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三章 7 「冷酷な魔女」


 「・・・エレボスだと?それがお前らのリーダーということか?」


 シーバスの告白に少し動揺したようだったクリウスだったがすぐに冷静さを取り戻したようだった。


 「そうだよ。あの方は紛れもなく最強を名乗るに相応しい方だ!お前らがいくら束になろうが絶対にエレボス様には勝てぬよ!ハッハッハッ!」


 戦況は不利な状況にもかかわらず高笑いをするシーバス。


 「シーバス・・・お前がそこまで評価するんだ。そのエレボスという者の力、紛れもないものだろう。・・・だがどんなに相手が強かろうと我々が諦めることはないさ!我々は必ずこの世界から貴様ら邪神教徒を排除するまで戦うのだ。貴様はそれをあの世から見届けるが良い。」


 そう言うとクリウスはシーバスにとどめを刺そうと聖剣を掲げた。


 「・・・クックっ。残念だったなクリウス。」


 何かに気づいたシーバスが笑みを浮かべる。それと同時にクリウスも何かに気づいた。


 「あぶねぇーー!!団長!!」


 タクミも何かに気づき声を荒げた。 


 次の瞬間、クリウスを凄まじい炎の隕石が襲った。


 間一髪でこれを飛んでかわすクリウス。隕石が落ちた後には巨大なクレーターが出来ていた。


 シーバスの姿はなかった。


 隕石の落ちてきた空を見上げると人影が三つあった。


 一人はシーバスだった。もう一人も見たことのある男だった。


 黒髪に覆われた顔に左目だけが露出している。狂魔六将の一人バズドーだった。


 そしてもう一人は見たことのない女性だった。見たことはなかったけど整った顔立ちに燃えるような紅い髪。そしてまるで感情を感じることのできない冷たい瞳をしていた。


 「あれはバズドー!・・・それにもう一人はラザリーか!!」


 人影を認識したタクミが思わず声をあげた。


 「あれは・・・・たしか以前見たことのある顔だな。ラザリー、お前の名も呼んでいるみたいだが知り合いだったのか?」


 タクミの存在に気づいたバズドーがラザリーに問いかけた。


 「・・・知らない。」


 チラッとタクミの方を見たがすぐにそらしてそっけなく答えるラザリー。


 「そうか。シーバスお前にしては珍しく時間がかかっていたみたいだな。この間のウルガンドの件もあったからな、エレボス様に言われ迎えに来てやったぞ。どうやら苦戦していたみたいだな。」


 「それはすまんな。思わぬ反撃を受けてしまってな。不覚にも遅れをとってしまった。」


 「お前にここまでの傷を与えるとはな。奴らの中にも戦える奴がいるということか。・・・面白い。私も一戦交えてみたいものだ。」


 魔力をみなぎらせ戦闘態勢へと変わるバズドー。


 チッ!ここにきて狂魔六将のうちの三人が集まってきたのかよ!一人でも厄介なのに三人まとめては正直ヤバいんじゃねーか!?


 思わぬ敵の増援に焦りを感じながらも迎え撃つために無能術を発動させるタクミ。後ろではドズールも同じように構えていた。


 遠くではクリウスも体勢を整えて迎撃態勢を取っているようだった。


 「ダメよバズドー。エレボス様はすぐに戻って来いとおっしゃっていたわ。」


 臨戦態勢になっていたバズドーをラザリーが制止した。


 「それもそうだな。お楽しみはとっておくこととしよう。今回は仕方ないが戻るとするか。」


 ラザリーに言われ臨戦態勢を解いたバズドーが転移魔法を発生させ、黒いゲートを出現させた。


 「クリウス!今回の勝負はお前に華を持たせておいてやろう!だが次会ったときは覚悟しておくことだ!」


 シーバスが吐き捨てるようにいうとゲートの中に消えていった。


 ラザリーも同じようにゲートに入っていこうとした。


 「待て!お前ローゼの姉ちゃんだろ!?狂魔六将なんかになっていったいどういうつもりだよ!?ローゼが心配してたぞ!!」


 ゲートに消え去ろうとしたラザリーを呼び止めるタクミ。


 ローゼの名に少し反応したように見えたラザリー。ゆっくり振り返りタクミを見下ろす。やはりその瞳は何度見ても冷酷なものだった。とてもローゼと姉妹とは思えぬ表情だった。


