第950話 保護施設からの帰路。(反省会。)
武雄とマイヤーが宿に向かって歩いていた。
「所長。よろしかったのですか?」
「・・・ラーラと言いましたか。
彼女は何だか・・・そう・・・こっちの意図を知っている感じでしたね。
ん?・・・マイヤーさん。また個室に行きましょう。」
武雄が胸ポケットを触り話すのだった。
・・
・
昼食を取ったカフェにて。
さっきと同じ個室に武雄達は居た。
「主。あれユウギリと同じエルダームーンスライムです。」
「ドゥルジは精霊ですね。
確か不浄の精霊でしたか。
誰かに仕えるとは思いませんでしたが。」
チビッ子2名が正体をバラす。
「・・・今頃、分裂させた朝霧(緑)は吸収されているでしょうね。」
武雄が考えながら言う。
「向こうが上手でしたね。」
マイヤーが考えながら言ってくる。
「事前準備の段階で私達は負けていたという事でしょう。
問題はどこから見られていたのでしょうかね?
道中の各所で朝霧達は放っていましたが・・・」
「そんなに広範囲でするでしょうか?」
「使節団か旅人かをどうやって見分けるのかという問題が発生しますから・・・闘技場の事も知っていたとなると最低でも昨日からは見られていたとなりますかね。
いや。もしかすると闘技場に常駐している?
・・・まぁ今となってはわからないですね。」
武雄がため息をつく。
「所長。わざわざスライムを欲しがる理由はなんでしょうか。」
「・・・昨日の訪問時点でパナが何かしらの精霊とわかって知りたかったか。
基になったエルダームーンスライムである彩雲達の情報を知りたかったのか・・・
パナの場合は能力は見せてはいないと思うんですよね。朝霧は皆が寝てから夜な夜な残飯を食べさせていましたし・・・あ。昨日一家相手に診断をさせましたか。
朝霧(緑)は見ていたかもしれませんか。
朝霧(緑)の基の情報は取り込まれたらわかってしまうでしょうね。
こちらの情報を与えすぎたかもしれないですね。」
「どちらにしても次をどうするのかですね。」
「ええ。少なくとも彼女たちはこっちに敵意はなさそうでしたね。
ですが彼女たちは別に何か欲しいという事でもなさそうでしたね。」
「はい。
どちらかと言えばあの地で表立っての介入を拒んでいるようでありましたね。
すんなりと引き渡した事を考えるとこちらからの要求には拒否では無く従順に従い揉め事を避けようとしていたと捉えられるかと。
他国からの要求に拒否を示せば何かしら介入してくると思ったのでしょうか。」
「エルダームーンスライムがどうして保護施設に居るか。
まぁいろんな意味で食料が多いというのもありますし、滅多に高位の者が来ないので秘密裏に住めるというのもあるのでしょうね。
それに・・・」
「あそこの所長。やつれていましたね。」
「服と体型があそこまで不釣り合いという事は最近急激に体重が減ったのでしょうね。
ですが、そんな事はスライムでは出来ないと思うんですよね。
となると。」
「精霊でしょうね。
パナ殿。あの精霊はどんな精霊なのですか?」
「ドゥルジはゾロアスター教の悪神の一人ですね。
世界に不浄をまき散らすのが使命です。
ハエを媒介とした伝染病を広めると思いますが・・・彼女が居て何でこの街が無事なのか不思議です。」
「ハエ・・・伝染病・・・
私のイメージだと伝染病は蚊が媒介すると思っているのですが、違いますか?」
「タケオ。蚊はデング熱や日本脳炎等のウィルスを刺す事による血の媒介で感染させますが、ハエは食べ物を媒介させ大腸菌や赤痢菌、ポリオウィルスを消化器官まで到達させて感染をします。」
「ポリオウィルス?」
武雄が首を捻る。
「物凄く熱が出て物凄く下す。」
「・・・了解です。
ならそれをあの所長の家族に向けて脅したという所なのでしょうね。
予言をしてその通りに家族が倒れ症状が現れる・・最強の脅しですね。
それにしても保護施設の中の者達は寝ていただけのようでしたが・・・んー・・・大人しく寝ていたというより寝かされていたように見えたんですよね。
パナの言う通りならトイレに駆け込む者が多いような気がするのですが。
それに歩いている者達もいませんでしたね。そう。あれは物凄く違和感がある場所でしたね。」
「・・・確か症例は少ないですが、ポリオウィルスは中枢神経系に侵入し、脳幹や大脳皮質まで達すると麻痺症状が出る事もあるそうです。」
パナが考えながら言う。
「・・・意図的に中枢神経に注入する事は出来ると思いますか?」
