表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
快適な睡眠と抱き枕  作者: えっちゃん
2.魔王様は抱き枕を所望する
24/78

08.自由奔放なヒト

ヒロインの口調が悪いです。

くそびっちとぼやきまくりです。ごめんなさい。

 PiPiPiPi~!


 枕元に置いた携帯電話から、目覚ましアラームの音が響き渡る。

 アラームが鳴るとほぼ同時に覚醒した理子は、スマートフォンに手を伸ばして繰り返されるアラームを停止させた。

 うーん、と伸びをしつつ、ベッドから上半身を起こしてから気が付いた。

 今日は土曜日で仕事は休みだ。


(しまった、アラーム機能を解除するのを忘れていたか)


 二度寝をしようかと理子は体を動かして、身に纏う布地のサラサラとした滑らかな肌触りにハッとした。


「戻って来てる……」


 自分で買った覚えの無い、肌触りの良い白いネグリジェと肌と髪から仄かに香る薔薇の香り。

 これらが、昨夜の出来事は夢じゃなかったということを物語っていた。


(昨日は、伊東先輩達と夕飯を食べに行って、山本さんと手を繋いで、お風呂に入れられて、魔王様と……)


 昨夜の事を思い出していくうちに、ボンッと音をたてて理子の顔は真っ赤に染まる。


「うわぁ~!」


 熱が集中する熱い頬に、手のひらを当てた理子は叫んで枕に顔を埋めた。

 魔王様相手に何ということをしてしまったんだ。

 散々喧嘩吹っ掛けて最後は泣くとは嫌な女そのものじゃないか。

 あれだけ不敬な態度をとったのに、魔王は許してくれて此方の世界へ理子を戻してくれたのだ。


「でも、アレは何なんだろう」


 ほんの一瞬だったけれど、額へ触れた感触は唇だった気がする。

 何故、魔王は額にキスをしたのだろうか。

 額にキスされた上に涙を舐められた。

 不敬罪だ、と処刑とか牢屋へ入れられなくて助かったが、キスをしてきた魔王の考えている事が分からない。


 そして、おかしいのは理子自身もだ。

 銀色赤目の綺麗な魔王は、異世界の恐ろしい存在だ。彼の機嫌を損ねたら処刑か監禁宣言をされるのだろう。

 それなのに、キスされて彼に触れられて嬉しかっただなんて。

 キスが額だけじゃ、物足りないと思ってしまうだなんて……有り得ない。


「私が気になる人は、山本さんなのに」


 もしも山本さんとお付き合いできたら、幸せな未来を描けそうだ。

 でも魔王から殺害、監禁宣言をされてしまっては気軽にお付き合いは出来ない。


(他の抱き枕役か、魔王様にお嫁さんが出来れば解決、私は不用になるのでは?)


 今度、婚活本でも買って魔王に差し入れしてあげて彼に婚活を勧めてみようか。


 ベッドに寝転んだまま、理子はスマートフォンを手に取り操作しようと画面を表示させて、メッセージの受信に気付いた。


「げっ」


 メッセージを送信してきた相手の名前欄を見て、理子の目は吊り上がり三角となる。

 メッセージを表示させなくとも内容は予想できたが、一応確認して理子の顔は渋面になっていく。


「こっちに来るんだ」


 メッセージには、電車の到着時刻とキラキラゴテゴテしたスタンプがセットについており、こめかみが痛くなってくる。

 無視したら単語だけのメッセージとワンギリの嵐、更には母親からの怒りの電話がかかってきて、面倒臭いことになる。

 痛みだすこめかみを押さえながら、理子は身支度をするためにベッドから這い出た。




 ***




 新幹線の改札口からすぐの柱に寄りかかり、理子は新幹線から降りてきた乗客達を眺めていた。

 目を凝らさなくとも、待ち人は目立つ外見のため近付いて来れば分かる。


(はぁ、相変わらずだなぁ)


 改札を抜ける人に埋もれる事は無く、やはり待ち人は目立っていて私は小さく息を吐いた。


「ヤッホー理子ちゃん久しぶり~」


 ブンブン手を大きく振り、小さめの赤いキャリーバッグをガラガラ引きながらやって来たのは、明るい金髪を緩く巻いてバッチリ化粧をした、お嬢様系水色ワンピース姿の可愛らしい女性。

