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快適な睡眠と抱き枕  作者: えっちゃん
3.私と魔王様のお盆休み
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11.こういう展開は苦手なため勘弁してください

 ガッシャンッ!


 背後から襲いかかってきた骸骨兵をウォルトは力任せに大剣で凪ぎ払う。

 そのま返す刃で体の半分が腐り落ちたゾンビ兵を袈裟懸けに切り伏せた。


「ちっ、次から次へと埒があかないな」


 涌き出るように襲いかかってくるアンデット系の魔物を倒し続け、体力がある筈のウォルトの顔にも疲労の色が見えてくる。


 地下ダンジョンでは下手に撃てば自分達も巻き添えを食らうため、エミリアの広範囲攻撃魔法が使えないのも苦戦を強いられている原因でもあった。

 魔力を込めた剣で戦っていたテオドールも、流れ落ちる汗を手で拭う。


「アンデットが自然発生するなど有り得ない。何かきっかけがあった筈だ」


 大体の場合、一度死を迎えている者をアンデットを動かすのは術者がいる。

 術者が事切れている場合でも残った魔力により動かされる事もあるが、余程強大な魔力を持つ魔術師じゃなければこの数のアンデットは使役出来ない。


 ゴオオ!


 狼系のゾンビが炎に閉じ込められて、じたばた苦しそうに悶えて絶命する。

 燃え盛るゾンビの体が当たった石の壁は、黒い焦げあとが付いた。

 魔法を放ったエミリアも大きく息を吐き出した。


「確かに。このダンジョン内に操っている術者がいるのかも。それか、この遺跡は暗黒時代の物だし、古の魔王に対抗するための力が残っているのかもしれないわ。それを誰かが利用した、とか?」


 倒れたアンデットの体を目をよく凝らして見れば、何者かの魔力の残滓が残っているのが分かる。ちっとエミリアは舌打ちをした。

 強い魔力の残滓は、明らかに使役の術だ。

 アンデット達に使われたと思われる、使役の魔法を使える者は限られている。


「暗黒時代、人と魔族が争っていたのは500年以上も昔だろ? そんな長い間、アンデットが使役されていたのかよ? 遺跡地下に魔物が出るって話は最近じゃなかったか?」


 両腕を無くしても向かってくるゾンビの首を切り落とし、ウォルトはバランスを崩してふらつく体を蹴り飛ばした。


 死体を使役する魔術はあるにはある。

 だが、これだけの数を動かすには大量の魔力が必要だ。

 それを補うために必要となるのは、術者と魔力に満ちた場所、そして……

 ある答えに行き着いたエミリアは、テオドールとウォルトに指示を出して走り出す。



「何人かの生け贄を使った術を、禁術を使ったのよ」


 出会した骸骨兵を氷付けにしたエミリアは、ギリッときつく下唇を噛んだ。

 口内に広がる血の、鉄錆びの味に僅かに眉を顰める。


「此処に封じられていたモノを甦らすように」


 走り抜けていく通路は、奥に進むにつれて石の壁から洞穴のような剥き出しの土壁へ変わる。




 アンデット達を屠りながら長い通路を抜け、一行は広い空洞のような場所へ出た。


 急に開けた空間に出て、ウォルトとテオドールは警戒を解かずに周囲を見渡す。


「此処は何だ? あれは?」


 空間の中央、黒く焼け焦げた塊に気付いたウォルトは“ソレ”に近付いていった。


「魔方陣!? 待てウォルト!」


 空間の地面に黒く焼き付いて描かれていた模様に気付いたテオドールは、黒い塊に近付こうとするウォルトを静止した。



「やっぱり……」


 魔方陣を確認して、エミリアは諦めに似た思いで呟く。


 まだ見習い魔術師だった頃、慕っていた師匠の書庫にあった古文書でこれと似た様な魔方陣を見た記憶があったのだ。

 旅へ出る前、慕っていた師匠は王宮御抱えの魔術師であり、国内で最高位の魔術師長だった。



「これは……」


 魔方陣の内部に有った塊の側へ、魔方陣に入り込まないように慎重に近付いてみればうつ伏せに倒れている人だと分かり、テオドールは息を飲む。

 髪はほとんど抜け落ち、目玉も失われた顔や全身の皮膚は干からびて黒くなっていた。身体中の水分が抜かれてしまい、枯れ木の状態になっている者は十人。皆、焦げた鎧を身に付けていた。


