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三章 6 「エレボス」


 シーバスが掲げた魔剣はその刀身に禍々しい魔力を帯びているのがわかる。


 「俺の邪魔をする奴は誰一人として許しはしない!まずはクリウスお前からだ!断絶一刀!」


 シーバスが掲げた魔剣をクリウス向けて振り下ろした。たちまち大地が割れたかのような勢いで裂けた。


 「・・・くっ!」


 刀身こそクリウスに届きはしていないがその衝撃にたまらずクリウスが後ろに飛ばされる。


 「団長!!」


 その様子を見たタクミとドズールが叫ぶ。


 「慌てなくとも貴様らもここで死んでもらうさ!愚かな魔法騎士団の者ども!」


 そう言うと今度はシーバスが二人に向けて再び魔剣を振り下ろした。


 再び凄まじい衝撃波が地面を裂きながらタクミ達に襲いかかった。


 衝撃波がぶつかり凄まじい音と共に黒煙が巻き上がった。


 「・・・ほう。面白い奴がいるな。」


 何かに気づいたシーバスが不敵な笑みを浮かべる。


 黒煙が風に流されていき視界がはっきりしてくる。


 そこには巨大な分厚い土の壁が現れた。しかしさっきの衝撃を受けたようでボロボロと崩れ落ちた。


 崩れ落ちた壁の向こうには無能術を発動させているタクミがいた。


 「ふぅ。なんとか防ぎ切ったぜ。それにしてもなんつー威力だ。」


 「助かったぞタクミ。」


 タクミの後ろに立っていたドズールが礼を言う。


 「その力・・・さてはウルガンドでベルモンドを倒したというのはお前か。なんでも相手の魔術を奪えるとか報告があったな。今のもベルモンドから奪った力か?」


 シーバスが肩に魔剣を担ぎタクミに問いかけた。


 「ああ、そうだよ!お前の魔力もここで俺が奪ってやるから覚悟しやがれ!」


 タクミが威勢良く叫ぶ。


 「面白い。やれるならやってもらおうじゃないか!俺はお前の命をもらうがな!」


 シーバスが剣を構えタクミの方に斬りかかってきた。


 「早まるなシーバス!お前の相手は私だ!」


 先程吹き飛ばされたクリウスがシーバスの突進を止めるように前に立ちはだかった。


 「どけクリウス!もはやお前に興味はないのだ!死ねぇ!」


 シーバスが魔剣を両手に握りしめクリウス向けて振り下ろした。


 次の瞬間、クリウスが一瞬でシーバスの後ろに立っていた。シーバスの突進に備えていたタクミにも何が起きたかわからなかった。


 クリウスがシーバスの後ろに立っているのを認識した次の瞬間、シーバスの左腕から出血が起きた。どうやらクリウスに斬られているみたいだった。


 「・・・なっ!?なんだ今のは!?」


 一瞬の出来事に思わずシーバスも驚きを隠せないようだった。慌ててクリウスと距離をとる。


 「クリウス貴様何をした!?」


 「言ったはずだ。今の私はお前が知っている私ではないのだ。今ここに立っているのは魔法騎士団団長としての私だ!魔に堕ちたお前などに遅れなどはとらぬさ!ここで終わりにさせてもらうぞシーバス!」


 クリウスがシーバスの方にゆっくりと近づいていく。その様子は今までのそれと違っていた。まるで時が止まっているかのような錯覚に陥るほど、しかし流れるように正確なものだった。


