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無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。  作者: 高田 タカシ
第二章 魔法騎士入団編
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二章 11 『静かなる闘志』


 「ウルガンドへはどのくらいで着くんすか?」


 荒野を疾走と駆けるグリドラの荷台の中、タクミがドズールに質問する。


 「そうだな・・・グリドラで順調に行けば約一日くらいで着くんじゃないか?」


 「そうっすか・・意外と遠いんすね。ちなみに順調じゃない場合ってのは?」


 「そりゃあ野党やら・・・あと邪神教徒との戦闘も起こるかもしれんからな。正直ウルガンド周辺は最近治安が良くない傾向にある。今回はあくまでの現状調査だから万が一戦闘になっても深追いはするなよ。」


 「そうすか。じゃあもしかしたらウルガンドまで行けない可能性もあるってことっすか?」


 「そうだな。もし敵の勢力が予想を上回っていたら撤退せざるえないからな。情報を無事に持ち帰ることを第一として行動するんだぞ。」


 ドズールの話で少し荷台の中の緊張感が高まる。そんな中レミがタクミに聞く。


 「どうしたのタクミ?なんだかどうしてもウルガンドに行かないといけない用事でもあるの?」


 「え?ああ・・ちょっとウルガンドに知り合いがいるからな。そいつが今どうなってるのか気になるからな。」


 「へぇ。・・・もしかして恋人とか?ねぇ?」


 ニヤニヤしながらレミがタクミに迫る。


 「なっ、そんなんじゃねーよ!ただ昔そいつに助けられたことがあってな。だからそいつがもし困ってるんなら助けてやりたいって思ったんだよ。」


 「ふーん。意外とタクミって義理堅いとこあるんだね。」


 「レミ。意外っていうのは俺に対して失礼とは思わんのか?」


 「だって見た目からはなんか想像できないんだもん!そういうのすぐ忘れそうな顔してるし。」


 「オマエなぁ・・・いいか?俺はうけた恩は必ず返す男だぞ?だからレミも俺に良くしといたら後々良いことあるぞ?」


 「タクミ・・・なんかカッコ良いこと言ってる雰囲気だしてるけど、よく聞いたらカッコ悪いこと言ってるよ。」


 「こういう時は深くは追及しない方がお互いのためだと思うぞ。」


 「なにそれ。」


 「ハハハ。まぁ理由はなんであれタクミ君の知り合いも無事だといいな!」


 二人のやり取りを聞いて可笑しかったのか、アトスが笑いながらタクミに言った。


 グリドラは疲れる様子を見せずに走り続ける。しばらく荒野を走り続けて日が沈み、辺りが暗くなってきた。


 「さて・・そろそろグリドラも休ませてやらないとな。今日はこの辺でテントをつくり休むとしよう。


 ドズールがグリドラの様子を確認してタクミ達に提案する。 タクミも外を見ると無尽蔵の体力かと思われたグリドラだったがさすがに疲れが見えた。


 外は完全に夜になっていた。止まった場所は荒野の中のオアシスのような所だった。ちょっとした木々と湖があった。周りを見渡すことも出来るし、ここなら寝ているところを襲われる危険も少ないだろうと思われる場所だった。


 ドズールとアトスの指示のもとタクミ達男性陣は寝床となるテント作っていた。エリーとレミは食事の用意をしていた。


 「ご飯出来たよー!」


 テントを張り終わる頃レミの声がした。たき火を中心として周りに人数分の食事が用意してあった。」


 「おぉー!凄いな!これレミが作ったのか?」


 並べられた食事を見てタクミがレミに聞く。外で食べる料理にしてはやけにクオリティが高かった。


 「すごいでしょ!?・・っていいたいけど私は手伝っただけでほとんどエリーさんのおかげよ。エリーさんホント料理上手なんだから!」


 「そんなことないわよ。レミちゃんが手伝ってくれたおかげよ。」


 レミに褒められ少し照れた様子のエリーだった。


 全員で円になり食事をする。


 「うめー!レミの言う通りエリーさん料理上手でずね!」


 料理を口にしたタクミが歓喜の声を上げる。


 「やだ。もうタクミ君まで褒め過ぎよ。たいしたことはしてないわよ。」


 「いやーエリーさん、あの手さばきはもはや芸術の域でしたよ。いいなー!私も料理上達したいんですよ・・エリーさん教えてくれません?」


 レミがエリーに手を合わせ頼み込んでいる。


 「フフフ。私で良ければいつでも教えてあげるわよ。レミちゃん。」


 レミの頭も撫でながらエリーが答える。


 「ホントに!?やったー!」


 目をキラキラさせ、エリーにすり寄るレミ。まるで姉妹かのような親しさだった。


 「ふぅ。ご馳走様!ほんと美味かったですよエリーさん。」


 「いえいえ。お粗末様でした。」


 空になった食器を片付けているエリー。


 「食事も終わったことだし、明日は日の出とともに出発するぞ。各自しっかり休むんだぞ。一応周辺に敵が来た時にわかるように魔法を仕掛けておくか。アトスも手伝ってくれ。」