「この者達、この鎧の紋章、まさかっ!?」


 焦げてしまってはいたが、テオドールには干からびた者達が身に纏う鎧には見覚えがあった。

 とある王宮騎士団に所属した者のみが身に付けられる、王国の紋章入りの白銀の鎧。

 ということは、禁術を使いアンデット達を甦らせるよう命じたのは、かつての祖国。

 国王か、王に準ずる立場の者が首謀者だということになる。



 グキャアァア!!


 魔物の咆哮と共に、呆然としていたテオドールの足元が激しく揺れる。


「くっ!?」

「きゃあっ!?」

「地震か!?」


 続く揺れに、テオドールとエミリアは地面に片膝を突いた。

 大剣を地震に突き刺して、ウォルトは何とか堪える。


「これが甦らせたモノ? 面倒くさいのが来ちゃったわよ!!」


 杖を支えにして立ち上がったエミリアが、二人に向けて防御魔法と補助魔法を重ねてかけた。


 揺れが収まり魔方陣の文字が紫色に妖しく発光し始め、テオドールは片足を踏み入れていた魔方陣から退く。


 パアアアー!


 テオドールが退いた瞬間、魔方陣から紫色の光が真上へ溢れだし大きな柱と化す。

 強烈な紫色の光の中、巨大な鱗を持つ何かが姿を現し出した。




 ***




 地面の下から突き上げる揺れを感じ、ガイドに案内されて神殿を見学していた観光客からは悲鳴が上がった。


「地震!?」

「きゃあー!!」


 続く揺れに、天井からパラパラと砂が落ちてくる。

 地震で神殿が崩れるのではないか、という恐怖でパニックに陥った観光客達は横にいる人を押し退け、我先にと出口へと走っていく。


 中年女性に突き飛ばされたガイドの男性が、よろめきながら立ち上がった。


「み、皆さん、大丈夫ですから、慌てず外へ出てくださいっ!」


 ガイドの男性の言葉を誰も聞かず、観光客に遅れを取りつつ男性も出口へと走り出した。


 脱兎のごとく走っていく人達に押されて、尻餅を突いた理子は逃げる観光客の後ろ姿を唖然と見送る。

 学校、会社での避難訓練のお陰で比較的冷静でいられた理子は、身を屈めて揺れが収まった後に出口へと歩き出した。




 ―ツヨイ、マリョクダ。ワレ、ホッスル―


 地面の下から、なんとも形容出来ないくぐもった声が聞こえた気がして理子は足を止めた。

 気のせいではない、直感で分かった。


 この声は、よくないモノの声だ。絶対に応えてはいけない。早く神殿から出なければ、危ない。


 頭では足を動かそうとするのに、動かそうとすると急に気分が悪くなってきて、理子は口元を手で覆う。

 動けずにいるとナニかが地面から立ち上って来て、理子の足に絡み付いてくる。


「な、に?」


 気持ちの悪い黒い蔦のような影が足に絡み付き、這い上がって来るのがわかり理子は逃げようと足を動かした。



 ―マリョク、ヲ、ササゲ、ヨ―


 地の底から響くようなくぐもった声が聞こえて、理子の足元の床が一気に崩れ落ちた。


「きゃあああ!?」


 ガラガラと石造りの床が崩れ落ちる音と、理子の叫び声が神殿内に響き渡る。



 ドシンッ!


