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三章 2 『魔法騎士団団長 クリウス』


 準備を整えたタクミ達はエスミル山を目指して出発した。クリウス団長率いる魔法騎士団と一般兵千人での旅路となった。今回はグリドラには乗らずに馬にそれぞれ乗ってエスミル山を目指すこととした。


 「なあ、レミ。この一般兵てのはどういうもんなんだ?」


 タクミがレミに近づき質問した。


 「ん?一般兵の人たちは魔法の使えない人たちが集められている軍のことだよ。剣術や武術を主な戦闘手段としている人たちだよ。ただ一般兵なんて呼ばれているけど、中にはその辺の魔法が使える人より強い人もいたりするからね!」


 「へえ、そうなんだな。それで今から行くエスミル山ってのはどのくらいで到着するんだ?」


 「そうだね・・・今回は馬だから三日くらいはかかっちゃうんじゃないの?タクミみたいに空を飛んで行けたら一日で着いちゃうかもだけどね!」


 「そんなに違うんだな。一人で飛んで行っちゃおうかな。」


 「そんなことしたら次はクビだからな。」


 いつの間にかドズールがタクミの後ろに来ていた。


 「な・・・!冗談だって!そんなことするわけないじゃないですか!ヤダなーもう。ハハハ・・・」


 「わかってるならよろしい。・・・タクミ、今回はクリウス団長も一緒だからな。くれぐれも勝手なことはことはするなよ。」


 「・・・了解」

 

 ドズールがタクミに念を押すとそのまま後ろの一般兵の所へ走っていった。


 「ふう・・言われなくっても大丈夫だってーの!ドズールも心配性なんだから。」


 「君を見ていると何かやらかしそうな気がするんだろう。ドズール隊長の心配するのもわかる気がするよ。」


 今度はアトスが横から近づいてきた。


 「そんな風に見えるのかよ・・・ていうかアトスさんもう隊長は大丈夫なんすか?」


 「え?ああ。エリーに治してもらったからもう大丈夫だよ。それよりクリウス団長と一緒に戦場に行けるなんて滅多にないんだからタクミもしっかりとクリウス団長の戦いを見ておくといいよ。」


 「やっぱりそんなに強いんすか?」


 「それはもう強いなんてもんじゃないさ!団長は魔法の力も剣術もこの世界で5本の指に入るって言われるほどの人なんだ!タクミの強さもなかなかだがやはり団長は別格と私は思っているよ。」


 団長の強さを語っているときのアトスは目をキラキラさせていた。

 

 「そうなんすか・・・じゃあその団長と互角って言われているシーバスって言うのも相当ヤバいんじゃないんすか?」


 「たしかに・・・だがシーバスの情報は団長の幼い時の物だ。今は団長の方が強くなっていると私は個人的に思っているんだけどね。それに今回は一騎討ちをするわけじゃないんだ。いくらあっちがシーバス一人強くても総合的な軍の強さもこちらが負けるとは思えないよ。すでに狂魔六将を一人討ち取ったタクミもいることだしな!」


 「あんまりプレッシャーかけないでくださいよ。」


 「君にはみんなが期待しているということさ。」


 そう言うとアトスもタクミから離れていった。


 こうしてタクミ達は休むことなくエスミル山を目指して走り続けた。日が沈んでしばらく進むと見晴らしの良い平野があったのでそこで全員休むことになった。


 そして日の出と同時に再び出発した。


 「ふあぁ・・・やっぱり飛んで行けないのは不便だな。」


 早起きには弱いタクミがあくびをしながら愚痴をこぼす。


 「しょうがないですよ。タクミさん一人でエスミル山にいってもしょうがないんですから。」


 今度はシュウがタクミを諭すように話しかけてきた。


 「シュウか。いやそれはわかってるんだけどな。こうなんか、まとめて人を移動させる魔法とかないもんかね」


 「転移魔法の類ですか?まあ一人や少数なら場所を転移させることも出来る人もいると思いますが、この軍を丸ごと転移させられる人はいないと思いますよ?」


 「やっぱりか・・・でも自分だけでも自由に場所を移動出来たら便利だよな!」


 「そうですね。ってタクミさんは元魔法騎士団団長の方の魔力を持っているんですよね?それなら転移魔法も使えるんじゃないんですか?」


 「あ、そういえばそうかもな。爺さんに初めて会った時も転移魔法っぽいもので連れていかれたしな。ただ使い方がいまいちわかないんだよな・・・爺さんも特に使い方を教えてくれたわけじゃないしな。」


