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23話 川上さんは少しだけ昔とは違います

月曜日 


「いや~、ごめん。僕、キミに全く興味ないや。やっぱり女性は夫持ちか、せめて彼氏持ちじゃないとね~」


火曜日


「いや、すまん。俺には好きな人がいるし、そもそも俺はロリ以外から好意を持たれると基本的にゲロ吐いちゃうから。他を当たれ」


水曜日


「ごめん、それは無理なんだ。僕が好きなその人は男だからね」


木曜日


「うーん、やっぱり趣味の不一致って致命的だよね。いやでも、AV好きな女性も少なくないらしいし、キミもこれを機にどう? 俺のおススメは最近飛ぶ鳥を落とす勢いのしいば―――」


 

 私は無謀にも、面識のない四人にベタベタの手紙呼び出し校舎裏告白作戦に出た。

 その結果、こうなった。

 

 最後は聞く気も起きなかった。

 四人全員に完全に振られた。取りつく島もない程に。

 そして振られた理由が全員おかしすぎる。

 

 「―――つーか、なんなのあの人たち! なにがイケメン四天王よ!! ただの顔のいい変態の集まりじゃないのよー!!! あー、もうやだーー!!!!」


 内心の全てを窓とドアを締め切った放課後の誰もいない教室で吐き出し絶叫する。

 一気に捲し立てたため、乱れた息をふーふー、と整える。そうするとようやく何だか沈んだ気持ちが発散されていったような気がした。


 ずいぶんと内側に溜まっていた。そしてそれが全部放出された。

 何となく気づいていたのかもしれない。どこかで躓くことを。

 そりゃそうだ、むしろここまで順調だったのが奇跡。


 ――そうだ、仕方ないよ。切り替えよう。順風満帆にすべてが思い通りいくわけじゃない。

 

 今日、友達のみんなは私の様子を見て、事の結末を悟ったのか勇気づけるように声をかけてくれた。

 今はそれで十分じゃないか。心から友達と思える彼女たちが周りにいてくれるだけで――。

 

 ふと窓から空を見上げるとすでに夕焼け色。

 そろそろ帰らないと夕飯に遅れちゃう。そんなことを考える余裕はすでにできていた。

 次に彼女たちと会うのは月曜日。次の学校が待ち遠しい、そんな気持ちが持てるだけで今は十分だ。そうでしょ、川上瑞樹。


「さてと、帰ろうかな」


 カバンを持ち上げ、教室の出口へと歩を進める。

 今日の朝は気持ちが沈み切っていたため、帰りの迎えはいらないと伝えてある。ちなみに水花院はほとんどすべての生徒が車での送り向かいで登下校している。

 今から迎えを呼ぶのも悪いし、何より久しぶりに自分の足で下校するのも悪くない。そんなふうで私は久しぶりに徒歩で下校することを決めた。

 

「……うーん、筋肉痛にならなきゃいいけど」


 その時の私は知るよしもなかった。

 その判断が私の人生の分岐点になりうることを――



「――あれ? ちょっと、みずきじゃね?」


 学校から出て、少し。住宅街の小さな道路を歩いていた時だった。

 横合いからそんな声がかかる。その聞き覚えのある、そして二度と聞きたくなかった声に自然と肩が震えた。

 

 うそ…でしょ……

 

 恐る恐る声の方向へと顔を向ける。そこにいたのは六人の男女の集団。全員が髪を染め、制服を着崩した少しチャラい学校帰りの高校生と言った感じだ。

 その中の一人、先程の声の主である金髪の女子が一歩足を踏み出しこちらへと歩いてくる。

 出来れば一生会いたくなかった女。


「あー、やっぱみずきだ! メッチャ変わってんじゃん!? なに、イメチェン? ウケるんだけど~!」


 その声に肌が泡立つ。

 なんでこんなところに…


「ひっ、久しぶり…です…」


 声が震えているのが自分でもわかる。

 今ここにいるだけで思い出したくもない思い出がフラッシュバックする。


「なに、なに? 美月の知り合い? うわっ、水花院の制服じゃん~」


 そして、その女が私に話しかけてきたことを皮切りに他の知らない顔達もこちらに寄ってくる。

 

「なに美月~、あんたこんなお嬢様と知り合いなの?」

「メッチャ可愛いじゃん。俺に紹介してよ~」

「でも、お嬢様とはちょっと違くない~。ですわ~、とか言わないの~?」

 

 捲し立てるような声。

 しかし、その大半が頭に入ってこない。ただただ気持ち悪い。


「みんな、はしゃぎ過ぎ~。うちとこの子さ、下の名前が一緒で中学では仲良しだったんだ~」


 嘘つけっ…!

