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快適な睡眠と抱き枕  作者: えっちゃん
4.私と魔王様、時々勇者
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17.これにて大団円?

4章最終話。

糖度高めです。

 金色の鎖にぐるぐる巻きにされた翔真は、何とか鎖から逃れようともがいてカーペットに倒れ込んだ。


「くっ、このっぐえっ!?」


 倒れた翔真の側まで歩み寄ったベアトリクスは、怪訝そうに眉を寄せてもがく少年を見下ろす。


「まさかとは思いますが、この者が勇者殿? ……素敵な殿方を想像していたのですが、仕方ありませんね。伯父様から世話をするように言われていますから、この者はわたくしが預かりますわ」


 明らかに落胆して溜め息を吐いたベアトリクスは、翔真を捕縛している鎖に魔力を注ぐ。


「俺は理子さんと話が、ぐっ!」


 鎖から伝わった魔力によって、翔真の体がビクリッと大きく揺れた。

 動かなくなったのを確認して、パチンッと、ベアトリクスは指を鳴らす。


「失礼します」


 合図を受けて、ベアトリクスの世話と警護を担っている、筋肉質で力強い体型の侍女が室内へとやって来る。

 屈強な侍女は理子へ一礼すると、ぐったりと力を失った翔真を荷物のように楽々と肩へ担いだ。


「こちらは気にせず、リコ様はゆっくりお休みください」


 にこやかに告げるベアトリクスは、何かを含んだ微笑みを浮かべると淑女の礼をして理子に背中を向けた。


 翔真の今後の扱いについてやダルマン侯爵の事など、聞きたいことは色々あるのに理子は呆気にとられてしまい、その間にベアトリクスと翔真を担いだ侍女は部屋を後にしてしまった。




 部屋に残された理子は、エルザとルーアンの手によって破れた服を脱がされ湯浴みに全身マッサージを施され、涙と汗でどろどろだったのをぴかぴか艶々にしてもらった。


 初めて魔王以外の者に髪を乾かしてもらい、丁寧に櫛で梳かれる。

 艶々になった髪から香るのは、湯船に浮かべられた薔薇と同じ、高貴な甘さとエレガントさが混じった香り。

 丁寧に手入れしてもらえて嬉しい反面、髪を整えるのが魔王じゃないのは少しだけ寂しくもあった。


(シルヴァリス様は大丈夫かな……魔王様だもの、きっと直ぐに帰ってくる、はず)


