14話 岸波さんはネガティブです
あー、言ってしまった。
つい、言ってしまった。
だって気になって仕方なかったんだもん!しょうがないもん!
頭の中で開き直る。
はたして質問している私はどんな顔をしてるんだろう。
きっと不安で凄い顔をしてるんじゃなかろうか。
聞かれた会長は『いきなりどうした』と言わんばかりの表情を浮かべる。
そりゃそうだ。でも気になったんだもん!
もし月竹さん以外に適任者がいなくてあと一人はくじ引きで決めたとか言われたらどうしよう。
でもしっかり選んだと言われるより納得してしまいそうな気がする。
あー、いっつもこうだ。ネガティブだ。
皆さんの前ではいつも明るく振る舞ってるつもりだけど内心メチャクチャネガティブなんですよ、私。
すっごい根暗なんです、私!
そんなふうに心の中では話しまくるも、実際の私は絶賛沈黙中。
そして、そんな沈黙を真剣な表情と受け取ったのか、会長はゴホンと一つ咳払いをして真剣な目で私に向ける。
普段男の人に見詰められることなんてないから、顔が赤くなっている実感がある。
「岸波。それは――」
「ごきげんよう、みなさん!」
会長が何かを言いかけた瞬間、澄屋敷先輩がいつものより少し高いテンションで生徒会室に入ってきた。
澄屋敷先輩、タイミングが悪いです!
しかし、場の空気は何のその。澄屋敷先輩は生徒会室を見渡すと、
「…あら、もう生徒会の開始時間を過ぎているのに花園さんと月竹さんが来てませんわね。ちょっと弛んでますわ」
「その二人はどちらも用事がある。つーか、おまえも遅刻だ、澄屋敷。いっつも定時にしっかり仕事を始めてる岸波を見習え!」
まさかの飛び火!
澄屋敷先輩がチラッとこちらを見る。そして、そのままこちらに歩いてくる。
どうしよう。生意気だって怒られちゃうのかな。
そんな不安を余所に澄屋敷さんは私の前に立つ。そして、
「さすがですわ、岸波さん。こちらをどうぞ」
と私にカバンから出した小さな、しかし趣のある小袋を私の手に置いた。
「えっとこれは…?」
「私が最もご贔屓にしているお菓子屋さんの金平糖ですわ。岸波さんは毎日頑張ってるので細やかなご褒美です」
そう言って華やかな笑顔で笑うと澄屋敷先輩は自分の席に着いた。
う、ううぅ…、疑ってすみません澄屋敷先輩…。ネガティブすぎる自分が嫌になります。
そんなに私のことを見ていてくれたなんて。
「あ、ありがとうございます」
何とかそんな感情を表に出さずにお礼の言葉を述べる。
澄屋敷先輩は私の言葉を聞いて満足そうに頷くと会長に目を向ける。
「ほとんど賄賂だな」
「お黙りなさいませ。それはそうと会長、確かに私が遅れたのは事実ですが、その理由を聞かずに遅刻だと叱責するのは如何なものかと思いますわ」
「う、うむ…。まあ確かにそうかもしれんな。じゃあ改めて。どうして遅れたんだ澄屋敷?」
「来る途中の廊下で変質者Aに絡まれましたわ」
「ええぇ!?」
澄屋敷先輩がさらりと言った言葉に驚きの声を上げる。
へ、変質者ってこの水花院の中に!?
私の驚きの声とは裏腹に会長は落ち着きはらっている。
「あーなるほど。西堀か?」
「――その冗談は笑えませんわね、会長。絡んできたのはチェンジビジュアルサウスフィールドですわ」
いや誰ですか!?
なんか漫画に出てきそうな地名ですけど…
「変態南野ってことか? どんだけ乱雑な英訳だよ。ちなみに変態は英語でpervertだ。ほれ、リピート・アフター・ミー、pervert」
「馬鹿にしてますの? そんなことは知っていますわ。遊び心ですわよ、遊び心」
一瞬で澄屋敷先輩の言ってることを理解する会長。そしてそれを鼻で笑うかのように躱す先輩。
凄まじい! けど確かに乱雑すぎます!
そして普通は変態の英語なんて知らないと思います!
「――まあ、それ以前に十五分ほど教室で今日の一途様との会話を脳内反復してたんですけどね」
「明らかにそっちの方が主な原因じゃねぇか!」
会長のツッコミが炸裂し、再び二人の言い争いが始まる。
うん、この会話の中に入るのは無理だ。
私は会話への参加を諦め、澄屋敷先輩からもらった小袋から一つ金平糖を取り出して口に入れる。
あっ、美味しい。
甘いものは好きだ、幸せな気持ちになる。
澄屋敷先輩の入室で結局質問の答えは聞けなかったけど、まあいいか。
そう心の中で納得する。
そんな時、澄屋敷先輩との口喧嘩が一段落着き席に座りなおした会長が、
「ふっー、ったくお前は本当にやかましいな」
「その言葉はそっくりそのままリターン・エースですわ」
「あー、もういいから仕事しろ、澄屋敷。――ああ、それとそういえば澄屋敷。岸波が俺たちが岸波を生徒会役員に選んだ理由を知りたいらしいぞ」
と平然と言ってのけた。
その話、終わってなかったんですかぁ――!?