 ラザリーの表情におもわず固唾をのむタクミ。


 「どうやら因縁があるようだな。私は先にゆくからな。あまり時間をかけるなよ。」


 そう言い残しバズドーもゲートの中に姿を消した。


 タクミを見下ろすラザリー。しかし何も言おうとはしなかった。それを見てタクミが続けた。


 「お前、自分の父親を手にかけるなんて何考えてんだよ!お前が邪神教徒になんて入ったばっかりに今ウルガンドは大変なことになってんだよ!自分の故郷がどうなっても構わなってーのかよ!?なぁ!?」


 思わず声を荒げるタクミ。沈黙を続けていたラザリーがゆっくりと口を開いた。


 「・・・・どこの誰かは知らないけど、貴方には関係のないことよ。」


 淡々とした口調で答えるラザリー。


 「関係ないことあるかよ!お前らのせいでこっちはいい迷惑してんだよ!それに俺はローゼには世話になってんだ!そのローゼがお前の話をしたときに寂しそうな表情してたんだよ!あんなもん見て知らん顔できるかってーの!俺はお前をローゼの元に連れて行くぞ!そして仲直りさせるからな!」


 タクミの言葉を聞いて表情こそ変わらないが、なんだかイラついているような感じのするラザリー。


 「なんなの貴方は・・・私の邪魔をするというなら容赦はしないわ。ここで消えて頂戴。」


 そういうとラザリーは手をあげ先程落ちてきた隕石のようなものを再び作り出した。大きさはさっきの何倍もある。


 「さようなら。名も知らぬおせっかいさん。ここで燃え尽きるがいいわ。」


 そういうとラザリーはゲートの中に姿を消していった。巨大な隕石を残して。


 ラザリーがいなくなりゲートは閉じてしまった。そしてラザリーの作り出した隕石がゆっくりと降下を始めた。


 「なんて大きさだよ!あんなもん喰らったらひとたまりもねーよ!」


 「タクミ!ドズール!こっちだ!全員で魔法障壁をつくるんだ!」


 クリウスが声をあげた。クリウスの声を聞いて一か所に集まるタクミ達。後ろにはシーバスにやられたまま横になっている神獣もいた。


 神獣や一般兵を守るように障壁をつくるタクミ達。


 「タクミ!お前はゴーレムの力を使って出来るだけ土による壁もつくるんだ!」


 ドズールが指示を出す。これを聞いてタクミは再び無能術を発動させた。ゴーレムの魔力を使い魔法障壁を覆うように土による防御壁を何重にも重ねて即興でシェルターのようなものを完成させた。


 「衝撃がくるぞ!全員備えるんだ!」


 クリウスが叫んだ瞬間、巨大な地響きと共に凄まじい衝撃が起きた。


 間もなくして魔法障壁を覆っていた土の壁が衝撃波によってはがされた。タクミやクリウス、ドズールガ全力で魔法障壁が破られないように魔力を注いでいる。


 しばらくして衝撃が収まった。どうやら無事にやり過ごすことが出来たようだった。


 徐々に視界がはっきりしてきた。目の前の光景を目のあたりにしてタクミは絶句した。


 辺り一面が一気に荒廃してしまっていた。まるで別な場所に飛ばされてしまったのではないかと錯覚してしまうほどだった。


 「これがラザリーの魔法かよ・・・」


 ラザリーの魔法の威力を目のあたりにして思わず呟くタクミ。


  

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