「いたぁっ」


 ほんの数秒だけ落ちる感覚がして、理子は硬い土の上へと転がり落ちた。

 尻から落ちたせいで、強打した尻と落下の衝撃で捻ってしまった右足首が痛くて、理子は動くことが出来ずに呻いた。



「「リコ!?」」


 男性の声と若い女性の驚いた声が聞こえ、瞑っていた目蓋を恐る恐る開く。


「ええ!?」


 転がり落ちた先、所謂洞穴といった空間にいたのは、全身切り傷と火傷だらけで満身創痍のウォルトとエミリアだった。

 状況が理解できずに、目を瞬かせる理子の目前が真っ赤に染まる。

 肌がチリチリ焼ける程の熱を感じて、咄嗟に両手で顔を防御した。


 ブンッ!


 何かが空を斬る音がして、理子を襲おうとした熱は霧散する。


「君はっ! どうして此処にっ!?」


 理子を“ソレ”から庇うように、剣を手にした金髪の青年が前に立つ。

 首だけ動かして振り向いたのは、額から血を流し綺麗な顔を苦痛に歪めたテオドールだった。


「ええ? テオドールさん? どうしたんですか?」


 彼等は遺跡の地下を調査する、と言っていた。ということは、先ほどの地震で神殿の床が崩れ落ちて地下に落ちたのか。



 グオオオ!!


 間近で怪獣のような咆哮が聞こえ、もしや魔物と交戦中なのかと首を巡らした。



「……え?」


 “ソレ”を見付けてしまい、理子は絶句した。


 紫色の妖しい靄を纏った双頭の竜、ドラゴン。

 否、一つ目の首は赤い鱗、二つ目の首は青い鱗、体は黒い鱗という三種類の鱗に覆われた首を持つドラゴンが睨み付けていたのだ。

 それも、“ソレ”はただのドラゴンではなく。

 双頭にしては不自然で、まるで一体のドラゴンの体に、もうひとつ首を無理やりくっつけたような不自然さがあった。


 ーマリョク、ワレ二、ササゲ、ヨー


 二つの首が同時に喋るため、くぐもった声は二重に聞こえた。

 口を動かす度に、口の端からボタリボタリと粘液なのか涎なのか判別出来ないものがドラゴンの口から垂れる。

 魔法の明かりに照らされたドラゴンの体を見て、理子は血の気が引いた。


(腐ってるー!?)


 紫色の靄だと思っていたものは、ドラゴン、いやドラゴンゾンビが動く度に体から立ち昇る体液だった。


「はぁ!」


 私の方を向いた隙を狙って、ウォルトがドラゴンゾンビを斬りつける。

 大剣の切っ先によって体の一部が削げ落ちた。

 肉が削げ落ちた部位からは骨が覗き、理子は全身に鳥肌が立った。


「下がれっ!」


 固まる私の腕をテオドールが引いたため、明後日の方向へ飛んで行きかけた意識が戻る。


「ぐあっ!」

「テオドールさん!!」


 青い鱗が生えた首が鞭のように撓り、テオドールの体を凪ぎ払った。 



 ーチカラ、ヨコセッ!!ー


 双頭の血走った瞳に睨まれて、理子は一瞬失神しかけた。

 双頭の、赤、青の鱗の一部は剥がれ落ちて、赤黒い皮膚はぐじゅぐじゅに腐り糸を引く液体が垂れている。

 赤い鱗の頭の方は、片目の目玉は零れ落ちそうになっていた。


「いやあああ! 無理無理!!」


 昔からスプラッタ系や、ゾンビやアンデット系の映像は昔から生理的に受け付けないのだ。

 恐怖と嫌悪感から背筋が寒くなる。逃げたいのに、足首が痛くて立ち上がれない。

 怯える理子を見て、愉快そうに目を細めた双頭の首が、向かって大きく口を開けた。


「いやぁああ!!」


 今から、この気持ちが悪いドラゴンゾンビの鋭い歯に噛み砕かれて食べられるのかと、理子は喉が張り裂けんばかりに悲鳴を上げた。



アンデット系は、リアルに見たら気持ち悪い...

ドラゴンゾンビはキン●ギドラをイメージして。

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