 ドズールとアトスが一緒に立ち上がった。


 「あ、僕も手伝います!」


 シュウが後を追うように立ち上がる。


 「そうか。では頼もう。」


 ドズールとアトス、シュウは一緒に行ってしまった。ジークはテントから少し離れたところで座禅のような恰好で目をつぶりジッとしていた。 タクミは荷物をテントに運び込んだ。


 レミとエリーも片付けが終わったようでテントの所にやってきた。少しするとドズール達も帰ってきた。


 「とりあえず辺りに不穏な影は感じられなかった。だが念のために魔法は張っておいたから、おそらくは大丈夫だろう。だが油断はしないようにな。では寝るとするか。」


 ドズールの合図で各自テントに入る。もちろん男性陣と女性陣で別れる形で休むこととした。


 いよいよ明日はローゼの街に着くんだな・・・


 久々にローゼに会えるかもしれない期待と、無事だろうかという不安の入り混じった感情で寝れなかったが明日に備えるために目をつぶり無理にでも寝ようとしたタクミだった。


 しかしやっと寝付けそうだった時にドズールのいびきで起きてしまったタクミ。なかなかのボリュームである。


 「うるせーな・・まったく自分でしっかり休めとか言っといて他人の休息邪魔してんじゃねーよ。」


 いびきをかいているドズールに愚痴をこぼすタクミ。とりあえず外の空気を吸いにテントから出た。


 外にはまだ座禅を組んでいたジークがいた。


 こいつのことは正直よくわかんねーんだよな・・


 ジークの様子を見て内心そう思ったタクミ


 「どうした?寝れないのか?」


 目をつぶったままジークがタクミに話しかけてきた。予想外の人物にいきなり話しかけられタクミは驚いてしまった。


 「え!?、あぁ、ちょっと雑音がうるさくてな。そういうお前は寝ないのか?」


 「私は横になって休む習慣はないからな。」


 「そうかい。休憩の仕方は人それぞれだからな。じゃあ俺は戻るとするよ。」


 タクミが早々と話を切り上げ戻ろうとした時ジークが口を開いた。


 「・・タクミ。お前はこの世界の住人ではないな?」


 不意の指摘に慌てて振り向くタクミ。しかしジークは目をつぶったままである。


 「・・・・なんでそう思うんだよ?」


 「私もお前と同じ精霊術使いだ。今もこうして体内のエルムを高めるため大気に漂う精霊との会話をしている。私は他の人間の魔法の性質に敏感でな。そしてタクミの中にある魔力は今まで感じたことのない魔力を感じる。だからそう思ったのだ。」


 「なるほど・・・嘘は通用しないようだな。まあ別に隠してたわけでもないんだが、俺は二年前に違う世界から来た。それでそれを知ったお前はどうするんだ?ドズールに報告でもするかい?」


 「ふん。別に私はお前がどこの世界の住人でも気にしないさ。特に邪悪な気魔力も感じないしな。」


 「そうか。正直話がややこしくなるからその方が俺的には助かるよ。ついでに俺も聞いていいか?」


 「なんだ?」


 「ジークはなんで魔法騎士団に入ったんだ?」


 「・・・私はある男を捕まえるためにこの魔法騎士団に志願した。」


 「ある男?」


 「ああ。仇ともいえる存在だ。」


 仇という言葉を口にしたとき明らかにジークの周りの空気が変わった。怒気をまとっている。


 「それは邪神教徒と関係があるのか?」


 「それははっきりとはわからんが、邪神教徒を追っていけばどこかで必ずつながると考えている。」


 「そうか・・・ジークならきっと捕まえられるだろうよ!とりあえず今回はジークの事も頼りにしてるからな?」


 「私は私のすべきことをするだけだ。」


 そう言うジークの雰囲気はいつも通りに戻っていた。


 「それで十分だよ。じゃあ俺は寝るからな。」


 「ああ。」


 タクミは振り返りドズールのいびきのするテントへと帰ってきた。相変わらずのボリュームだった。


 「ってか、他の奴は良く目を覚まさねーよな?」


 このいびきの中、寝息をたてている二人を見るタクミ。すると二人の耳に魔法で作ったような耳栓が見えた。


 「・・・こいつら抜け目ねぇ。」


 タクミもすぐに二人の真似をしてドズールの騒音を排除した。


 「やれやれ、これでゆっくり休めるぜ。」


 やっとゆっくり休める環境を手に入れたタクミは明日に備えて目をつぶった。


 この日タクミは夢を見た。


 それは二年前謎の男に襲われた時の夢だった。土の手、猛るように燃えるローゼの炎。二年前のことだがやけにハッキリとした夢だった。


 


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