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快適な睡眠と抱き枕  作者: えっちゃん
1.鈴木君(仮)とお喋り
14/78

13.結末は...①

長くなったため、二話に分けました。

一章終話の①です。

 肌触りの良いふかふかの毛布にくるまれて、理子は久しぶりに感じた心地よさに幸せな気持ちに浸っていた。


 幸せな微睡みの中、誰かが傍にいて髪を優しく撫でてくれている。半分以上夢の中に居た理子は、ありがとうの気持ちを込めて傍にいる誰かに向かって手を伸ばす。

 誰かの大きい手のひらがそっと握り返してくれたのが嬉しくて、理子はへにゃりと微笑んだ。




「ん……」


 仄かに花の香りが鼻腔を擽り、理子の意識が覚醒していく。

 ゆっくり目蓋を開くと、視界に入ってきたのは、淡いピンク地に小花柄のマットレスカバーだった。


「えっ!?」


 自室のシングルベッドの上で、理子は半開きの目蓋を勢いよく開いた。


「あちゃー寝ちゃったか……」


 疲労と睡眠不足で、昨夜は帰宅後直ぐに着替える余裕も無く自室で眠っていたのだろうか。

 やはり、魔方陣に吸い込まれて魔王の世界へ行く、という非科学的な出来事は夢だったのか。

 それか、魔王の世界へ行ったのだけど、寝ている間に自室へ戻って来れたのかと、理子は首を傾げた。

 考えるのが面倒になってきて、ベッドから起き上がり風呂場へ向かう。

 昨夜は、帰宅して化粧は落としていてもシャワーすら浴びていないのだ。今日が休日ならこのままベッドに潜ってゴロゴロしていたいところだったが、今日も仕事があるのだ。



 頭からぬるめのシャワーを浴びれば段々と思考が覚めてくる。

 やはり、昨夜の出来事は現実味に溢れていて、夢とは考えにくい。

 銀髪赤目の綺麗な男性、魔王に触れられた顎と目蓋に感じた、彼の低い体温を覚えているもの。

 顎に、目元に触れられた状況を思い出して、理子の顔に熱が集中する。

 ベッドの上で、あんな綺麗な男性に触れられるとは。

 小動物扱いで彼に他意は無かったとしても、恥ずかし上に勘違いしてしまうじゃないか。


 バスタオルで体を拭きながら、理子は魔王に触れられた箇所を撫でる。


「変なの……魔王様がトカゲじゃなくて綺麗なお兄さんだったなんて」


 あの外見は反則だと思う。

 綺麗すぎてトキメキすら吹き飛んで、畏怖に似た感情を抱いた。

 今夜も魔王は自分に話し掛けるのだろうか。

 トカゲだとばかり想像していたから、今まで気安く会話が出来たのにこれからはどうしよう。

 姿が見えない分、緊張する。姿が見えてもあれだけ綺麗なら緊張していまう。


 下着を身に付けて、濡れた髪をドライヤーで乾かそうと髪をかき上げた時、理子は鏡に映った自分の顔に違和感を覚えた。


「あれ? これ何だろ?」


 右耳の上部、軟骨の下に深紅の石がくっついていたのだ。


「ピアス? 耳ツボダイエットの石?」


 生まれてからこれまでピアス穴を開けた記憶は無い。

 耳ツボダイエットも興味はあるがやったことは無い。

 確実に昨夜、意識がある間は無かったものだ。

 指で触れば硬い石の感触で、指で取ろうとしてもピッタリくっついている。

 指先に力を込めてみても痛みは無く、まるで生まれてからずっとくっついていたみたいな、そんな感覚すらあった。


「これって、魔王様がやったのかな?」


 何のために?

 これが魔王に施されたモノだったら、人体に危険はないのか。

 今夜にでも問えばいいか、と理子はドライヤーのスイッチを入れた。



 髪を乾かし終わり、着替えをするために寝室へ向かった。

 ベッドの上に置いてある携帯電話で時間を確認すると、何時も支度している時間より早い。

 時間の余裕があるなら、朝食は通勤途中のカフェで食べればいいか。カフェのモーニングセットを思い浮かべて、理子はにんまり笑う。



「へ?」


 タンスからブラウスを引っ張り出していた理子は、タンスの奥、隣室と自室を隔てている壁の異変に気付いて、大きく目を見開いた。

 壁に貼っていた防音シートが半分以上剥がれていたのだ。

 剥がれたシートの下には、白い壁紙が見え―……


「穴が、無い」


 ベリッ!


 ブラウスを放り投げて、勢い良く防音シートを全て剥がす。

 防音シートの下には、傷ひとつ見当たら無い白い壁があるのみで、タンスの角をぶつけて開いた穴は綺麗さっぱり消え失せていた。


「そっか……そうなんだ」


 この現象は何だろうと考えて、私はある答えに行き着いた。

 睡眠不足が続き、少々精神的にやられていた時に香織からもらった御守り。

 穴が開いてから魔王の部屋と繋がり、夜勤のバイトを始めた鈴木君。

 隣室からの騒音は無くなり、トカゲ姿と思っていた魔王に会えた。


 隣人に関する私の願いは叶った。

 そこまで考えて、覚る。

 願いは叶い、元通りの生活になった、魔王と繋がるという、非現実的でファンタジーな邂逅は終わったのだ。

 急に足から力が抜けて、理子はタンスの前に置いてある座布団上へ座り込んだ。


 元通りの生活、魔王との時間が無くなるだけなのにそれを寂しいと感じるなんて、おかしい。

 元々、世界が違う。偶然部屋の壁が繋がらなければ出会う事はなかったのだ。

 この先、転勤か退職となれば引っ越す事となり、この部屋から引っ越して魔王との関わりは終わる。


(さよなら、ならせめて「ありがとう」は伝えたかったな)


 暫くの間、理子はぼんやりと穴が無くなった白い壁を見詰めていた。

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