21話 北風くんは高校生である運命と出会う
結局、その後梢姉さんは買い物に行き、俺の財布がカラになりましたとさ――
なんてふざけた展開は絶対に認めない!
俺は何とか三人を説得し、再び席に着かせた。
明らかに最初とは違い皆さんご機嫌斜めですね、はい。
でも席についてくれたってことは、一応話を聞いてくれるってことだよね。
あー、危なかった。あわやこれから変態ロリコン野郎として扱われるところだったぜ。
「で、そこの変態ロリコン野郎。さっさと続きを話しな」
もう扱われてたよ、おい!
いやまあ、これまでの話だけじゃそう言われても仕方ないかもしれんけどさ…
だが折れませんよ、俺は。
「話を戻そう。そしてもう一度聞く。みんなは『外のロリ』と『内のロリ』を知って――」
「「「知らん!」」」
「さいですか……では説明しよう!」
うう…この感じ、昔のトラウマが暴れ出すぜ…
だがもう一度言うけど、折れませんよ俺は。
「『外のロリ』、これはまさしく見た目のロリさだ。生まれながらに備わった歳をとる事に失われていく悲しい魔法、ちなみに俺はそんなロリさを見るだけで心が洗われるんだ。ああ、素晴らしきかな『外のロリ』!」
「涼香、警察だ。弟が前科もちになるのが心苦しいが致し方ない」
「うん、ちょうど今かけようとしていたとこ――」
「待て待て待て待て!!」
今にも携帯で二つの1と一つの0をコールしようとする涼香姉さんの手を掴み通報を阻止する。
はえぇよ、行動が! まだ何も言ってないし!
「全く落ち着いて話させろよ!」
「じゃあ、落ち着いて聞けることを話しなさい!」
梢姉さんが青筋をピクピクさせている。
「じゃあ簡潔に話すぜ。俺が自身の感情を自覚した頃、確かに俺は『外のロリ』にしか興味は無かった。だけど、中学校に上がって不思議なことに幼稚園や小学校の頃とまではいかなくても、不思議と魅力的に感じる子はいたんだ」
「おお、まだお前の中にも普通の部分が残っていたのか」
「…ああ、そして俺は熱心に考えた。その少女は外見は普通の中学生、俺が魅力を感じる要素は皆無だ」
「皆無とまで言うか…」
「だが、俺はその少女に微かな魅力を感じた。そしてそんな女の子が他にも何人か存在したんだ。そして俺は半年ほど悩みに悩み、一つの結論を得た。――もうわかっただろう、彼女たちは心はまだロリ、つまり『内なるロリ』だったんだ」
「何かよくわからんが、とてつもなくアホなことを聞かされている気がするのです。聞いてて頭がおかしくなりそう」
彩月姉さんが「何言ってんだ、こいつ…」という眼で見てくる。
とてもじゃないが愛する弟へと向ける目ではないと思います。
「そう、つまり俺は外見がたとえ成長しきっていても、心に幼さを抱えた女性ならば愛しく思えることがわかったんだ! だから俺は決意した、『内なるロリ』をもった同年代の女性を見つけて恋をし、その子だけを生涯愛し続けようと!」
全ての話を語り終え、俺はドヤ顔を姉たちに向ける。
姉たちは「だめだ、こいつ…」という顔を俺に向ける。
だが、ふと梢姉さんは「ん?」と何かが頭の隅に引っかかったような顔をする。
「待て、良若。さっきそのよくわからんアホの様な答えを出すのに半年間と言ったな。でも、お前は最近まで家と学校の往復以外は引きこもったままだっただろ。何故だ?」
よくわからんアホな答え、というのは心外だが流石梢姉さんだ。
俺はニヤリと笑い、口を開く。
「さて姉さんたち、ここで問題です。俺はさっき言った「内のロリ」つまり心に純真さや幼さを抱えた女性はどんな環境で生まれやすいと思う?」
「ん? そりゃ、アタシや彩月みたいに恋人も作らずに何か一つのことに打ち込んだやつじゃねーのか」
「ええ、私も涼香姉さんもまだ嫁入り前の清い体ですしね」
「それは二人が私生活でダメダメだから恋人ができないだけで、『内のロリ』とは関係ないだろうが! ロリ舐めてんのか!!」
「ボディ!!」
「ロー!!」
「ぐはっ!?」
ロリを軽視された発言につい立ち上がった瞬間、まさかのボディーブローとローキックが炸裂した。
いてぇ、地味にいてぇ…。
つーか運動部の涼香姉さんはともかく、何で文科系の彩月姉さんがこんなに鋭い蹴りを放てるんだ!?
