表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
快適な睡眠と抱き枕  作者: えっちゃん
3.私と魔王様のお盆休み
51/78

16.そして、甘美な感情を知る

甘甘です。

いちゃいちゃが苦手な方はご注意ください。

 理子の態度から逃げる気は無いと分かったのか、漸くシルヴァリスは顎を掴んでいた指を外す。

 チャンスとばかりに、理子は少しだけ横へ体をずらして彼から拳一つ分程の隙間を空ける事に成功した。


「ねえ、私がテオドールさん達に会ったのは、偶然じゃないでしょ?」


 密着状態から解放された理子は、ずっと疑問に思っていたことをシルヴァリスに問う。


「何の事だ?」


 わざとらしく言うシルヴァリスは口の端を上げる。


「偶然にしては出来すぎているもの」


 水鏡の反応がおかしかった時点で違和感はあったのだ。

 出奔していた王子が滞在する街へ跳ばされ、酔っ払いに絡まれたのを助けてくれたのが王子の仲間だなんて、偶然にしては出来過ぎている。

 一晩召喚に応じなかっただけで、他の男性と手を繋いで髪に触れただだけで不機嫌になった魔王が、一人寝を寂しがるこの男が一日半も理子を自由にした。

 その理由は何なのか。


「だから、私の我が儘を叶えてくれたの?」


 王様の仕事は忙しいのに我が儘に付き合ってくれているのは、恐い目に遭わせた罪滅ぼし……とは考えられないから、理子を一人で行動させないようにか。それとも、シルヴァリスも二人で出掛けたかったのどちらか。


「だとしたら、どうする?」


 たとえ裏があったとしても、我が儘を叶えてくれたのは嬉しい。

 ファンタジーな世界を少しだけ冒険出来て、テオドール達と知り合えたのも貴重な体験になった。

 きっと、今夜の事も理子にとって忘れられない出来事になると思う。


「どうもしないよ。異世界の住人である私には、彼等に何も出来なかったのだもの。結果的に、貴方が彼等を助けてこれからの関わりを結ぶ事になって、上手くいったんでしょう? ただ、ドラゴンゾンビは怖かった」


 思い出してしまい、理子は両腕を抱き締めて身震いする。

 襲われたのが人外の、ドラゴンゾンビで良かった。人形のアンデットだったら、かなりトラウマになっていただろうから。


「まだ、何か企んでるの?」

「さてな」


 色彩は人に合わせているシルヴァリスは、魔王の顔で至極愉しそうに笑った。

 でも、まあいいかと思う。企んでいたとしても、理子には到底考え付かない事だろうから。


「企んでいたとしても、この世界でいっぱい綺麗な景色を見られたから、向こうでは絶対に出来ない刺激的な体験も海外旅行みたいな観光も出来たし……許せるかな」

「リコ」


 一人で納得している理子の二の腕を掴んで、シルヴァリスは自身の方へと引き寄せる。


 ぽすっ

 呆気なく、横にずれて空けた隙間を無くされ横向きで倒れた理子は、体を反転させられてシルヴァリスの胸に顔を埋める形で受け止められた。

 上半身はシルヴァリスの胸に頬を寄せて、下半身は横抱きで彼の膝へと座らされる。


「リコ、もう黙れ」


 静かな口調で、抗えない命令を下された理子は口をつぐんだ。


 どんな表情をしているのか気になって見上げれば、何時もの赤と違う穏やかな橙色の瞳にぶつかり、魅入られたように動けなくなる。

 固まる理子に、シルヴァリスは艶やかな笑みを見せると、そっと口付けを落とした。


 何度も啄むように口付けされて、理子はくすぐったさにシルヴァリスのガウンの胸元を掴む。

 甘噛みされる唇に気をとられていると、理子の太股を大きな手のひらが這うように触れた。


「っ!?」


 ガウン越しではなく、肌に直接触れられて理子はビクッと体を揺らす。


「どこだ?」


 体を固くする理子の耳元へ唇を近付けて、シルヴァリスは低く甘い声で囁く。


「どこを、あの戦士に触れられた?」


 戦士とは、酔っ払いから助けてくれたウォルトの事か。

 どこと問われてもおんぶされただけだ。それだけで嫉妬される意味が分からない。


 ガウンの裾から侵入した手は、するりと理子の尻の丸みを一撫でする。

 ビクリッ、直に尻を触られて、理子は大きく体を揺らした。


「きゃあっ! ちょっと、だめだって!?」


 触られた事と、下着を穿いて無い事を知られてしまったという羞恥から、体中の体温が上がる。

 シルヴァリスの胸に手を当てて、どうにか距離を空けようとする理子の背に回した腕の力を強め、さらに抱き寄せる。


「何が、駄目だと? 下着を身に付けて無いとは、俺に抱かれる準備は出来ているようだな」


 耳に唇を当てて色気のある声色で言われてしまい、理子は「ぎゃっ」と呻く。

 準備出来ているとかではなくて、替えのパンツが無かっただけだ。


「じゅ、準備とかじゃなくて! 替えが、きゃあっ撫でないで! それと、ウォルトさんは腰が抜けた私を助けてくれただけで、疚しいことはなにもっんっ」


 黙れとばかりに唇に噛み付かれて、理子はそれ以上の台詞を続けられなかった。


「お前に、俺以外の者が触れるのは……許さぬ」

「そ、そんなに独占欲と支配欲丸出しにされたら、私は生活しにくくなっちゃう」


 シルヴァリスから放たれる圧力が怖くて、理子の声は尻窄みになる。

 首輪か鎖でも付けられそうなくらいの独占欲から逃げたいのに、背中に回された腕の力は強くて、逃がしてはくれない。


「好いた女を独占して何が悪いのだ」


 慌てる理子に、シルヴァリスはハァと息を吐く。

 一変して圧力は霧散し、シルヴァリスの橙色の瞳が寂しそうに揺れる。


「好いた……」


 魔王の冷徹な顔、自信満々で偉そうな表情はよく見ているのに、寂しそうな子犬みたいな表情を見るのは初めてで。彼を傷付けてしまったのかと、理子の胸はきゅうっと締め付けられた。

