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快適な睡眠と抱き枕  作者: えっちゃん
3.私と魔王様のお盆休み
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08.ベタな展開に何らかのフラグを立てる

ありきたりの展開。

 どうしてこうなったのだろうか。

こんな事をする人は、漫画やアニメの世界だけだと思っていた。

 まさか、人々が行き交う往来で見た目からして不潔で柄の悪い酔っ払いの男二人に絡まれるとは。理子は目の前の男達を困惑の表情で見上げた。


「余所見していたせいで……すいませんでした」


 なるべく刺激しないようにと下手に出たのに、男達は鼻で笑う。

 

「お嬢ちゃん! どうしてくれんだぁ!」

「そっちからぶつかって来たのに、ごめんなさいだけで済まそうって言うのか!?」


 ああ、何でこうもお決まりの台詞を吐くんだ。

 これが、テレビや漫画の世界や第三者なら「ほー捻りがないわね」っと笑ってやりたいところだが、異世界の見知らぬ町で自分が体験するとなれば怖い。


「いや、謝っているじゃないですか」


 若い娘が酔っ払いに絡まれている姿は一目瞭然で、揉めている声は聞こえているはずなのに行き交う人は此方を一瞥するだけで足早に立ち去るだけ。止めに入る者や自警団に連絡しようする者はしない。

 助けてもらえないのはショックだが、理子の見た目は冒険者だから自分で何とかすると思われているのか。

 明らかに酔っ払った柄の悪い男達を諫めたら、自身に火の粉が降りかかるのが嫌で関わらないのだろうか。

 誰だって面倒事に関わるのは嫌だ。警察も正義の味方からの助けも無い。逃げられないのならば自力で何とかするしかないのか。


「謝るだけで許すと思ってるのかよ!」

「ぶつかられたせいで足を挫いちまったんだよ!」


 黙ってしまった理子に、男達は厭らしい笑みを浮かべる。


「当然、医者に行く金と仕事が出来なくなった分の金を貰わなきゃならねぇ」


 男達は私が怯えていると思ったらしく、ニタニタと下品に笑う。


「こんなベタな展開になるとは……」


 衣料品店の店主から気を付けるように言われたのに、クレープや生搾りフルーツジュース屋台での買い食いに夢中で注意力が散漫になっていた。

 折角、城の外へ出られたのに泣きそうだ。


「おい! お嬢ちゃん聞いてんのか!」


 男の一人に無理矢理肩を掴まれて、至近距離で話されたものだから生臭い息が顔にかかり、理子は思いっきり顔を歪めた。

 まさか酔っ払いに絡まれるとは、息も臭いし最悪で涙が出そうになる。


 肩を捕まれて凄まれた恐怖と嫌悪感を感じ取ったのか、右耳の深紅の玉が熱を持つ。


(駄目、大丈夫だから……!)


 玉が力を放ったら撃退はできるが、絶対シルヴァリスに伝わってしまう。

 理子は右手で右耳の玉を押さえた。



「おい、女の子相手に何やってんだ?」


 どう乗り越えるか思案していると、男達の背後から若い男の声が聞こえた。


「ああっ!?」


 男達が振り返ろうとした時、理子の肩を掴んでいた男が真横へ吹っ飛んで行った。


 がっしゃーん!


「うげぇっ!」


 吹っ飛んだ男は、すぐ横に置かれていた乾物屋の店頭ワゴンに突っ込んで行った。

 突然の事に理子は「えっ!?」と声を上げる。


 男達の背後からやって来た人物が、男の襟首を掴んで放り投げたのだ。

 店頭ワゴンを壊された乾物屋の店員が、慌てた様子で店から出てくる。投げられた男は打ち所が悪かったのか、完全に意識を失って伸びていた。


「てめぇ! 何だぁ!?」

「ハッ、足を挫いているんじゃなかったのか?」


 仲間が倒されていきり立つ男は背後に立つ人物、黒髪を短く刈り込んだ碧眼、鋭い目付きの背の高い筋骨隆々の鉄の胸当てを着けた、いかにも戦士風といった大男に、食って掛かる。


