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無能な俺がこんな主人公みたいなことあるわけがない。  作者: 高田 タカシ
第二章 魔法騎士入団編
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二章 8 『一抹の不安』


 「なぁ・・聞いていいか?」


 アーバンカルへと帰る荷台の中タクミが口を開く。


 「なに?タクミ。」

 

 レミが答える。


 「あのさ・・・邪神教徒はなんとなく聞いたけどよ、狂魔六将って何?」


 タクミの発言に口をポカンと開けるレミとシュウ。ジークは目をつぶったままだ。


 「ホントっ・・・タクミは何にも知らないんだね!よくそんなので今まで生活してこれたもんだよ。・・・いい?狂魔六将っていうのは邪神教徒の中でも特に魔力の高い6人の事を指すのよ。要は幹部的なものね。」


 「へぇ・・ってことはあのバズドーってのと同等なのが他に5人はいるってことか。」


 「そうよ。バズドーがしてたネックレスのようもの覚えてるかしら?狂魔六将は必ずピースが一つ欠けた六芒星をどこかに身に着けているわ。まぁ狂魔六将と出会って生きて帰ってきたものは正直少ないわ。そういう意味で私たちは今日スゴイ体験をしたってことなのよ!」


 興奮気味にレミが言う。


 「そ、そうなのか。確かにあいつの使う魔法は正直厄介だったもんな。・・・なぁ、他の狂魔六将ってどんな奴がいるんだ?」


 「そうね。私も全部は知らないんだけど・・、まずは今日出会った重力魔法を得意とする黒のバズドーね。他は毒系の魔法を得意とする老魔人ゲルニクスっていうのと銀髪の魔剣使いのシーバス・・・あとは炎魔法を得意とする赤髪の冷酷魔女っていうのも目撃されていたかしらね・・・」


 「赤髪の魔女・・・?」


 妙に引っかかったタクミ。おもわず聞き直す。


 「えぇ。そんなに目撃情報はないのだけど、なんでもスゴイ炎の魔法使いみたいよ。そして赤い髪の女性でとても冷たい目をしていたそうなの。だから赤髪の冷酷魔女よ。名前は残念ながらまだ知れてないみたいよ。」


 「そうか・・・」


 レミの話を聞き、黙り込むタクミ。


 赤髪・・・女性・・・炎・・・


 いやいや!そんなわけないだろ!


 タクミは内心ある一人の少女を思い出した。ローゼだ。


 たしかに、彼女も赤髪の炎使いではあった。だが彼女の瞳はまさに優しさに溢れていたのをタクミは知っていた。あのローゼがそんな冷たい目なんかできるわけない。というか、邪神教徒なんてローゼが入るわけない!短い付き合いではあったがそれは確信を持って言いきれた。

  

 「どうしたの?タクミ?なんか怖いよ?」


 急に黙り込んだタクミに恐る恐るレミが聞く。


 「・・・・あ、あぁ!何でもないよ!悪い!ちょっとぼっーとしちまった!。今日は疲れちまったからかな?アハハハ。」


 明るく振る舞うタクミ。


 帰ったらウインズにローゼのこと聞いてみるか・・・


 タクミは内心そう決めた。早くこの一抹の不安を解消したかった。


 そしてグリドラ達はアーバンカルの魔法騎士団本部に到着した。外はもう日が沈んでいた。


 全員が始めに集められた部屋に再度集められた。


 「今日は皆の者ご苦労であった!思わぬ敵との遭遇もあったが無事に皆が帰ってこられたのがなによりだ!入団試験の結果は明日この部屋にて正午発表する!今日は疲れたであろう、休息をとってくれたまえ!」


 ドズールが受験者を(ねぎら)う言葉をかける。そしてまた指をパチンッと鳴らした。


 受験者の姿が魔法騎士団の制服から元の服装へと戻った。


 「では、これにて解散!」


 ドズールの合図で受験者はパラパラと部屋から退出する。


 「また明日ね!」


 レミが手を振り部屋から出て行った。タクミが最後の一人して部屋から出た。


 「やぁ。おかえり。無事試験を終えたようだね。」


 部屋から出たところにウインズが立っていた。


 「ウインズさんのおかげで試験を受けることが出来たよ。ありがとうな。」


 「別に構わないさ。それよりこれから時間あるかい?。」


 「あぁ。俺もウインズさんに聞きたいことがあるんだ。」


 「うん。では立ち話もなんだし私の屋敷に来たまえ。」


 「わかった。」


 タクミはウインズに連れられウインズの屋敷へと到着した。


 「とりあえず何も食べてないだろ?食事にしようか。」


 今度は応接室ではなく長いテーブルのいくつも並べてあるまるでパーティー会場のようなところでウインズと二人っきりで食事をした。広い部屋に二人っきりで若干気まずい感じはしたが空腹には勝てないものである。目の前の食事にむさぼりつくタクミ。