 「生意気な!お前のような奴に遅れをとる俺ではない!」


 シーバスが剣を構える。しかしさっきまでの余裕な様子は見られなかった。クリウスの不思議な力を警戒しているようだった。


 「・・・無駄だ。今のお前にこの技は見抜けない。」


 再びクリウスが近付いただけでシーバスの体に切り傷が増えていった。まるでクリウスの攻撃が見えなかった。


 みるみるシーバスの体に切り傷が増えていく。これにはたまらずシーバスがむやみに剣を振り回していた。


 「なんだこの技は!?こんなものは知らぬぞ!クリウス!」


 シーバスの振り回した剣がクリウスを捕えたようでもその刀身はクリウスの体をすり抜けていった。


 「・・・すげぇ。」


 クリウスの一方的な展開を目のあたりにして思わずタクミが呟く。


 「よく見とけタクミ。あれが団長の本気だ。あの団長の剣の結界にはまれば一対一で負けることはないと言っても良いものだ。」


 ドズールがタクミの肩を叩き呟いた。


 「剣の結界?」


 思わず聞き直すタクミ。


 「あぁ。あの聖剣と団長の魔力と剣術が合わさって生まれた唯一無二の魔術だ。そうそうお目にかかれるものじゃないぞ。」


 たしかにドズールの言う通りさっきまでとは違いシーバスが訳も分からないまま一方的に斬られていく様子は結界に迷い込んだようだった。


 「・・・ぐっ!これほどとは!」


 相当な切り傷をおったシーバスがたまらず地面に片膝をついた。


 「シーバス・・・魔に堕ちてしまった貴様を止めるのは私の役目だ。貴様があの時、剣術道場を抜けた日我が師レガル様と他の門下生を殺したこと許しはしない!今ここで貴様の命をもって償ってもらおう!」


 シーバスに剣を向けるクリウス。しかしクリウスに剣を向けられたシーバスは笑っていた。


 「クックックッ・・・!」


 「何が可笑しい!?」


 シーバスの思わぬ反応に激昂するシーバス。


 「クックッ・・そりゃおかしいさ!お前の盛大な勘違いがな!これを笑わずにいられるか!」


 「勘違いだと!?」


 「あぁ。お前は俺があの時すべての者を殺したと思っていることがな!・・・確かにあの時の俺はかなりの力をつけていたさ!お前からみれば及びもしないくらいな!しかしそれでもレガルには勝てなかっただろうさ!」


 「・・・なんだと?」


 シーバスの思わぬ告白に動揺している様子のクリウス。


 「お前はあの時幸運にも実際には居合わせはしなかったな。お前が見たのはすべてが終わった後だろう。ならば勘違いをしても無理はないのかもな!だが可笑しいとは思わぬか!?確かに俺は強かった!しかしいくら俺が強かろうと師であるレガルには勝てるわけもない。お前も知っておるであろう。レガルはかつては剣聖と呼ばれるまでの強さを持っていたことをな!俺はその強さに惚れあの道場に入ったのだから。」


 「ならばあの時何があったのだ!?」


 「あの日お前が道場から出かけた後、一人の男が道場に尋ねてきたのだ。全身を黒一色に染めていたそいつはレガルに勝負を挑んだ。その男は道場破りだったのだ。その男は問答無用にレガルに斬りかかったのだ。レガルもこれに応戦した。その戦いは今でもはっきり覚えているさ。さすがは剣聖と呼ばれていた男だ。レガルの剣は凄まじかった。しかし男もこれに負けていなかった。そして勝負はついた。男が勝ったのだ。」


 「なんだと・・・?」


 シーバスは続けた。


 「レガルは男に敗れ地に伏せた。しかし男は攻撃を止めることはしなかった。地に伏せていたレガルの心臓に剣を突き立てたのだ。そしてその男は道場にいた他の門下生も殺しはじめたのさ。」


 「その話が本当ならば、なぜ貴様は生きている!?」


 クリウスが当然な疑問をシーバスにぶつける。


 「フッフッ・・その男は俺の中に眠る力に気づいたのだ。男は言った!{お前にはこの道場は似合わない。強くなりたいのであろう?ならば私について来るがいい!私がお前に真の力を授けてやろう!}とな!実際に俺はその男の力を目の当たりにした。その力は本物だった。迷う理由はなかったさ!そうして俺は力を得たのだ!」


 「・・・その男の正体は何者だ?」


 「お前ら魔法騎士団が躍起になって探している男。我らが邪神教徒の生みの親にしてこの世を統べるに相応しいお方、エレボス様だ!」 


 シーバスから出てきた名前こそが邪神教徒のリーダーの名前だった。 


 


 

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