 軽い言葉の嘘に怒りが沸き立つ。でも、言葉にすることはできない。まるで胸の内に楔が刻み込まれている様に体が固まって動かない。


 そう、――中学時代に私は通っていた女子中学校で美月をはじめとする幾人かの生徒にいじめられていた。

 

 その時助けてくれる人はいなかった。いじめっ子以外の子と担任は知っているのに目を逸らし、両親にはこのことが伝わらないように黙っていた。

 いつかは誰かが助けてくれるとそう思っていた。でもそんなことは無く、私は中学を卒業して水花院に入った。


「あっ、あの…私そろそろ帰らねきゃ……!」


 震える声でそう言って、何とかこの場から駆け出そうとする。

 でも、


「いたっ!?」


 その主張は、髪を掴まれた痛みと共に封殺された。

 痛いっ!? 

 久しく感じてなかった痛みに眼尻に涙が浮かぶ。


「そんな避けることないじゃ~ん。ちょっと最近、困っててさ~。前みたいに貸してくれない、お・か・ね。私達、友達でしょ~」

 

「えっ…、いやっ……その…」


 ケタケタと笑い声が聞こえてきそうな邪悪な笑み。

 その言葉で周囲も私とこの女の関係に気付いた様だ。しかし、それでも助けに入るような人は一人もいな。それどころか、ニヤニヤと嘲笑のような笑みが漏れだしている。

 類は友をよぶ、とはよく言ったものだと思う。

 

 嫌いな人種の人間ばかりだ。でも、恐怖で震える自分が何より嫌いだ。

 今も自然と手がカバンの中の財布に伸びようとしている。

 しかし、その手を一番近くにいた男の手に掴まれる。


「ひっ!?」


「あのさ~、俺って前々からお嬢様と仲良くなりたいと思ってたんだよねぇ~。紹介してよ、え~っと、みずきちゃん」


 男はいやらしい薄ら笑いと共に臆面もなくそう口にする。


「こーら、あんたはうちの彼氏でしょ~」


「わかってるって、美月が本命に決まってんだろ。ただちょっと遊んでみたいな~って思っただけだって。だから、友達の連絡先とか教えて欲しいなぁ~」


 目の前で繰り広げられる反吐が出るような会話。

 今すぐ逃げ出したい、帰りたい。

 そんな感情と共に、何故迎えをお願いしなかったのかという後悔を今さらながらする。しかし、そんなことは今さら遅いのはわかっていた。

 

 しかし、それでも譲れない一線はこんな私にもある。

 思い出すのは高校に入って初めてできた対等な友達。今日も一緒にいた世間知らずではあるが、とても優しいお嬢様たち。

 そんな彼女たちを巻き込むことだけは――!


「あの…お金はあげる…。でも、あの…私の友達は巻き込まないで…!」


 蚊の鳴くような声だったかもしれない。それでも、一握りの勇気と最後の意地がそう口から漏れた。

 薄ら笑いを浮かべていた六人の顔に小さな憤りのような感情が浮かぶ。

 美月も私が反抗をしたことが無かったため、少し驚きつつもそれ以上の怒りが見て取れる。


 この後、私はどうなるのだろう?

 まず間違えなく殴られはする気がする。だが、自分で言っていて虚しくなるが、それは中学でいじめられた時の耐性がある。耐えればいいだけだ。


 しかし、そんな機会は訪れなかった。

 

「――女一人を取り囲んで、何やってんだてめぇら」


 一人の幼さを携えた男の声が耳に届く。


 後方から聞こえてきたその声に美月と五人が振り返る。

 つられて私もそちらへと顔を向ける。


 そこには私たちとそう歳の変わらないであろう少年が立っていた。

 学ランを着ていることから高校生だろう、ほとんど中身の入ってないことがわかる薄い学生鞄を肩で担ぎ、右手には何故か生のリンゴが大量に入ったスーパーの袋を持っている。 

 

 しかし、少年は普通の男子高校生とは違う。

 ペッタンコの学生鞄、短めのツンツン頭、細い眉毛、学ランの下の派手なTシャツ。そして、眉間に寄った不機嫌そうな皺。

 そう、まるで昔のヤンキー漫画から出てきたようなヤンキーが目の前に現れた。


 美月とその仲間たちの反応から見て、彼らの知人などではないだろう。

 なら、つまり彼はどうやら私を気にかけて声をかけてくれたらしいことがわかる。 

 

 こんなピンチに助けの手があるなんて、もしかしたら本当に神様はいるのかもしれない。

 しかし、少し手厳しい神様だ。

 普通にイケメン王子様とかでよかったよ~……


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