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三章 13 『警鐘』


 「まあまあそんなにジタバタしなくてもよいではないか。別に命まで取るということではないのじゃよ?」


 「そうだよタクミ?私たちがそんなことするわけないじゃん!」


 ニーベルとワールドが両手を縛られて地面に横になってるタクミを見下ろして言う。


 「お前ら二人の目がそうは言ってないんだよ!明らかにヤバい目してんだよ!色々調べるとかいって・・解剖とかする気じゃねーだろうな!?」


 「ふむ。どうやらワシらは全然信用されておらんようじゃな。安心したまえ。別に解剖などしないとも。・・・わしは体を開かずとも中を見ることが出来るんじゃからな。」


 そういうとワールドはおもむろに右手をタクミに近づけてその手のひらを胸の中へと入れていった。


 「わぁあああああ!いった・・・・っくない?あれ?」


 ワールドの右手が自分の体に入っていくのを見て思わず声を上げるタクミ。しかし痛みは全くなかった。


 「ワシくらいになると無痛でこのくらい出来るもんじゃよ。それにこれは実際にお主の体内に手を入れているわけではないのじゃ。これについてはお主も覚えがあるのではないのかの?」


 ワールドに言われてタクミはふと思い出した。


 ・・・・あ、俺もこれと同じことしてんじゃん。


 自分の無能術について思い出した。ベルモンドに全く同じようなことをしていたのを思い出した。


 「理解したかの?これを未熟者がすると激痛が伴うものじゃが、どれ痛くはないじゃろ?」


 「ああ。全然違和感も感じられねーよ。」


 「ねっ?私の師匠は凄いでしょ?これを私がするとまだちょっと相手に痛みを感じさせちゃうことがあるんだ。まだまだ修行不足だよ・・・」


 ニーベルにされなくて良かった。


 タクミは心底思った。


 「ニーベルもまだまだじゃからな。さて・・・・・ふむ・・・・・。」


 ワールドがタクミの中を入念に調べているようだった。


 「・・・なるほどな。」


 ワールドが何かを理解したかのように右手をタクミから抜き出した。


 「どうだったんだ?」


 恐る恐るタクミが尋ねる。


 「うむ。どこか懐かしい魔力を感じると思ったらこれはエドワードの魔力ではないか。そうじゃろ?」


 「ああ。確かに俺はエドワードの爺さんに魔力をもらったけど、あんた知り合いだったのか?」


 「知り合いも何もワシとエドワードは魔法騎士団時代を共に過ごした仲じゃよ。あいつは団長。ワシは魔術考古学の室長としてともに働いておったのじゃ。そしてこの刻印はエドワードがお主につけたものじゃな?」


 ワールドがタクミの胸元を指さして聞いた。


 「そうだよ。なんでも俺の中の魔法回路を整えるためだとかなんとかいってこれを俺につけたんだ。」


 「やはりな。エドワードらしいやり方じゃ。お主、タクミと言ったな?エドワードはこれをタクミのために作りだしたものだと聞いておるのかの?」


 「ああ。爺さんが俺が魔法を使えるようにする為に考え出したって聞いてるけど?」


 「これはな正確にいうとタクミの為というものではないんじゃ。これはワシらが魔法騎士団時代から共に研究していたものじゃ。まさかエドワードが一人で完成させていたとはな・・。」


 なにやらワールドが物思いに耽っているようだった。


 「・・・師匠?」


 そんな様子のワールドに心配そうに声をかけるニーベル。


 「あ、ああ。すまんすまん。つい昔のことを思い出してしまったわい。してタクミよ、聞いた話によるとこの刻印が覚醒状態になった時に他の者の魔術を奪えるようになるというのも本当か?」


 「無能術のことか?確かに他の奴の魔術を奪うことができるけどそれがどうしたんだ?」


 「それは今まで何人の魔術を奪ってきたのじゃ?」


 ワールドの瞳が鋭くタクミに突き刺さる。


 「き、急になんだよ?えーっと・・・エドワードの爺さんに、狂魔六将のベルモンドでまだ二人だったと思うけど・・・?」


 「まだ二人か。ならまだ大丈夫だと思うが、その無能術とやらあまり使い過ぎないことじゃな。」


 「え?使い過ぎるとどうなるんだ?」


 「簡潔に言うとタクミの人格が壊れるじゃろうな・・・」


 「人格が・・・壊れる?」


 ワールドの言葉に驚くタクミ。


 「そうじゃ。考えてもみてみろ。色々な人間の個性の塊のような魔術を一人の人間に集結させていってみろ。その数が増えていけば必ずいつかはパンクしてしまう日が来るのは必然じゃ。その時が来た時タクミは

もはや人間としての意識はないであろう・・・。おそらくその時は様々な魔術を使う恐ろしい魔王のような存在になりかねないであろうな。」


 「俺が魔王だって!?そんな馬鹿な!?」


 耳を疑うタクミ。


 「その通りじゃ。人格を失ってもタクミの中の魔術は消えはしないのだからの。人格が壊れた後は本能のままに魔術を行使していくだけじゃ。そうなったらありとあらゆる破壊行動を起こすじゃろうな。そうなればそれは最早魔王と呼ばれても不思議はあるまい?」


 「そんな・・・・。俺が魔王だなんて。」


 「そんなに落ち込みなさんな。これはあくまでも使い過ぎた場合の話じゃ。気をつけていれば大丈夫じゃろうよ。」


 「そっか。その忠告絶対に忘れないようにするよ!」


 今はまだ大丈夫だとわかり、とりあえず安心するタクミ。


 「ただ、数に気をつけろと言うたがお主の場合一つ一つの魔術自体が強力な物ばかりじゃからな。そこにも注意が必要じゃ。強力な魔術はどこかで必ず反発しあうからな。これも努々(ゆめゆめ)忘れるんでないぞ?」


 再びワールドの鋭い視線がタクミに突き刺さる。


 「・・・・・わかったよ。」


 ワールドの言葉を深く受け止め心にしっかりと刻み込んだタクミであった。

 






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