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12話 南野くんはお世話になっている


「今、君がもっともお世話になっている人は誰だい?」


 これは俺が男子と知り合ったときに最初に聞く質問。

 だって大事でしょ、それって。

 多くの人は一瞬怪訝な顔をしたあとに、俺が真剣に聞いていることに気付くと「うーん」と少し悩んでから答えてくれる。


 一番多いのが両親。うん、たしかに僕もお世話になっている。俺のことを生んで、ここまで愛情を持って育ててくれたのだから、もちろんそうだ。

 

 または友達。うん、たしかに。実は俺の友達は変わってる人が多い。でも、そんな彼らと一緒に話したり、お互いのことを語り合ったりするのはとても楽しくて、時間が過ぎるのも早い。

 

 はたまた、恩師。俺がこの質問をし始めたのは中学二年生からだけどそれでも確かに素晴らしい先生に出会い救われるような経験をした人はいるのだろう。俺も進学するにあたって相談に乗ってもらったりもした。

 

 あるいは恋人。俺はいまだにそんな人が出来たことはないけど、お互いのことを理解し合い、惹かれ合い、そして一緒に過ごしてくれる。たしかにお世話になっているのかもしれない。


 他にも兄弟や祖父母、部活の先輩など色々な答えを返す人がいた。


 うん、どれもこれもよくわかる。よくわかるんだ。

 

 ――でも、それは本当にもっともなのかい。自分の本当の気持ちに気が付いていないんじゃないのかい。


 もちろん人それぞれ感性や考え方があるのは当然だ。それを否定するつもりは毛頭ない。

 でも、それでもさ。俺は最低でも95パーセント以上の人が実際に今もっともお世話になっている人は共通していると思う。

 

 たとえば、5歳の男の子に戦隊ヒーローもののアニメは好きか聞いてみるとする。

 きっと大半の子は好きと答えるだろう。

 たとえば、5歳の女の子に変身魔法少女もののアニメは好きか聞いてみるとする。

 きっと大半の子は好きと答えるだろう。


 そう、それと同じなのだ。

 ちなみに小さい子でたとえたことに意味はないよ。意味があったら良若とキャラが被っちゃうしね。四天王なんて呼ばれてるけど、その四人の中でキャラ被りなんてナンセンス。

 

 話を戻そう。

 ある決まった条件を持つ集団に対する決まった問い。必ず偏りが出る条件と問い。

 俺がこの問いをしたのは中学二年生の頃から、今現在高校二年生の間。

 つまり何が言いたいかというと、この範囲の男子がもっともお世話になってる人は一緒でしょ、ということ。


 この問いの肝は”今”という条件のこと。つまり現在進行形だ。

 ”今まで”ならばさすが95パーセント以上はないと俺も思う。

 だが”今”だ。そう中高生男子の”今”なのだ。

 なら自ずと答えは決まるだろう。いや、決まる。


 しかし、これまで俺の思い描く答えを口にしてくれた人はいない。

 やっぱり恥ずかしいのか。でも恥ずかしがってるようではだめだ。

 男なら堂々としていなければ!


 中高生男子といえば多感なお年頃。そして、色々と発達し心身ともに大人になるはずだ。

 ならばその男としての成長を自覚させてくれたのは誰か?

 その際にもっともお世話になったのは誰か?


 ここまで言えば分ってくれるだろう。

 だから俺も簡潔に、そして声を大にして言おう。


 ――中高生男子ならばもっともお世話になっているのはAV女優さんだろうが!!!!


 つまりもっともお世話になっている人を聞かれたのなら、自分の一番大好きなAV女優さんの名前を答えるべきなのだ。


*****―――



「何か用ですか。変質者A」


「失礼な、だれが変質者だ! 俺はいたって真っ当で普通の男子高校生だ」


 ふと見かけた澄屋敷さんに話しかけたら、一度シカトされた上に開口一番そんな毒を吐かれた。

 ひどい。

 でも基本的に澄屋敷さんは一途以外の男は塩対応だけど、俺達三人は何故か一段と嫌われてる気がするんだよね。なんでだろう?


「変質者はみんなそう言いますわ。…で、なにかご用ですか?」


「いや別にこれといった用がある訳じゃないよ。ちょっと校舎で時間つぶそうとしてたら偶然にも澄屋敷さんを見つけてね、ちょっと話相手になってもらおうと思って」


「何故私があなたの時間つぶしに付き合わなければいけないんですの?」


 穏やかな表情だが地味にイライラしているのが分かる。

 そして俺はこんな風にあまり表情を隠さない澄屋敷さんが実は嫌いじゃない。


「え? だって俺と澄屋敷さんって友達でしょ?」


「断じて違いますわ!」


「即答ですかー」


「当たり前のことなので即答したまでですわ」


 地味に傷つく。

 まあ、確かに俺が一方的に友情を感じてるだけかもしれない。

 澄屋敷さんからすれば思い人の友人程度の認識だろう。


 そんなふうに思っていると澄屋敷さんの視線がある一点で止まる。

 俺の左手。正確にはそこに握られている手紙。


「ああ、これ。何か朝来たら下駄箱に入ってたんだ。でも正直、時間指定までしておいて自分の名前も書かないのはどうかと思うよね。今日は偶々、握手会の予定とか入ってなかったから一応行くけどさ」


「あー、やはり川上某からの挑戦状ですか…」


「え? なにそれ?」


 何かを知っているような澄屋敷さんからの口ぶり。

 しかし、それ以上は何も言うつもりは無いようで澄屋敷さんはそのまま話題を変える。


「告白されたらOKしますの?」


 なんやかんや少し話に付き合ってくれるらしい。

 やっぱりいい人だよね。


「まあ場合によるね。もし俺の持論を理解してくれて、尚且つそれを一緒に共有しようとしてくれる素敵な子だったら、もしかして俺に初めての彼女ができるかもしれないよ」


「なら無理ですわね。ご愁傷様ですわ、川上某」


「…だから、川上某って何? というか誰?」


「いえ、それは私が言うことではありません。――では私は仕事がありますので」


 そう言うと澄屋敷さんはクルリと踵を返す。

 どうやら生徒会に向かうらしい。

 ホントに少しの話だったね。


 あー、そうだ。最後にご機嫌の理由でも確かめておこうかな。


「――澄屋敷さん、一途の攻略は順調?」 


 そのままこちらを振り返らず進む澄屋敷さんの背中に声をかける。

 澄屋敷さんは後ろ手に親指をグッと立てて拳を握った。

 どうやら何かいいことでもあったらしい。


 それを確認して、フフッと思わず笑みが浮かぶ。

 俺は澄屋敷さんも一途も人間的に好きだ。だから、そんな二人を応援したい。

 

 だってさ、なんやかんやで一途と澄屋敷さんってお似合いなんだもん。


「さってと、俺は俺のやることをやりますかね」


 澄屋敷さんの後姿を見送り、空き教室の時計を確認して、少し早いが俺も移動することにする。

 手紙に書いてある放課後の校舎裏へと。

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