第954話 107日目 挙式の段取り。(北町の局内会議。)
エルヴィス伯爵邸の客間。
「・・・」
アリスは目の前に積まれた書類をジト目で睨んでいた。
「こんなにあるんだ。」
ジェシーが麦茶を飲みながら朝食後のティータイムを満喫している。
「ジェシーを娶った時はもう少し多かったな。」
ゴドウィン伯爵が懐かしい物を見るような目をしている。
「この書類全部に目を通して貰います。」
フレデリックがアリスの目の前に座り言ってくる。
「!・・・!?」
アリスは顔を上げ左右を見るがお目当ての者は居ない。
「ヴィクターは整備局に行って業者と研究所の間取りについての打ち合わせをしています。
ジーナはこの屋敷のメイド達に土産を渡している最中です。
その後は試験小隊の方々に今後の話を聞きに行って貰う事になっています。」
「・・・」
アリスは再びジト目で書類を見る。
朝のアリスの不用意な一言から始まった。
「タケオ様は挙式の用意は私が全部段取りしておいてと言うんです。
どう思いますか?フレデリック。」
「真っ当ですね。時間もありませんから今日から始めましょう。」
以下、すぐに準備され食後から話し合いになっていた。
別室でしても良かったのかもしれないが、ジェシーの意見も聞いてみようと客間で開催となっていた。
「はぁ・・・えーっと・・・
まずは何をするのでしょうか。」
アリスが諦めたように一番上の書類を取る。
「場所はこの屋敷で問題はないと考えます。料理も何とかなるでしょう。
まずは招待をする方々の人数ですね。
あ。街の組合の数はわかっていますので他家や特別に招待状をお送りする数を決めてください。
あとは結婚報告を送る方々の数ですね。
それと挙式に来て頂いた方々へのお土産のランクを決めてください。」
「・・・いつまででしょうか。」
「・・・明日までに。」
「・・・」
アリスは口を開けて固まる。
「あら?これは大変そうね。」
「まぁ・・・3月の挙式だからな。
手配等々もあるから今が期日だろうな。」
ジェシーは楽しそうにゴドウィン伯爵はため息交じりに言う。
「・・・えーっと・・・来て欲しい方にだと・・・
レイラお姉様の所はエリカさんが来てくれると言っていたし・・・ジェシーお姉様は来ないと言ったけど名代くらいは来るのか・・・
あ。でも・・・んー・・・
うん!招待状は3家で!
レイラお姉様とジェシーお姉様とテンプル伯爵の所だけで平気です!」
「わかりました。
ならその3家の他はタケオ様関連の工房の方々向けにします。」
「はい・・・お願いします・・・」
フレデリックが紙に書き、アリスはぎこちなく頷く。
「・・・あの。フレデリック。
一応念の為に聞きたいんだけど・・・挙式の予定はいつ?」
「予定としては挙式3月18日で19日が特産品祭り、スミス様の出立が3月20日です。」
「今日は2月12日・・・タケオ様。間に合うかしら。」
「いざとなれば王都からは単独で戻ってもらうようですが・・・
一応連絡はする予定です。」
「連絡?」
「はい。彩雲様が動きます。
定期連絡が数日おきに出来ますのである程度の準備は出来るでしょう。」
「そう・・・なのね。」
アリスが改めて強行日程なのを痛感する。
「では次は土産のランク決めですね。
一応こちらで3種類用意しました。
中身を見てください。」
フレデリックが言うと客間の扉が開き執事達が入って来る。
「・・・あ・・・」
フレデリックが用意周到に待ち構えていたとアリスはこの時本気で思わされる。
「へぇ~・・・色々あるわね。」
ジェシーが楽しそうに中身を見るのだった。
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「皆。戻ったぞ。」
「局長。おかえりなさいませ。」
北町局長のランドルが北町の庁舎に入っていくと皆が立って出迎えて来る。
「はぁ・・・安心する。」
ランドルの第一声がこれだ。
「局長。お疲れ様です。
昨日着かれたのですか?」
「ああ。夕方な。
それにしても・・・はは。忙しくなったものだな。」
ランドルが事務所内を見回して活気がある事に笑う。
「はい。
今回の局長会議の報告会をされますか?
各部課長は揃っています。」
「そうだな・・・うん。すぐにしようか。」
・・
・
ランドルが局長会議の内容を説明する。
皆は頷いたり考えたりしながらメモを取っていく。
「以上だが・・・
中央からの指示としては想定の範囲内だな。」
「はい。ライ麦の増産計画は局長が向かわれている間に出来ています。
こちらになります。」
担当課長が出席者に資料を渡す。
「ふむ・・・
前に作った最初の起案より少ないか?」
ランドルが資料の1枚目を見て眉間に皺を寄せている。
「はい。
実はここ数年で人口があまり伸びていない事が原因です。
特に生産人口の若い方が町から中央に移り住んでいるという事例が結構あり、戻って来ていないとの調査結果もあります。」
「まぁ・・・つい最近までなかなか発展の糸口がなかったからなぁ・・・
若者は中央に行って兵士になる事も多いか。」
ランドルの言葉に皆が頷く。
「それと次を見ていただくと各村の人口比率と農地の余裕率になります。」
「「ん~・・・」」
その場の面々が難しい顔をさせる。
「北町が管轄している村をさらに南北と分けた場合、北側の農地にはライ麦生産をする農地自体に余裕はあるのですが、そこの若者の数が少ないのです。
逆に南側ではライ麦用の農地は新たに開拓する必要が出て来ます。」
「なるほどな。
となると・・・北側の村からライ麦の増産を働きかけて行った方が生産という面だけで見れば無理がないという事か?」
「はい。ですが若者が少ない為、難しいのは確かかと。
むしろ南側では開拓をすれば今居る若者でも収入増が少し見込めるという希望の下に増産を積極的に行うのではないかと考えています。」
「北側と南側で極端な収入の差を出すべきではないが・・・んー・・・難しいな。」
「局長。一旦他の話を聞きましょう。
これはすぐに決められない話になります。」
他の者が意見してくる。
「そうだな。
ご苦労だった。
他だと。あぁ特産品祭りの準備はどうだ?」
「それなら順調ですね。
今お揃いの上着の作成に入っています。」
「ん?お揃い?・・・聞いていないが?」
「では!説明いたします!
今回の特産品祭りでは目立つことが重要だと思っています!」
別の担当が立ち上がり楽しそうに説明を始めるのだった。
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