9.おっにく!
すみません。ちょっと短めです。
『いーやーでーすー!』
『そんな駄々っ子みたいに言われてもなぁ、流石にスライムだけだと栄養バランスとか偏るだろ』
『だからってこれ食べるのは無ー理ーでーすー! それに狐なんですからバランスとか関係ないと思いますー!』
周囲に大型の影も無く、ここで1日を過ごした。
後輩が何を嫌がっているのかと言うと、猪を食べる事を頑なに反対している。
確かに見た目はだいぶアレだが、"炎"を覚えた以上、簡単な調理は出来るはずだ。それでなんとかなると思っているのだが、中々に後輩が頷いてくれない。
実情を赤裸々に曝け出せば、俺だって食べたくない。
見た目がグロいとか云々では無く、前回の戦闘がフラッシュバックして目眩が起きそうだ。
それでも根性で克服しようと今から食す訳なのだがなぁ。
『いや、関係なくても狐って確か肉食だろ、なら尚更肉は食べないと』
『スライムだって歴とした生き物です! きっとお肉です!』
『スライムのゼリーをお肉と言うのは流石に無理があるんじゃないか?』
『うぐっ……』
『だけど、血抜きとか分からんし獣臭いとは思うけどな、一応川に浸けて一晩放置したからある程度はマシになってると信じよう』
『そんな事言っても食べたくないですぅ! あんなの食べたら絶対お腹壊しますよ!』
いつもなら、これくらい押し問答すれば大体は折れてくれるのだが、今回はテコでも動かなそうだ。
『わかった。じゃあまずは俺が毒味をしよう。それで美味かったらお前も食べる。それでどうだ?』
『……先輩って、なんでもかんでも美味しく食べれる不思議な味覚の持ち主とかじゃ無いですよね?』
『好き嫌いはあまり無い方だと思うけど、そんなおっかなびっくりな舌ではないな』
『うぅ……、わかりました。どうせ不味いので大丈夫です』
おっとそれはフラグという奴だぞ。
『フラグじゃないですよ。ぜーったい不味いに決まってます!』
『ここ数日で結構慣れたけど、ナチュラルに心の声に返事が来るとドキッとするよな』
『良いじゃないですか、先輩も私の心の声聴いてるんですからお互い様です。寧ろこんな可愛い後輩の心の声を聴いてるんですからもっと先輩は私に優しくするべきです!』
『……ちょっと待て、その言い草だと俺が後輩に優しくないみたいな言い草じゃないか? はっきり言って、果てし無く甘やかしてるつもりなんだが』
これはあれか、この世界に来てから後輩を甘やかし過ぎたか?
もっと厳しくした方がいいのではないだろうか。
『い、いや、せ、せんぱい。あのですね、えっと、わ、私も言い過ぎました。心の声に違いなんて無いですよねお互い様ですよねあはは』
見ると後輩の顔が蒼白に――既に真っ白ではあるが――になっていた。
さては、こやつ俺の心の声を聞き取って自分の立ち位置が危うい事に気付いたな。
実際は、思っただけで基本的に俺一人で何とか出来る事は一人でやるつもりではある。と言うか、後輩は研究以外はてんで駄目だったから、何をしでかすのか不安でしかない。
勿論サポートが必要な時は遠慮せず後輩を使うつもりなのだが、孫の手は本当に危ない時以外は基本危ないからな。
『先輩、私だって今は狐ですけど人間なんですよ。流石にそこまで言われると凹みます!』
『おっと失礼した。忘れてくれ』
いまいち心の声が漏れるラインと言うか、基準が分からないな。
大きく想うと漏れるって訳でも無いようだから謎である。
『まぁ、これ食べるか』
『絶対不味いから大丈夫です――』
☆ ☆ ☆
『――悔しい事に、有り得なくらい美味しいです。でもキモいです。でもでも美味しいです。うぅ……』
『そんな複雑な顔で泣きながら食べる事はないだろ。涎も相俟ってなんか絵ズラだけで言えば結構凄い事になってるぞお前』
『だっでぇ、こんなの絶対まずいに決まってるのに、美味し過ぎて口がどまりまぜん! おがわりぃ!』
『はいはい』
時刻は既に夕方を回っている。
早めの晩御飯と言うか、遅めの昼御飯と言うか。
あのまま火にかけるのは俺を含めて二人とも嫌な顔をしたので、スキルの訓練も兼ねて波○カッターで顔を切り落としたり皮を削ごうと四苦八苦していたらこんな時間になった。
首を切り落とした時は少し嫌な気分になったが、ここも狐寄りになっているのか思ってたほど精神面にダメージはなかった。
ただ首は不気味だったので前足で穴を掘って埋めた。
その後、内臓とか食べてもいいのか不安だったので、内臓だけ残して幾つかの肉塊にしたあと、スキルで火を通して食べている。