武雄が真面目な顔でパナに聞く。
「容易いとは言い難いですが、ドゥルジなら高確率で成し得ても不思議ではないですね。」
「ならあの施設の大半の者がポリオウィルスに感染している。
だが、ドゥルジの力で感染を特定の者に限定していると考えても良いかもしれませんね。」
「タケオ。全身の麻痺もそうですが、高熱も出ているので本人達はボーっとしている。
夢の中のような感覚なのかもしれません。」
「・・・あのラーラは言っていましたね。
楽園だと。」
「戦闘で傷つき、街から見捨てれられた者達が集う場所・・・余生は夢の中で過ごす事が楽園ですか。
悲しい現実ではありますが・・・本人にとってはそれも良いと考える者も居るのかもしれませんね。」
武雄の言葉にマイヤーが難しい顔をさせるのだった。
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保護施設の一室。
「主。あの者達はどうしますか?」
ドゥルジがラーラに聞く。
「放置。」
「わかりました。
ですが、よろしいのですか?」
「良いも悪いもあの使節団はアズパール王国の者。
住んでいるのは魔王国に面した所・・・私とは関係がない。
むしろあの使節団の方は同胞に安住の地を与えた。
手出し無用。」
「はい。
向こうは何名が居るのでしょうか。」
「緑スライムの記憶では・・・鳥型から産み出されたんですね。
あと数体の人型が居る?
ん~・・・肝心の精霊がわかりませんね。
大半が音がないんですけど・・・なぜ?」
「主。ビンです。」
ドゥルジの言葉にラーラがハッとする。
「んんっ・・・まぁ。仕方がないでしょう。
それにしてもやはりスライム程度では多くの情報は維持出来ないですね。
無駄な事も覚えているし・・・」
「エルダースライムであれば多くの情報がありそうですが。」
「エルダーは早々出ないわ。
エルダームーンスライムが囲うからね。
私だって数体は囲っているし。」
「そうですね。
それにしても私が実体化して約1か月。
この場所は闘技場の捨てられる者達だけでなく街中からも身寄りがなく余命いくばくもない者達が捨てられていますが・・・」
「私が身を隠すのにちょうど良いでしょう。
それにドゥルジも実体化してくれた。」
「まぁ・・・人々に苦痛と恐怖を与えるのが役目なんですが・・・
この施設の者達は酷かった・・・ついつい施しをしてしまいましたね。
私は私の眷属達を使えて能力を使わせてくれるのでまぁわりと良い職場なのですが。」
「・・・この1か月でこの施設は私の物になった。
毎日のように者達が捨てられ死んでいく。
・・・この地を私達スライムの安住の地に出来るでしょうかね?」
「さて・・・主の為に努力はしましょう
・・・使節団の方はどうなのですか?」
「あっちはあの使節団の方が土地を用意して仕事をこなせば保護するそうです。
・・・でも良かった。」
「ん?主何がですか?」
「我らの安住の地がここだけでなく、他国にも出来るのです。
我らは最弱のスライム。安住の地が得られるのはどれだけありがたい事か。
この地の者達は魔物は見下し支配しようとするが、向こうは対等かちょっと下の部下の扱い・・・少なくとも無下には扱っていないようです。」
「主。羨ましいですか?」
「羨ましいです。
ですが、私はこの地にスライムの支配地域を作る気で貴女と契約しました。
ここまで何百年かかった事か。
何としてもこの地にスライムが安心して住める場所を作ります。」
「はい。主。
で・・・部下の作成はどうですか?」
「・・・使節団の方と同じ方法でですが、今はエルダースライムに人間種の亡骸を取り込ませた所です。
数十年もエルダースライムのままの者ですから進化は早いと思うのですが・・・しばしはこのままです。
あの人間の所長も便宜を図ってあげないといけないでしょうね。」
「そうですね。
もう少し権力を持った協力者を作らないといけませんね。」
「ん~・・・その辺の知識は難しいですね。
森から見ているだけではわかりません。」
「はい。なので私が居ます。
永遠を生きる主よ。共に勢力を拡大させていきましょう。」
「・・・勢力拡大というよりも隠密に穏便に安心して住める土地が欲しいのですけどね。」
ラーラがため息を付くのだった。
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