第980話 120日目 ニール殿下領にて。(雑談。)
「はぁ・・・無事に到着しそうですね。」
武雄が一団の先頭をマイヤーと進みながら遠目に見える町を見て感想を述べる。
「本当に何もなかったですね。
もう少し何かあると思っていたのですけど。」
マイヤーも安堵のため息を付く。
「アズパール王国内なら無制限にやれますから一々後の事を考えなくて良いですものね。」
「・・・いや。そうではないですけど。
鷲の参入もすんなりと行きましたし、ニルデとジルダが面倒を見たいと言ってくれて助かりました。」
「助かりはしましたけどね・・・
情が移ってしまうと向こうの群れに入れる際に泣かれそうで・・・
愛玩ではないのですからある程度の距離を保ちつつ世話をしないといけないと思うんですけどね。」
「・・・ボーナ殿とエンマ殿、フローラ殿がその辺は任せて欲しいと言っていました。
一緒に住むからその辺は言い聞かせると言っていました。」
「3人がそう言っているなら良いです。
別れの辛さも人生には大切な経験でしょうかね。」
「何とも言えませんね。」
マイヤーが難しい顔をさせるのだった。
こっちは幌馬車。
「・・・」
「「・・・」」
獣人のアスセナと鷲2体が見つめ合っている。
「・・・アスセナ。何を見ているの?」
「にらめっこ~。」
ニルデとジルダがアスセナに聞く。
「いや・・・大人しいなぁと。」
アスセナが2人に顔を向ける。
「良い子。」
ジルダが世話をしているからなのか自慢げに言う。
「猛禽類なのに・・・」
アスセナが考えながら鷲を見ている。
「こんなに大人しいのは珍しいですよね。
幌馬車の揺れも気にしていないようですしね。」
エンマが苦笑しながら言ってくる。
「ですよね。
特殊なんでしょうか?」
「同系の鷹を狩りに使うのは見た事がありますから元々大人しいのかもしれませんね。」
「なるほど。」
アスセナが頷く。
「そう言えば、アスセナさんはどういった経緯で奴隷に?」
「商隊に売られたんですよ。
私は陸で奴隷市に行きました。」
「それもそれで大変そうですね。
それで・・・店員をしていたんですよね?」
「ええ。
ファルケ国の東の街の雑貨屋で店員をしていました。
で。ビエラさんの服装等々を見繕った時にキタミザト様に会ったのですけどね。
その時に解放されたらアズパール王国に行ってみようと思っていたんですよ。」
「解放されて良かったですね。」
「気が付いたら足の骨を骨折していて・・・ははは。何事も報告はするべきなんですよね。
ケアをしても治らないからお役御免でした。
娼婦街に売られなくて良かったですよ。」
アスセナが笑い飛ばしてくる。
「・・・気になさっていないのですか?」
「していますよ。
でも娼婦街に売られなくて良かったというのもありますし、自由になれたのは事実ですからね。
店員の時の生活は厳しかったけど死ぬ程でもなかったので、今にして思えば良い経験だったなぁと。
エンマさん達の方が大変だったでしょう?」
「ええ。
いきなり襲われて闘技場で戦う事になって下半身不随ですから・・・
良い経験ではなかったけど・・・結果キタミザト様に拾って頂いて良かったと思います。
運に感謝ですね。」
「そうですね。
エンマさん達は農業をするんですよね。」
「はい。そう言われています。
どんな所が用意されるのかわかりませんが、一生懸命働こうと思っています。」
「私は何をしようかなぁ・・・
そう言えばキタミザト様に事情を言ったら訝しがられるよりも『来たいなら来なさい』とすんなりと受け入れてくれたし・・・他の方々も反論もせずに受け入れてくれたし・・・
ここの人達は何ですかね?
疑わないのですか?」
「さぁ・・・確かに私達もニルデやジルダもすんなりと分け隔てなく受け入れてくれるんですよね。
不思議な人達ですね。
でも厚意に甘えすぎてもダメですから、しっかりしようと思っています。
それにアズパール王国は奴隷が居ないので首輪が目立つだろうと思うんですけど・・・今の所、何も言われたり絡まれたりしないんですよね。」
「不思議な国家ですね。」
「皆活き活きしているし・・・この国は良い国そうですね。」
エンマとアスセナがほんわかと話しているのだった。
最後尾のアンダーセンとブレアとオールストン。
「・・・町や街で何もないな。」
ブレアが呟く。
「あったら困るだろう。
所長が本気で殴り込みにでも行ってみろ・・・
あの裏稼業の比じゃなく潰しにかかると思うぞ?」
アンダーセンがツッコむ。
「・・・所長は仲間想いだからなぁ・・・
マイヤー殿の息子さんの事で裏稼業を脅しに行くなんて・・・自分の組織の幹部の息子だからと言って貴族が前に出るかね?」
オールストンが考えながら言う。
「普通は出ないだろうな。」
「出ないな。」
2人が頷く。
「だよなぁ。
普通の貴族なら関係各所に助力をして貰って解決するんだろうけど・・・なんで所長は自分で動くんだ?」
「その前に誰か所長を止めようとしないのか?」
「誰が止めるんだよ。」
「「・・・アンダーセン?」」
「無理です・・・」
「そう言えばあの裏稼業の時も朝一で『付いてきなさい』としか言われてないし、内容は話しながら決めたし・・・
あれ?アンダーセンに報告に行く暇がなかったぞ?」
「・・・なるほどね。だからマイヤー殿は所長から離れられないのか。」
「あの後所長はさっさと警備局に話に行って局長と話を付けたんだよな。」
「・・・マイヤー殿だけで足りるのか?」
「誰が他に居るんだよ・・・あとは執事さん達に任せるしか・・・」
「いや、あの2名は所長寄りで窘めたりしないと思うんだが・・・」
「さすがに助長はしないだろう・・・たぶん。」
「アンダーセン。どうするよ?」
「・・・研究室が始まれば所長も大人しくなる・・・訳ないよなぁ。」
「増々やりたい事をし始めるだろうが・・・ま。エルヴィス領内なら歯止めが効くだろう。
伯爵も居るわけだし。」
「・・・所長と婚約者とで問題事を起こしている風景しか思いつかないんだが・・・」
「平気だ。所長から作った問題事は今の所ないぞ!
所長は提案や施策をしているに過ぎない!
周りが問題事にしているだけだ!」
「「・・・」」
・・
・
「エルヴィス領赴任が楽しみだなー。」
「「そうだなー。」」
3人とも将来が待ち遠しいのだった
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