「今のは良若が悪い」
そんな様子をすっかり落ち着いた梢姉さん(同い年で同じく弁護士志望の婚約者有り)が諭す。
勝ち組の余裕が溢れ出てるぜ…。
「はぁ、まあ答えを出そう。正解は純粋培養で育てられたお嬢様だ」
「はぁ…」
俺の答えがあまりに普通だったのか、三人とも微妙なリアクション。
だが気にせず続ける。
「じゃあこの周辺でそんな漫画で出てくるようなお嬢様のいる学校はどこだと思う?」
「そりゃ…水花院じゃねーの」
「正解だ、涼香姉さん。つまり最終的に俺は何が言いたいかというと――これを見よ!」
そう言って俺はポケットの中に仕込んでおいたとある内容が記載された用紙を取り出した。
姉さんたちの視線がその紙に集中する。
初めに表情が変わったのは涼香姉さん。そして残り二人もその内容を理解しギョッとする。
「おまえ……これ本物か?」
「もちろん、ここまで上げるのに二年近く掛かっちまったけどな」
「いやいや…、マジかよ…」
「これって全国順位ですよね…!?」
それは少し前に行われた全国模試の結果用紙。
そして、その総合科目の順位欄には10の数字が印刷されていた。
いや~、ホント辛かったぜ。だが俺の輝かしい未来の投資と考えれば安い、安い。
そんなわけで俺はこの二年近くずっとずーっと勉強してました。
そして、それはただ一つの目的のため。
そう俺は――、
「俺は学業特待生として水花院に入る。そこで最高の『内のロリ』を持つ運命の相手を見つけるぜ!!」
そして、時は流れた。
四月、無事入学試験に合格した俺は水花院学園の入学式の出席のため、今は校門の前に来ていた。
一般入試の結果は次席合格。と言っても合格者自体そこまで多くないので全員が優秀なのは変わりないがそれでも首席を取れないのは予想外だった。
聞くところによると首席は西堀一途と言うらしい。どうやら同姓のようなのでこれから仲良くなる機会もあるだろう。
そんなことを考えながら校舎への道を歩く。
辺りには同じく入学生と思しき、生徒が家族や友人と一緒に歩いている。
さすが水花院学園。今までの学校とは違い、生徒のほとんどが名家の子だとわかる。
そして、俺の思っていた通り大半の女の子から純粋な波動を感じる。
ああ、ああ…素晴らしき水花院。自分でも相当不純な入学動機だと思うが、打ち込めた者が勝ちだ。
よし、俺はもう失敗はしない。ここで一人の一生愛せる女の子と出会おう。
――そう拳を握りしめ決意を新たにする俺の視線に一人の少女の姿が映った。
かわいい!
反射的に愛らしさを覚えるが、すぐに少女の様子がおかしいことに気付く、涙目で辺りをキョロキョロ見回している。
その様子に考えるより先に足が動いた。
俺はロリの泣き顔は嫌いなんだよね。やっぱり笑顔が一番。
「どうしたの? 道に迷った?」
少女が怖がらないように優しい声音を意識し、目線を少女に合わせるように屈んで声をかける。
俺が声をかけると、少女は顔をこちらに向けて少し困惑したような顔で、
「…えっと、すみません。道に迷ってしまって…」
と答える。
うっ…!!
凄まじい。凄まじい破壊力だ。
完全に「外のロリ」と「内のロリ」を満たしてやがるぜ。
だが、そんな真のロリは俺にとって恋愛対象ではなく保護対象。だって恋愛対象にしたら問答無用で牢屋に入ることになってしまうからね。そもそもロリの笑顔を奪うような輩はロリコン失格だ。
「うん、じゃあ俺が案内するよ」
そういった内心の葛藤は少女を不安にさせるだけなので、俺はそれをおくびにも出さずにそうサラリと提案する。
少女が来ている制服は水花院のもの。水花院の制服事情はよく知らないがこの少女を見る限り、初等部、中等部、高等部が同じようなデザインなのだろう。なぜなら、小学生と思しき目の前の少女が来ている制服は俺の知っている水花院の高等部の制服と同じに見えたから。
幸いにも水花院は初等部から高等部までは隣接しており、全ての建物の配置は記憶している。案内に迷うことは無いだろう。
「どこに行きたいの?」
「えっと、高等部の第二体育館です」
「ん?」
少女の返答に俺は困惑する。
高等部の第二体育館では高校一年生のクラス発表があるはずだ。そしてその後に各クラスで集合し体育館へクラスごとに集まり入学式を執り行うことになっている。
つまり、第二体育館は俺の目的地でもある。それはつまりそこに行くのは高校一年生だけだ。
しかしそこまで考えて一つの答えに至った。
「そっか、お姉さんかお兄さんの代理でクラスの確認だけに来たのかな?」
「え? いや、あの、はぁ…」
しかし、俺が自分の予想を口にすると少女はあからさまに落ち込んだような雰囲気を醸し出してしまう。
なにっ!? やばい、なんか言っちゃいけないこと言ってしまったかも!
どうしよう!?
「やっぱり…。小っちゃいですもん、子どもにしか見えませんよね」
「?」
「大丈夫です、慣れてますんで。お名前を伺ってもいいですか?」
「ん? 俺は北風良若。高等部から水花院に入学する高校一年生だよ」
いきなりの少女からの問いに困惑しながらも、俺はそう答えた。
すると、少女は目の色を変え仰天した。
「え!? ああ、どおりで見たことのない殿方だと思いました。高等部からの入学なんて凄いです!!」
「あ、ああ。ありがとね」
「ということは、やっぱり私と同学年の方なんですね」
…………え? 同学年?
少女の言葉に思考が停止する。
…………俺とこの子が?
「お恥ずかしい話、いつも小学生と間違えられるんですよ。でも一応正真正銘あなたと同い年の高校一年生なんですよ」
そう言って、その言葉を裏付けるように少女はポケットから学生証を取り出す。
それは確かに俺の持っている学生証と同じもので高校一年生と記載されている。
「は、はは。マジか…」
「ええ、まじなんです。改めまして水花院学園1年生、花園アリスです。ここで会ったのも何かの縁です、3年間よろしくお願いします」
そう少しお茶目に自己紹介をして、大輪の花のような俺が今まで見たこともないような可愛らしい笑顔を彼女は咲かせた。
それはまるで雷に打たれたかのような衝撃。
今までの俺の考えの全てを無に帰すかのような邂逅だった。
そのとき、俺はきっと魔法にかかってしまったんだ。おそらく一生解けることのない恋の魔法に――
それが俺と花園アリスさんの出会いだった。