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快適な睡眠と抱き枕  作者: えっちゃん
3.私と魔王様のお盆休み
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01.連休の予定

3章になります。

『シルヴァリス様』

 教えてもらった名前を呼んでから、理子の中で魔王の存在は日に日に大きくなる。


(どうしよう。どうしよう、私このままじゃ……)


 魔王とは住む世界も種族も身分も違うのに。魔王の事を思うと、苦しくて、切なくて、甘い。

 この感情の名前は、分かっているのに認められないでいた。


 職場から帰宅した理子は、テーブルの上に置いたタブレットと卓上カレンダーを交互に見ながら、うーんと唸ってしまった。


「お盆休み、どうしようかな」


 今年は遊びに行く相手も予定も無かったため、すっかり忘れていたが会社はもうすぐお盆休みに入る。

 有名宿泊サイトでホテルを検索してみても、やはりお盆期間中は満室か宿泊料金が高過ぎて予約は出来なかった。

 新幹線指定席の切符も今からでは取れないだろうし、遠出は無理だと諦めた。


「近場も一緒に出掛ける人もいないしなぁ」


 去年一緒に出掛けた香織は、まーくんと婚前旅行へ出掛けると言っていたし、学生時代の友達は既に予定があり断られてしまった。

 こんなことなら、山本さんに誘われた社会人フットサルサークルのバーベキューに参加しても良かったかもしれない。

 今年、実家に帰ってのんびりして両親と親戚宅へ出掛けるか。



「ーということで、連休は実家に帰ってのんびりする事にしました。実家へ帰っている間は、此方へ喚ばないでください」


 召喚されて「こんばんは」を言う前にお盆休みの予定を伝えれば、椅子に座る魔王ことシルヴァリスは理子を睨む。


「駄目だ」

「シルヴァリス様に会いたくないわけではなくて、実家に帰れば親と姉が居るの。毎夜毎夜喚ばれると夜遊びしてると心配されちゃうんです。一応、親からしたら嫁入り前の娘なので」


 魔王の寵姫と思われていても、恋人や夫婦ではないのに夜遊びも実家に帰るのにもシルヴァリスの許可を取らなければいけないのか。そう思いつつ見上げれば、シルヴァリスはフンッと鼻を鳴らす。


「実家とやらには帰らず、休日は此処に滞在すればよい」

「此処に? この世界に?」


 思いもよらなかった提案に、理子はぱちくりと目を瞬かせた。


「異世界の観光……」


 夢見がちな十代の頃は、剣と魔法が織り成すファンタジーな世界を巡り、神秘的な場所を観光してみたいと夢見たこともあった。

 モンスター退治やら危ないことに遭遇しなければ、刺激的でとても高揚するお盆休みになる。


「私が居たらお仕事の迷惑じゃない?」

「迷惑ならば誘わん。仕事はキルビスにでも振ればよい」


 さらりと、部下に仕事押し付ける宣言をしてシルヴァリスは笑う。

 腹黒で口の悪い宰相殿が怒り狂う姿が容易に想像出来て、理子はひきつった笑いを返した。


「お城の外へ出て、人の住む街も観光していいのなら、よろしくお願いします」

「ああ、直ぐに部屋を用意させよう」


 クッと口の端を吊り上げたシルヴァリスに、嫌な予感がして理子は彼の目前に人差し指を突き付けた。


「あのね、シルヴァリス様? お願いだから大袈裟にしないでくださいね。私は部屋には拘らないし、狭くても寝られればいいから、あとお盆休み最終日には元の世界へ帰らせてね」

「フッ、考慮しよう」


 何かを企んでいそうな麗しき魔王は、必死に伝える理子を眺めつつ愉しそうに頷いた。




 ***




 お盆休み前日の夜、旅行鞄に洗顔用品と化粧品、着替えを詰めて理子は魔王の待つ異世界へ渡った。

 土日を含めたお盆休みは一週間。

 最終日の前日には帰してもらう約束だから、滞在期間は五泊六日の予定だ。

 召喚された夜は魔国のある大陸についてシルヴァリスから教えてもらい、明日からの冒険への期待に胸を膨らまして眠ったのだった。




 頭を撫でる誰かの手を感じて、理子はベッドの中で身動ぎする。

 ネグリジェから出た素肌に触れる、滑らかなシーツの感触が気持ちいい。


「起きたのか?」


 低くて耳に心地好く響く声に、理子は頷いた。


(あれ? 誰の声?)


 耳のすぐ側から聞こえた声に、理子の意識は覚醒していく。


「っ!」


 バチッと、勢いよく目蓋を開いた。


「ぎゃあっ」と叫びそうになった声は何とか喉の奥へと押し込む。

 カーテンの隙間から射し込む朝日に煌めく銀髪が眩しい。

 麗しき魔王、シルヴァリスに背を向けて寝た筈なのに、何故か理子は彼に抱き締められる格好で寝ていたのだ。


 色気を駄々漏れさせているシルヴァリスから離れようと気合いで上半身を起こす……ことは出来なかった。


「もう少し、眠っていろ」


 背中に回された腕により、がっしりと押さえ込まれてしまったのだ。

 はだけた寝間着から覗く胸元は薄付きながら筋肉が付いていて、理子の体は筋肉質な体と隙間無く密着していた。

 理子の目線にあるシルヴァリスの喉仏は、彼が喋る度に上下して。こんな状況では、とても二度寝など出来ない。


「だって、その、近いから」


 色々なところが気になって眠るどころではない。

 絞り出すように言えば、シルヴァリスは耳元に唇を寄せる。


「何か問題でも?」

「ナニもアリマセン。おはようございます」

「おはよう」


 理子の額にシルヴァリスの唇が軽く触れる。

 おはようの挨拶を交わしたのに、背中に回された腕は離してはくれない。

 脱出を諦めた理子は、素直に抱き締められることにしてシルヴァリスの胸に頬を寄せる。

 規則正しい心臓の鼓動が伝わってきて、理子は目を閉じた。


(ちゃんと心臓が動いてる。呼吸も鼻からしてる。肺呼吸なんだ)


 魔王が怪獣と同じ外見だと思っていた時は、彼はエラ呼吸かもしれないと勝手に思い込んでいた。

 もしも魔王に角や鱗が生えていたら、触り心地はザラザラかヌメヌメと最悪で添い寝は絶対に無理だ。

 見た目的に角は生えていてもいいが、刺さったら痛そう。


「リコ、何を考えている?」

「へ? 何も?」


 突然問われて、ビクッと体を揺らしてしまった。

 背中に回されたシルヴァリスの腕に力がこもっていく気がして、心の声が伝わってしまったのかと理子は怯えて体を縮こめた。


「お前が阿呆丸出しという顔をしているときは、大抵我に対して不敬な事を考えているだろう」


 ギリギリと腕に力が込められていく。理子の上半身はシルヴァリスの胸と腕に締め付けられて圧迫される。


「くっ苦しい! 魔王様! 無理、死んじゃうって!」


 半泣きになった理子は、締め付けるシルヴァリスの腕と胸をタップする。


「魔王様?」


 腕の力を緩めたシルヴァリスは、意地の悪い口元だけの笑みを返す。


「や、止めてください、シルヴァリス様」


 言い直した台詞か、半泣きの私の表情か、或いは両方に満足された意地悪な微笑を浮かべた魔王様は、漸く理子の体を解放した。

朝からイチャイチャ。

この後、侍女が起こしに来て、ヒロインは慌てふためきます。


ヒロインが数日滞在してくれるから、実は魔王様は嬉しくて意地悪しているだけだったり。


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