第962話 冒険者組合にて。2(武雄の考えとヴィクターの元部下。)
「そうそう。3名とも言っておきますが、貴方達の成果によって今後の奴隷を購入するか決まりますからね。
その辺もしっかりと考えながら仕事をしてください。」
「「「え!?」」」
武雄が何の気なしに言うが3名とも驚く。
「何を驚きますかね?
だってあなた達が良い成績を残し、従順に仕事を熟すのなら奴隷という購入にはなりますが、優秀な人材を雇いたいと思うのは普通ではないでしょうか?
奴隷として苦難を受けている同胞を救えるのは私達ではなく貴方達ですからね?」
「そうなのですか?」
「はい。私はそう考えています。
まぁですが、待遇というか・・・賃金は流石に購入費用を返却しながらなので他の兵士よりかは少ないでしょうけど。
少なくともウィリプ連合国で奴隷をしている事に比べれば雲泥の差なのはわかっていますよ。」
「賃金・・・頂けるのでしょうか?」
テーアが恐る恐る聞いてくる。
「え?仕事をするのです、対価を貰うのは当然でしょう?
何を言っているのですか?」
武雄が不思議そうな顔を向ける。
「いえ・・・それは・・・その通りなのですが・・・私達は奴隷ですし・・・」
「貴方達は奴隷かもしれませんが、アズパール王国の兵士です。賃金はあります。
無ければ私が怒ります。
確かに金銭的には他の兵士達からすれば少し低いでしょうが、1人暮らし出来るだけの費用は・・・出ますかね?」
武雄が小隊の面々に聞く。
「んー・・・たぶん最初は兵舎暮らしになるので貯めるだけの生活でしょうかね。
あ。武器とか防具は自費で買うのでキツキツかも・・・んー・・・
少しずつ貯めて行くしかないでしょうかね。
ある程度年数が経てば、増えますから一人暮らしも可能でしょう。」
ベイノンが言う。
「本当に兵士待遇なのですね・・・」
ファビオが驚きながら呟く。
「ええ。最初からそう言っているのですけど。
それにそもそもその賃金や待遇の基準を作る為に貴方達3名を購入したのです。
真面目に兵役を熟せば問題はないですよ。
でも25年間はしっかりと働いてください。
その後母国に戻るのなら戻るで構いません。
アズパール王国で仕事をしたいならすれば良いです。
敵対的なことをするなら取り締まりの対象ですから覚悟しておいてください。」
「はい・・・」
「奴隷なのにこの好待遇はなんなんだ?・・・」
エットレとファビオが首を傾げながら頷く。
「では、とりあえず。
3名とも25年間兵士として真面目に働く事。
邪な考えを起こしてアズパール王国を揺るがすような事をしない事。
良いですね?」
「「「はい!わかりました。」」」
3名が返事をする。
「さてと。こっちの話はこのぐらいで良いでしょうか。
まずはエットレさんとファビオさんの事ですが、ファロン子爵家の騎士団だったのですね?」
「「はい。」」
「どういう経緯で奴隷に?」
「領内の探・・・巡回中に夕飯を取った後の記憶がないのです。
ファビオはどうだ?」
「私もです。
その後気がついたら船でした。」
「睡眠薬か魔法か・・・迂闊ですね。」
武雄が首を傾げながら言う。
「それは認めます。
そして数人が船に乗っていたのですが、皆別々に買われて行きました。」
武雄は「そういう意味ではないんだけどね」と思いながら聞いている。
「・・・立証する物はありますか?」
「・・・ありません。
身一つですので。」
「ん~・・・
ま、本当だとして、貴方達2名の越境はやはり25年後ですね。
貴方達を奴隷商に売った者が領内に居るし、顔も覚えているでしょう。
なので、貴方達が戻れば自らの不正を隠すためにアズパール王国が誘拐したと騒ぐ可能性があります。
我々は戦争をする気はありません。
悔しいでしょうがほとぼりが冷めるまで時間を置きなさい。
そして退役後にその辺の仕返しの方法は考えなさい。」
「「はい。わかりました。」」
エットレとファビオが頷く。
「テーアさんは魔王国 第4軍先行偵察隊所属・・・
テーアさん。なぜ言いましたか?」
「・・・言えと言われたから・・・というのは建前です。
正確に知っておいた方が私の扱いがしっかりとすると考えたからです。」
「ふむ・・・魔王国がウィリプ連合国に何をするのか・・・
まぁ事前に兵士を流入させている時点で粗方察しは付きますが・・・
魔王国国王陛下はこの作戦をご存じで?」
「はい。陛下は知っております。
また今後の他国の動く方向もご存じです。」
「・・・アズパール王国の動向が?
私達の行動はどこまでわかっていますか?」
「いえ・・・正確にはカトランダ帝国とウィリプ連合国の動きを掴んで動いています。
アズパール王国とは接点がなく・・・それでも陛下はある程度予測していると伝わっています。」
「はぁ・・・ある意味人間種しか居なく奴隷を採用していないという事の利点ですね。
カトランダ帝国とウィリプ連合国はどういう動向なのですか?」
「すみません。第4軍は対ウィリプ連合国に集中している最中で・・・
全体をわかっているのは幹部のみです。
それにカトランダ帝国へは違う軍が担当しています。
ただ兵士を送り込んではいないとは聞いていますが・・・知識面だという噂も。」
「ふむ・・・知識・・・戦争・・・利点・・・新たな事・・・」
武雄が腕を組んで考える。
「・・・自動人形?・・・」
考えていたマイヤーが小声で呟く。
「マイヤーさん。それはカトランダ帝国の最新武器情報でしたね。」
武雄がマイヤーに目を向けて聞いて来る。
「ええ。知り得る情報だとこれでしょうか・・・
でもどういった物かもわからない物でしたよね。」
「確か・・・人間大の人形で無機物で予想価格が金貨1000枚でしたか。」
「「「金貨1000枚!?」」」
その場の全員が驚く。
「所長は熟練兵を増産するという目的自体は正しいと言っていましたよね。」
「ええ。
ですが、移動速度。攻撃力。思考形成。禁忌事項の徹底等々戦場に投入するには達成する項目が多すぎるという見解は示しましたが・・・
魔王国の技術を反映か・・・
3人とも魔王国で自動人形を使っていますか?」
「いえ・・・そのような話は聞いたことがないです。」
「私も。」
「私もです。」
3人とも否定をする。
「・・・魔王国で使わない技術を供与している・・・ふむ・・・」
武雄が眉間に皺を寄せながら考える。
「所長。どう思いますか?」
ベイノンが聞いて来る。
「普通に考えて他者に技術供与をするとは『確立した技術』をする物です。
これは自分の持っている技術より下の技術を供与する事で自らの優位を保つ狙いがあるのですが、魔王国では使われていない技術となると・・・何かしら失敗したか問題がある技術となるはずです。
それを他国に?・・・実験場にするつもりですかね?」
「所長。自動人形を我々との戦場に出されるのはマズいですね。
巻き込まれる可能性があります。」
アンダーセンが言ってくる。
「ええ。カトランダ帝国の技術者が魔王国で発覚していた問題を解決出来ていれば良いのですけどね。
万が一、暴走をされると厄介です。
そんな事でこちらが被害を被るのは割りに合わないでしょう。
向こうで責任を持って自分達のみで被害を被って欲しい物ですね。」
武雄が頷くのだった。
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