 「気持ちのいいくらいの食べっぷりだね。」


 「まぁね。正直腹はかなり空いていたから助かったよ。」


 「そんなにおいしそうに食べてくれるなら御馳走のし甲斐があるってものだよ。・・・さて、食事も終わったようだしいいかな?」


 「あぁ。」


 「ずいぶん見ない間に変わったようだけど何があったのだい?」


 タクミはあの日ウインズの屋敷を出た後のことを話した。あの後謎の襲撃を受けたこと、そして今までエドワードと一緒に修行をしていたことを。


 「・・・・なるほど。あのエドワード大魔導士のもとで修業をか。たしかにあの方なら君に魔法を使わせるようにすることも可能だろうね。しかしあの方が弟子を取ることは滅多にない。しかし君からは弟子にしたくなるような何かがあったのだろう。そして君の変わりようには驚かせられたよ。あのジュエルとも渡り合っていたしね。」


 「見ていたのか?」


 「あぁ。私も魔法騎士団に所属するものだからね。当然試験の様子は見ていたとも。」


 「なるほど。・・・なぁ、俺からも聞いていいか?」


 「ローゼのことかい?」


 ウインズは察していたかのように聞き返してきた。


 「そうだよ。ローゼは今何をしているんだ?」


 ウインズはタクミの問いに両肘をテーブルに着き、目をつぶって答えた。


 「・・・残念ながら私も詳しくは知らないのだよ。」


 「なんでだよ!ウインズさんとローゼは仲良かったんじゃねーのかよ!?」


 「確かに。彼女とは彼女のお父さんと共に仲良くさせていただいていたよ。しかし、あの日君と一緒にこの屋敷に来たのを最後に、ここには来ていないのだよ。それでもしばらくは手紙も来ていたのだが・・・君は知っているかい?半年前の事件の事を。」


 「たしか・・皇帝が一斉に暗殺されたって事件のことか?」


 「あぁ。そうだ。あの事件以来手紙も来ることはなくなった。」


 「そんな・・・それでウインズさんは心配じゃねーのかよ!?」


 「もちろん心配だとも!!」


 テーブルを手で叩くウインズ。テーブルに並べてあった食器がガシャンと音をたてる。


 その勢いにタクミもおもわずたじろいでしまった。


 「・・・すまない。取り乱してしまった。彼女は私にとっては娘のような存在だ。心配にならないわけないのだ。そしてあの事件以来彼女のいる国、ウルガンドについても良くない噂を聞く。」


 「良くない噂?」


 「あぁ。ウルガンドは特に邪神教徒がらみであろう事件が多発しているということだ。」


 「邪心教徒・・・またあいつらかよ!」


 「君は聞いた話によると、狂魔六将の一人と戦ったそうだね。」


 「まぁな。たしかバズドーって奴だったよ。」


 「なるほど。ならば戦った君本人が良く分かっているであろう、邪神教徒の危険さがどんなものかを。」


 「確かに・・・あんな奴らは放っておけないな。」


 「そこで君に頼みがあるのだよ。」


 ウインズがタクミをまっすぐ見つめた。 


 「頼みって?」


 「残念ながら、私はこのアーバンカルを離れるわけにはいかない。魔法騎士団としての仕事が色々とあるからね。そこで君にローゼのいるウルガンドに行ってほしいのだよ。」


 「俺に?」


 「あぁ。君は間違いなく試験をパスしている。なので新人の君に任務としてウルガンドへの仕事を私で用意しよう。そして魔法騎士団としてウルガンドへ行きベルトール家の・・・ローゼの安否を確認してきてほしい。頼むっ!」


 ウインズはタクミに頭を深々とさげた。


 「そんな・・やめてくれって!そんなことしなくても俺は行くよ!むしろありがたいくらいだって!俺はローゼに返せないくらいの恩があるんだ!だから頭をあげてくれよ。」


 「すまない。ホントはこんな危険なことを頼むべきではないのかもしれない。しかしこんなことを頼めるのは君しかいないんだ。」


 「任せてくれって!必ずローゼをウインズさんのもとへ連れてくるからよ!」


 タクミは強く拳を握り、ウインズに向けた。


 「ありがとう。ホントに君は見違えたね。それはエドワード大魔導士のおかげかい?」


 「まぁ、爺さんのおかげでもあるが、ローゼのおかげでもあるんだ。俺はこの世界であいつに救われた。あいつの優しさにふれたんだ。だからローゼのために魔法を使うことが出来るのならこんなにうれしいことはないよ!」


 自信をみなぎらせるタクミ。それを見て安心したかのようなウインズ。


 「・・・そうか。では頼んだよ。今日は私の屋敷に泊まっていくといいよ。部屋を用意しよう。」


 「何から何まで世話になって悪いな。」


 「いいのだよ。私の方こそ感謝しているのだから。では今日はゆっくりと休むといい。」


 「あぁ。そうするよ。」


 ウインズに寝室を用意してもらい、ベッドに横になったタクミ。


 「待ってろよローゼ・・・必ず助けてやるからな。」


 外に輝く満月に決意して目をつぶるタクミであった。


 


 


 




 

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