「どれっ、俺が診てやるよ」


 大男は殴りかかってきた男の拳を簡単に片手で受け止める。


「くそっ! ふざけるなよぉっ!?」


 拳を握られたまま、自由になる手をポケットに入れた男は、ポケットから取り出した折り畳みナイフを振り上げた。


「ぐえっ!」


 ナイフの切っ先が戦士に届く前に、男の鳩尾に骨ばった戦士の拳がめり込む。

 がはっ、と男は胃液と消化しきれていない胃の内容物を地面へ吐き出した。

 内容物をびちゃびちゃ吐き出した男は、ガクガクと痙攣する膝から崩れ落ちるように吐瀉物の中へと倒れる。

 喧嘩をしているからか、吐瀉物がかかるのが嫌だったのか、通行人から悲鳴が上がった。


「おっと、きったねぇな」


 吐瀉物の飛沫から逃れた戦士が、吐き捨てるように呟いた。


「大丈夫かい?」


 大股で歩み寄ってきた戦士は、片膝を地面に突けて屈み、へたりこむ理子と目線を合わせる。


「あ、ありがとうございます」


 屈んでも大柄な戦士の方が大きいため、理子は見上げながらお礼を伝えた。

 なかなか立ち上がらないでいる理子に、戦士は片手を差し出す。


「立てるか?」


 にかりっ、と歯を見せて笑う表情は男らしくて、逞しい男性が好きな御姉様達のハートをきゅんきゅんさせること間違いなしの威力があった。


「あ、足に力が入らなくて、立てない」


 迷った末、理子は差し出された手のひらに自分の手を乗せる。

 引っ張りあげられたのはいいが、足に力が入らなくてふらついてしまった。

 倒れそうになる理子の肩を戦士の腕が支える。

 絡まれた挙げ句に腰が抜けてしまったとは、格好悪いし恥ずかしいわで理子の顔は赤くなった。


 肩を借りるには身長差がありすぎるからと、戦士は理子を軽々と背負う。

 横抱きよりはマシとはいえ、いい大人がおんぶされるなんて恥ずかしい。

 知らない男性に、お尻とか太股を思い切り触られたと魔王にバレたら、監禁どころじゃ済まされないかも知れない。



「俺はウォルト、旅をしながら傭兵をやってる。冒険者ってやつだ」


 内心冷や汗を垂らしまくっていた理子の気持ちを知らず、ウォルトと名乗った男性は大通りを通り過ぎた先の小さな公園のような場所のベンチへ理子を下ろす。

 ウォルトが腰に挿す大剣がベンチに当たって、ガチャンと音を立てた。


「ありがとうございました。私は、リコ・ヤマダといいます。此処には仕事が休みで観光しに来たのですが、宿を探していたら迷ってしまって」

「それで絡まれたって訳か」


 言いながらウォルトは、理子の横へ腰かける。


「いくら何でも女の子の一人旅って危なくないか? リコは弱そうだし旅も慣れていなさそうだし。もうすぐ日暮れだ。宿を探しているなら、俺が仲間と泊まっている所へ行くか?」


 女の子と言うウォルトは理子を何歳だと思っているのか。

 もしや、15歳くらいの年齢だと思われているのかも。

 胸はまぁある方だと思っているのだが、着替えた時に化粧を落として素っぴんだから幼く見えてるのか。

 少し悲しくなりながら理子は夕焼けに染まった空を見た。

 暗くなったらまた物騒な輩に絡まれる危険がある。

 ここは、旅の傭兵をしているという強そうなウォルトの厚意に甘えさせてもらうのがベストな選択だろう。


「宿までの案内をよろしくお願いします」


 隣に座るウォルトに理子は深々と頭を下げた。



 ゲームや漫画等では、酔っ払いや暴漢に絡まれて助けてもらうった後に何かしら新展開を迎えるパターンが多い。

 これは何かのフラグかなと、先を歩くウォルトの背中と沈み行く夕日を見詰めた。

 

お盆休み二日目、まだまだ続きます。

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