龍神様は何故、人類を滅ぼそうとしているのですか、何故我らの神と袂を分かってしまったのか!」
ん?
んん????