 「それはもったいないですね。ただ転移魔法を教えられる人なんて限られてきますからね。あ、でもクリウス団長なら転移魔法も使えそうですけどね。」


 「団長か。今度タイミング見て聞いてみようかな?ただなんか教えてくれなさそうだもんな・・・なんか団長苦手なんだよな。」


 「ハハ・・・まあわからなくもないですけどね。威厳があるというか、なんだか近寄りがたい雰囲気はありますもんね。」


 「そうなんだよな。どうしたもんかねぇ・・・」


 「まあ、まずは目の前の任務に集中しましょう!今回の任務も危険そうですからね。気を抜くわけには行きませんから!」


 「それもそうだな。俺も頑張るからシュウも頑張れよ!」


 二日目も順調に進んでいき夜を向かえた。再び全員で休めるところを見つけ休むことにした。


 眠りについたタクミだったがトイレに行きたくなり夜中に目を覚ましたタクミ。外で用をすませて再び寝床に戻ろうとした時、夜の景色に銀色に輝く光を見つけた。


 光の方に近づいていくと光の正体はクリウスだとわかった。


 クリウスの剣が月の明かりに反射したものだった。


 ・・・なんだ?剣の鍛錬か何かか?


 タクミが息を潜めてクリウスに近づいた。


 「・・・タクミか。」

  

 近づいてきたタクミに振り向きもせず気づいたクリウス。


 「・・・!あ、ども。なんか気になったんでつい・・・すんません。」


 「謝ることはない。明日はエスミル山に到着する。おそらくは邪神教徒達との戦闘もあるだろう。私はこうして剣気を整えないと落ち着かないものでね。」


 「団長ほどの強さがあっても緊張するもんなんすか?」


 「緊張というほどでもないさ。ただ常に相手が自分の力を上回ってくる可能性は考えている。慢心こそが一番の弱さにつながると私は考えている。」


 「なるほど。団長がそういう人だから皆が信用してついて来るんすね。では俺はこれで・・・」


 「タクミ。」

  

 タクミが振り返り帰ろうとした時クリウスに呼び止められた。


 「君のウルガンドでの一件はドズールから報告を受けている。なんでも無能術というものを使うそうだな。そしてその魔術は相手の魔力を奪うことが出来ると。そして君はエドワード大魔導士の魔力を身に着けているともな。」


 「ええ。まあ。団長はじい・・・エドワード大魔導士のこと知っているんすか?」


 「知っているも何もエドワード大魔導士は私が魔法騎士団に入団した時の団長だった人だ。あの人の強さを私は嫌というほど知っているさ。その人格の凄さもな。入団試験の時の君の魔力にどこか見覚えがあると思っていたが、ドズールからの報告で納得がいった。」


 クリウスは手に持っていた剣を納刀して続けた。


 「タクミ・・・君のその力はおそらく唯一無二のものだろう。だからこそ、その使い方には注意してほしい。強大な力は使い方を誤ればそれは時に凶刃な刃となりえる。君は魔法騎士団の中心を担うことのできる力を持っている。皆もそうだが私も君には期待をしているよ。」


 表情こそ硬いままだったがその言葉からはクリウスの優しさを感じることが出来た気がしたタクミであった。


 「了解っす。団長の言葉心にしかと止めておきますよ。」


 「うむ。では明日に備えて今日は休むがいい。」


 タクミはクリウスに一礼して寝床に戻り横になった。 



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