 彼女が纏う甘い香水の香りに、鼻がムズムズしてきた理子は息を止めてくしゃみを堪える。


 前に会った時は、髪を巻き上げたキツイ印象の「お仕事は夜の蝶ですか?」と尋ねたくなるようなギャルだったのに、付き合う相手によって人は変わるものだ。



「当日に連絡するのは止めてって毎回言ってるでしょ」


 抱きついてくる女性の肩を押して、理子は彼女と距離を取る。

 混雑している改札前では恥ずかしいし、夏場に抱きつかれるのは暑いから止めて欲しい。


「亜子お姉ちゃん」


 キッと睨めば姉、亜子はうふふっと声を出してニッコリ笑う。


「だってさー、急に理子ちゃんに会いたくなったんだも~ん」


 会いたくなった、ということと宿の確保は違う。理子は表情には出さずに心の中で舌打ちした。


「どうだか。どうせ彼氏にフラれたかお父さんと喧嘩して家出したんでしょ? 憂さ晴らしに買い物しに来た、ってところ?」

「おー! 大正解! さっすが理子ちゃん!」


 きゃっきゃっとはしゃぐ亜子をこの場に置いて帰りたくなった。

 亜子お姉ちゃんこと、山田亜子は理子の二歳上の血の繋がった実の姉だ。

 自分でも普通だと思う理子の容姿と比べ、大きなアーモンド型の瞳に小さな顔。全体的に小柄で可愛らしい姉と理子は、幼い頃から全く似てない姉妹だった。

 あまりに違いすぎて、友人からは血が繋がっていないのかと言われたくらいだ。高校時代に付き合った彼氏は、姉に会った翌日に「お姉さんが好きになった」と言われて振られたのは、嫌な思い出だった。




 流行の発信地と旅行雑誌に載っている場所へ亜子の荷物持ちとして共に周り、SNSへ投稿する姉の写真を撮っているとあっという間に日が暮れてしまった。

 その後の夕飯は、馴染みの居酒屋じゃなく亜子が事前に調べて予約までしていたお洒落なダイニングバーへ向かった。

 家出してきた亜子は持ち合わせが少ないという理由から、飲食代を全て負担するのは結局は理子なのだ。亜子の家出の原因を作った父親に、後程迷惑料込みで請求しようと心に決めた。



「結婚したいくらい本気だったのにさぁ~。ちょっと他の男と遊びに行ったくらいで怒るとか信じられなくって」


 彼氏の愚痴を話す亜子の瞳には、うっすら涙の膜が張る。

 一般的には、自分の恋人が異性と遊びに行ったら怒るのではないかと、理子は話を聞きながら首を傾げる。恋愛感が少々おかしい姉と会話をしていると、理子が考える常識が正しいのか分からなくなるのだ。


「あのさぁ、亜子お姉ちゃん、今回は本命さん以外は何人いたの?」

「たか君以外は2人だよ? 今までに比べたら少ないでしょ? お父さんには「またかっ!」って殴られるし最悪! お母さんはバスツアーに行っていて庇ってもらえないし……私の味方は理子ちゃんしかいないのっ」


 本命以外に二人もいたのか。理子は片手で顔を覆った。

 毎度毎度、股掛けがバレて修羅場になっても学習しない亜子に、もう理子は「ふーん」としか返せない。

 やはり亜子に甘過ぎる母親が不在で庇ってもらえず、父親にキレられて此方へ逃げてきたのか。


 理子から見た父親は、普通の感覚の持ち主だ。

 十代ならば尻拭いはしてやっても、二十代後半になってもふわふわしている姉を父親は何とかしようと頑張っていた。

 しかし、母親は可愛い物が大好きな人で、姉妹では外見が可愛らしい姉の事が大好きで堪らないらしい。

 実家から離れて、自立する道を選んだ可愛くない妹と正反対の手がかかる可愛い姉。母親に甘やかされ好き勝手をしている姉は、恋愛も結婚するまでは自由恋愛と好き勝手なことを言っており、昔から派手にやり過ぎている。


「亜子お姉ちゃん、そのうち刺されるんじゃないの? いや、刺された方がいいよ」

「理子ちゃんもお父さんと同じこと言うなんて、ひどいっ!」


 憤慨する姉を呆れた目で見ていた理子は、数々の男性遍歴の中でも誠実そうな男性と付き合ってくれてたと、少しは落ち着いたかもしれないと喜んでいた父親の顔を思い浮かべていた。



ヒロインの姉、小柄で目はパッチリしていて守ってあげたくなる、男性の庇護欲をくすぐるタイプの女性(26)です。


パパンは、お姉ちゃんにそろそろ落ち着いて欲しいと、自分の頭髪と同じくらい心配しているみたい。

ヒロインはお姉ちゃんのことを異星人みたいに思っている。


長くなったので、次話に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