 

「俺は、リコを、山田理子という女を好いている。狂おしい程……愛してる。逃げられるなら、鎖に繋いで閉じ込めてしまいたい。俺を拒むならば、体も魂もを引き裂いて喰ってしまいたいくらいに」


 ……傷付けた訳では無かった。

 寂しそうに揺れてたのでは無く、彼は自分の想いを確認していただけだった。

 リコではなく「山田理子」として、「愛して」くれている事に理子の心臓の鼓動は速まり、身体中が熱を持つ。

 しかし、続く拉致監禁、カニバリズムというとんでもなく恐い発言に、理子の顔色は赤から青へ、横断歩道の信号機のように変化する。


 倒錯した愛が重い。

 魔王の愛を受け入れたら、色んな意味で駄目にされそうで恐い。……恐すぎる。



「私、私は……」


 こんなに恐い魔王、たとえ逃げられなくてもテオドール達にくっついて旅に出るとか、魔王に太刀打ち出来そうな宰相殿やベアトリクス嬢に泣きついて、何とか逃がしてもらうべきだと思う。

 ヤバイと分かっていて逃げなかったのは、とっくに捕らわれていたから。


「私は、ずっと貴方に助けてもらっていた」


 新年度早々から始まった貴方との壁越しの会話に、理子の心はどれだけ救われていただろうか。

 たとえ、不可抗力で流されるまま異世界へ喚ばれていたとしても、理子が本気で嫌がれば魔王は抱き枕の扱いをしなかったと思う。

 気心が知れた飲み友達、あたりで止まれたかもしれない。


 今なら、抱き枕の扱いを拒まなかった自分の、抱いていたふんわりとした感情が分かる。

 貴方が人外の魔王だろうと、鱗を生やしたトカゲは触り心地が悪そうでちょっと考えてしまうが、角や羽根が生えた外見だったとしても、貴方の事がずっと……


「私は、私も、貴方が、シルヴァリス様が好き、です」


 真っ赤に茹で上がってしまった顔が熱い。

 告白相手の膝に座っての愛の告白とは、シチュエーションとしてはどうなんだろうかと、理子は沸騰した頭のどこかで考えていた。



 目を見開いて固まったシルヴァリスは、手のひらで自分の顔を覆った。


「ふ、クククッ」


 手のひらで顔を覆ったまま、シルヴァリスは肩を揺らして笑う。


「愛など下らぬ、魔王に情など必要無いとずっと思っていたが」


 手のひらを外したシルヴァリスを見て、理子は息を飲む。

 何時も冷静沈着な彼が、頬をほんのり紅潮させていたのだ。


「好いた相手から、想いを告げられるのは……これほど美味な、甘美な感情だったのだな」


 頬を紅潮させて、口元まで緩ませる魔王を、理子は唖然と見上げた。

 私からの告白によって、まさかこんな可愛らしい表情をするとは、信じられない。

 どうしてスマートフォンかカメラを持ってこなかったんだと、心底後悔した。


「シルヴァリス、んっ」


 大丈夫かと見上げていた理子を、シルヴァリスは押し倒す勢いで抱き締める。

 驚く間も与えてくれずに、シルヴァリスはそのまま理子の唇を甘噛みした。


 角度を変えて何度も落とされる口付けに、理子は息苦しくなって僅かに唇を開く。


「んっ」


 唇の隙間からスルリ、と熱い舌が入り込む。


(んむー!? 死ぬー!!)


 焦る理子を無視して、シルヴァリスの熱い舌先は歯列をなぞり、奥へ逃げようとした舌を絡めとると軽く吸い上げた。


 執拗な舌技に、翻弄されつつ徐々に応じていく。

 頭の中が蕩けるような感覚。

 キスだけでこんなに気持ちが良くなるだなんて、知らなかった。

 貪るように舌を吸われて、理子の思考に霞がかかっていく。



「はっ……」


 理子の体から力が抜けきったのを見計らい、シルヴァリスが唇を離す。

 名残惜しそうに、舌と舌を繋いでいた唾液の糸が切れて、口の端に垂れた。


 強烈な口付けで腰砕けになってしまった理子は、ぐったりとシルヴァリスの胸にもたれ掛かる。

 困った事に蕩けきった思考は、これで終わるのは嫌だと、貪欲に物足りなさを訴えるのだ。


「やめないで」


 潤んだ瞳で、理子はシルヴァリスのガウンを掴み見上げる。


「もっと、して?」


 普段の思考だったら絶対に言わない“おねだり”に、シルヴァリスは愉悦の笑みを深くする。


 自らこれ以上を望めば、もう逃げられないのは分かっていた。

 それでも、今の理子は彼が欲しくて堪らないのだ。



「望みを叶えよう」



 耳元で低く甘く囁くと、シルヴァリスは理子を横抱きにして寝室へと歩き出す。



 全ては魔王様の手のひらの上だったとしても、平凡なOLだった山田理子は、この夜、魔王の倒錯した愛を手に入れたのである。

魔王様に陥落しました。

二人がどんな夜を過ごしたのかは...ご想像にお任せします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