焼いている時から二人とも涎が出ていたのが分かったが、後輩は維持でも我慢して俺が旨いと言った瞬間に食べた。
そして今である。
『美味しさで言えば、日本の頃に食べた牛の方が美味しいんだけどなぁ、なんと言うか、嗜好が肉食に寄ったって事か?』
『悔しい、でもおいじいでずぅ……』
『聞いてないな』
これなら後輩も肉を食べてくれそうだし、俺も食べれそうで良かった。
内臓は何処が食べれたのか記憶に無いから今のところ放置している。この体になった事で、あんまり関係は無いとは思うのだが今は肉で満足出来ているからそれで良いだろうと、少し離れた場所に埋めた。内臓をそのまま放置すると猪が寄ってくるとかテレビか何かで見た。ここでもそれが起きるのかは知らんが、埋めておいた方が良いだろう。
『さて、腹も膨れたし寝るか』
『えっ? まだ夕方ですよ? 早くないですか?』
『お前はそうかも知れないが、俺は肉の解体で疲れた。出来れば早朝から移動もしたい。故に寝る』
『それなら朝御飯用にスライム一匹狩っときませんか?』
『と言ってもなぁ』
改めて周りを見渡す。
"索敵"を使っているから何か居れば視界に入るのだが、まだ結構離れている。
狩って戻ってくるだけでも夜なるのは必至。
『駄目だな。リスクの方が大きい』
『先輩が言うなら了解であります!』
『……やけに素直だが、まぁいいか』
多分こいつも猪の件があるから慎重になってるんだろう。
それから軽く水を浴びて眠りについた。
☆ ☆ ☆
あれから二日が経った。
太陽の位置から考えるに俺たちは東に進んでいる。
あの龍が西に行ったから出来るだけ反対に進んでいるのだが、一向に森から抜ける気配がない。
ただ流石に他の生き物も結構見かけるようになったが、あの猪、もといミノタウロス亜種とは遭遇していない。
あまり近づかないようにしているので肉眼で見たわけではないが、シルエットだけは見えるのでどんな生き物か想像は出来る。
狼や鶏のような知っているシルエットだったり、巨大なカマキリのような知っているが大きさは分不相応なシルエットだったり、全く知らないシルエットだったりと生態系は地球とは全く違うようだった。
その中でも一番気になったのが、ゴーレムだ。
ゴーレムと言っても見てないからゴーレムかどうか怪しいのだが、角ばった輪郭やたまに体の一部が取れているのを見るにゴーレムにしか思えない。
一体どんな生態系を辿ればゴーレムなんて出来るのか気になる。
『ねぇ先輩……』
『ん? どうした、トイレか?』
『違います! お腹すきました!』
後輩のお腹の音が頭に直接響き渡る。
『なんか、お腹の音聞こえたんだけど、"念話"で』
『おぉ、とうとう聞こえるようになったんですね! いつもお腹の音を聞かせれば手っ取り早いと思って念じた甲斐がありました!』
なんと言う無駄な練習だろうか。
『無駄とか酷いです! 折角練習したのに!』
『練習かどうかは怪しいが、声以外も伝える事が出来るって発見では十分な成果だな』
『でしょう! ……なんか先輩の目が心底侮蔑するような目なんですけど』
『いや、そこまでは思っていない。精々呆れてるだけだ』
『酷いです! 先輩は後輩に優しくですよ!』
本当に、一刻も早くなんとかしないと。
『……はいはい』
『で、先輩』
『どうした?』
『お腹すきました!』
神様、後輩がどんどん大食いキャラになっていきます。どうすればいいでしょうか。
(神様です。そのまま甘やかせばいいんですよ)
『だから俺の心の声に返事するんじゃない』
『えへへ』
『分かった、飯だな。あー……、見つけた。もう少しで飯だ。いつも通り後輩は隠れる事』
『わかりました!』
あれから肉は食べていない。
前回は殺さなければ殺されていたの究極の選択だったから殺したが、いざ改めて殺そうと思うと果てしなく戸惑ってしまう。
これもいずれは克服しないといけないのだが、先は長そうだ。
『"水"!』
スライムを視認出来る距離まで近づきスキルを使う。
前回以降、安全確保の為、この倒し方でスライムを狩っている。
水を一点に集中させレーザーのように噴射する。既に何度か試したが、これが思いつく限り一番良さそうだった。
ただやはり、結構な集中力を要求する。所謂溜めが必要なので、潜伏状態でないと撃つのは厳しいだろう。
十分に集中も出来て水圧レーザーを放ったその時、視界の端が少しだけ――――歪んだ。
そして、そこから一本の矢がスライムに向けて放たれた。
明日に投稿する予定の奴が何故か投稿されてました()
すみませんが明日の投稿はお休みします。