 バルコニーに面した窓を見れば、真っ暗な空に稲光が走り抜けた。




***




「リコ様、魔王様がいらっしゃいました」


 夕食後、ルーアンが淹れてくれた紅茶を飲み干したタイミングでエルザが魔王の訪れを理子に告げる。

勢い良く立ち上がった理子は魔王の私室へ続く扉へと駆け寄った。


「シルヴァリス様」


 部屋へやって来たシルヴァリスは、すでに湯浴みを済ましてきたらしく黒い寝間着を着ており、ほのかにジャスミンの香りがする。

 彼の白い肌には傷一つ見当たらず、燐光を放つ銀髪に乱れも無く、何時もと何も変わらない麗しい魔王の姿に理子は安堵の息を吐いた。


「リコ」


 椅子から立ち上がった理子へ向けられた優しい微笑みに、つい見惚れてしまう。


 頬を染める理子の肩へ腕を回し、シルヴァリスは自分の方へと抱き寄せるとそのまま横抱きにして長椅子へ腰を下ろし、膝の上へと横向きで座らせる。


 膝の上へ座らされると、目線が同じになるため視線を逸らす訳にはいかずに、恥ずかしさから理子は視線を逸らした。



「あの、シルヴァリス様、ダルマン侯爵は……?」


 甘い雰囲気に流される前に気になっていたカルサエルの処遇について問う。

 あの時の魔王様の言動からは、カルサエルを無罪放免にするとは考えられないからだ。


「お前が気にすることではない」

「そうですけど……」


 キッパリ言い切られて終了させられると、それ以上は聞きにくくて眉尻を下げた。

 呆れた様にシルヴァリスは深い息を吐く。


「まったく、お前は、久々に愛しい妻に触れられて喜ぶ夫を労ってはくれぬのか?」

「い、労るって」


 何の事と首を傾げかけて、理子は数日前にベアトリクスが教えてくれた事を思い出す。

 そうだった。魔王様は人族の国々の戦争回避のために色々動き回ったり、勇者となった翔真君と戦って疲れているのだ。


 羞恥心を抑えて、理子は背筋と首を伸ばして目を閉じた。


 ちゅっ


 軽いリップ音を立てて離れる唇。乏しい知識では、ここまで密着した状態で労るといったらハグかキスしか浮かばず、初めて自分からシルヴァリスへ口付けた。


「シルヴァリス様……お帰りなさい」


 恥ずかしくて逸らしたくなるのを我慢して、理子は視線を真っ直ぐシルヴァリスへと向ける。

 顔中だけじゃなく全身が熱を持って熱い。今の自分は、全身茹で蛸みたいに真っ赤に染まっていることだろう。


「ああ、ただいま」


 心なしか、シルヴァリスの目元がほんのりと赤くなっている様に見える。


 まさか、と思いながら半開きにしていた理子の唇をシルヴァリスの唇が塞ぐ。

 半開きの唇からヌルリと舌を差し込まれて、舌を絡ませながら深くなっていく口付け。

 口付けに夢中になっている理子の背中にはいつの間にか腕が回され、長い指先がドレスの胸元から中へと侵入してくる。


(駄目っまだ聞きたいことが……!)


 それ以上先へ進まないように、肌を這う指先を理子は抱き締めた。

 焦った理子は顔を背けて無理矢理唇を離す。引き抜いた舌からは、透明の糸が垂れて口元を濡らした。

 

「ま、まって! もう一つ聞きたいことがあるのっ。シルヴァリス様はこうなる事を予測していたの?」


 ピクリッ、と胸元を弄る指の動きが止まる。


「何をだ?」

「もしかして、私は貴方に利用されたのかなって思った、の。ダルマン侯爵を動かすため、に」


 城へ戻った後に思い返して、魔王によって私が妃候補にされてからカルサエルが行動を起こした時期が重なると気が付いた。

 これは偶然、にしてはタイミングが良すぎる。

 魔国へ理子を召喚した時から、魔王は山田理子の存在も計略の中へ組み込んでいたとしか考えられなかった。


 最初に「興味を持った」のは企みに使えるかどうかで、今更シルヴァリスからの重すぎる愛情は疑うことはしないが、山田理子を「愛してしまった」のは魔王にとって誤算だったのかもしれない。



「さて、どうだろうな」


 ニヤリッと、シルヴァリスは不敵な笑みを返す。


「誤魔化さないっ、んんっ」


 続く言葉は、唇に噛み付かれてしまい発せられなかった。



 ゆっくりじっくりと重すぎる愛情を注がれていると、たとえ全てが魔王様の手のひらの上で転がされていたとしても、それでもいいかなと思ってしまう。

 壊れ物を扱うみたいに優しく触れてくる、シルヴァリスの指と媚薬のように甘い唇と舌によって、理子の体も思考もどろどろに蕩けさせられてしまうのだった。



 色々あって逢えなかった数日分を取り戻す様に、魔王によって散々愛されてしまった理子は、翌日の昼近くまでベッドから出られなくなった。




 ***




 勇者だからと、処罰されてないか心配していたベアトリクスに連れて行かれたままだった翔真と再会出来たのは更に一週間後で。


 ベアトリクスと何かあったのか、二人の間に流れる空気が穏やかになっていた。


「ずっと帰りたいって思っていたけど、実際帰れるとなると複雑だな」


 元の世界へは魔王の力で還る手筈になったのだが、翔真は喜びと戸惑いが混じった複雑な表情を浮かべる。

 元の生活へ戻ったとしても、戦いも何も知らない高校生には戻れない。そう、彼の瞳が語っていた。






 二ヶ月後ー


 職場の勤務最終日。

 業務就業時刻となり、理子は職場の同僚と上司から花束と拍手を贈られて、感謝の涙を流しながら二年半の間勤めた会社を退職したのだった。


 職場の建物を出て、数歩歩いてから理子は後ろを振り返る。

 社会人になって学んだこと、大変だったこと楽しかったことなどこの職場で色々経験した。

 特に今年は、春先から自分を取り巻く状況が目まぐるしく変化していって退職までは駆け足だった。

 これからの生活に不安が無い訳では無いけれど、魔王様が何とかしてくれる筈だ。


 服の上から、胸元を深紅に彩る妃の印をそっと撫でて、理子は歩き出した。

ヒロインが、企みの一辺に気付いてちょっと嬉しい魔王様。

ベアトリクスと翔真の話はそのうち番外編で載せられたらな、と考えています。

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