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抗えない太陽:6

 遺体が下ろされ、現場保存のために騎士たちが交代しながら作業に当たる。

 地上に降りたレヴィはしばらくオリバーから事件の状況を確かめながら、ハルの方へと向いた。


「まだ、来るかい?」


 ハルの返事は今回も早かった。

 ダイン卿が許可した手前、レヴィもその返事と行動を特に咎めることもせず、二人は一度彼女の薬屋へと戻る。

 あとで遺体を確かめるための道具があるらしい。


「しかし、君も飽きないな」


 どういう意味だと訊き返す前に、彼女は言葉を続ける。


「私の人となりは説明しただろう。私を知る人々から忌み嫌われるネクロマンサーだ。そのネクロマンサーに興味を抱いて、好き好んで捜査方法を知りたいなど変わっている」


 そうは言っても、レヴィは決して不快に思う顔をしていない。

 むしろ興味を持つハルに興味を持った、そんな顔である。


「忌み嫌われるって……でもレヴィさん、僕の父やダイン卿はそんな風には見えませんでしたよ? 騎士団の人も、僕の知っている人は何も気にしないって感じでした」


 仕事とはいえオリバーは極めて冷静に接し、ダイン卿も強く毛嫌いをしている風ではなかった。手紙を任して来たオルツは忠告をしていたが、ハルに任せるなんてレベルだ。


「ダイン卿は元々あんな人だ。君のお父上は――あー、これは直接聞いた方が良いだろう。騎士団が多少理解しているのは、他でもないそのお父上のおかげだよ」


 どうやら、ハルも知らない関わりがレヴィと父の間にあるようだった。

 それが何なのか非常に気になるが、まずは目先のことに集中せねばならない。


「これとこれ……ん、あの薬草はどこへ行った?」


 カウンターの奥でガタガタと音を立ててレヴィは何かを探している様子である。

 店に戻った先ほどから時間の大半はそうしていて、一向に進む気配を見せない。

 さすがに気になって後を追うと、身をかがめたレヴィの腰がふらふらと揺れている。

 コートの上からでもわかる女性的な外見が艶めかしく映り、ハルは恥ずかしくなって慌てて目を背けた。


「んー……こっちだった、か? あ痛っ!」


 足元の低い位置の棚を探し、ついでに頭を角にぶつける。

 屈んで揺れる臀部が妖しい黒髪もあって妙に煽情的に見え、ハルは慌てて目を背けて何を探しているのかを訊いた。


「ああ、ちょっとフレイジアという薬草を探してて……」

「その薬草は……あれ、これですよね?」


 自分の目線の高さ。瓶と瓶の奥に、本で学んだ種類の草がある。

 丁寧に瓶をどけて取り出すと、それは目的のものであった。


「すごいな。見分けがついたのかい?」

「ええ。僕、薬師になろうと思ってますから」


 舌の上から零れ落ちる夢。

 普通ならばそれを聞いた他人は軽い納得などをするものだが、どうしてかレヴィは戸惑っていた。


「……何か?」

「いや……。まあ、それにしたって大した知識だ。これでは薬師の先輩として顔が立たないな、ふふ」


 今の戸惑いを打ち消すかのごとく言葉を変え、ハルの見つけた薬草を一つまみ掬って、小さなトレイの上に置いた。

 よく見るとトレイの上には赤い円の術式が刻まれており、これが特別なものなのだと一目でわかる。今の薬草に加え、他にも何かの粉末を振りかけると混ぜ合わせた。


「あの、レヴィさん。事件のことは本当に……どうして、わかったんですか?」


 事件の全貌。

 今は仮定であっても、徐々に現実へと変化させつつある。

 しかし『もう終わり』とまで答えきったあの時、驚くしかなかったのだ。

 何も具体的な存在しない状況で――彼女は既に答えを得ている。だが、どうして簡単に言いきれたのか。


「そうだな、当然ながら騎士団からの情報と私の死霊術もあるが……最も有力なのは」

 一度息を飲んで、ハルは次の言葉を聞いた。



「勘、だな」

「勘、ですか」



 非常に信じられない理由。だが、後の続く理由を聞けばその限りではない。


「ネクロマンサーは代々、王都の裏で事件の処理をしている。そのせいか、『本能』とも言える勘がどうにも反応するんだ」


 ――特にそれが奇妙奇怪なものである限り。

 ネクロマンサーはその知識と経験から生まれた『勘』を元に騒動へと挑む。

 既知でありながら手の届かない、未知の領域で歩を進める。


「言い換えれば、私達にしかできないこと……過去に何があろうと、与えられた役割がそうさせるのかもしれないな」


 世界の外を進んだ者。

 今は世界の外からも弾かれて、中でしか生きられぬ者。

 その者達でしか守れぬ領域が、未だに消え去っていない。


「とは言え、憶測で判定すれば私は処罰される。『結果』を得るために『過程』を証明しなければならない……実は、一番面倒だと思わないかい?」


 苦笑しながらもレヴィは受け入れている。

 先祖の犯した外法の道を、否定することなく。


「やっぱり、レヴィさんはすごいですね」

「おや、突然どうしたのかな。褒められてもいいものは出せないよ」


 さて、と立ち上がった膝の上には、他にも探していた荷物がまとめられている。

 大概はハルが見ても全くわからない金属製の道具や瓶などで、わかるのは薬草の種類位だけだ。

 そんな妖しさも、彼女の前には美しさの引き立てにしかならないが。


「ちなみに……他殺体でも自殺体でもない。それなら何があの人を死なせたんでしょう?」

 彼女は付け足すように病死でもないとしていた。人の死ぬ理由は、突き詰めれば限られる。


 わかる状況を並べれば――突然死と例えるのがやはり妥当だ。だから突発的な死と明らかにしたのは間違っていない。


「例えば……じゃあ、例えば。他殺とは何だ?」

「それは」


 自分じゃない、誰かに殺されること。

 他者によって命を奪われ、魂の外殻を失うことだ。


「そう、他殺とはつまり殺されること――受動的に強制的に死を迎えること。対して自殺とは能動的に死へ向かうこと……私の一族は、そんな風に考えている」


 結果が同じでも、道行は違う。

 ただ行程が違うだけで、周囲に散らばる感情はあまりにも違いすぎる。

 レヴィは四角いヴァイオリンケース――を改造したらしい鞄に集めた荷物を入れ始めた。ハルは手伝おうとも考えたが、彼女の言葉を待った。


「あの魂は若い。どうしてそうなった? どうしてこうなった? あまりにも不可解でわからなくて、奇妙過ぎる――そういう面倒なものが、入り混じり、入り混じり、混濁して魂は白くなった。これだけは断言しよう。あの女性は、自分でもどうして死んだのか知らないんだよ」

「死んだかどうかわからない……?」

「魂の全体を呼び出し対話すれば、もっと単純に事件解明もできる。しかし、仮にそれをしても不可能だったと思うよ」


 知識の流布を避けるため、王宮魔術師や神官付き添いでしか使えないが。と解説を加える。

 魂の情報や記憶を知ってもわからない『死』とは、もう想像もできなかった。


「まあ、こんなものか。騎士の方々を待たせているから――」


 荷物を背負い、レヴィは告げる。


「それじゃあ行こうかハル。悪いが、事件解明は向こうでしよう」


 ネクロマンサーは歩き出す。

 異常事態などまるで心地よい風のように、吹雪の中を。


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