第949話 保護施設。(違和感バリバリ。)
武雄達は保護施設に予約の通り、午後一で受付に行った。
直ぐに所長室に通されサイズが合わない服を着せられた初老の男性と会談を行っていた。
「使節団殿。申し入れされた引き取りに付いては3体までなら私の裁量で出来ますのでお選びください。
後程、案内をお付けしますので施設中をご覧になってください。
あ。それと申し訳ありませんが、私は所用で外出してしまいますので、見学後の挨拶が不要とさせていただきたいです。」
「いえ。いきなり訪問をしたのはこちらです。
お時間を頂きありとうございました。」
「いえ。使節団殿の慈悲の心に感謝いたします。
申し訳ないですが、私はこれにて。」
所長が武雄達を置いて退出していく。
「・・・」
「・・・」
武雄とマイヤーが目線を合わせるが何も言わない。
すると。扉がノックされ女性看守が入って来る。
「使節団殿。案内をさせて頂きます。」
「はい。よろしくお願いいたします。」
武雄とマイヤーが席を立つのだった。
・・
・
この施設は各建物毎に意味があるようで建物間は屋根付きの廊下で繋がっている。
武雄達は今は所長室から別の建物へ行く渡り廊下を歩いている。
もちろん先導は先ほどの女性看守だ。
念のために武雄は自身とマイヤーに10分毎にケア×20をかけている。
そして武雄は頻繁に周囲を見ている。
おかしい。違和感というか異質感というかこの場所は何かがおかしいのだ。
何がおかしいかはわからない。
武雄の頭の端でモヤモヤが募るのだった。
「こちらが食堂です。」
女性看守が廊下側から扉を開け中を見せる。
誰もいない。
「今は昼食は終わったのですか?」
「いえ。うちは朝夕の2回の食事を出しています。」
「そうなのですか。」
「ええ。これでも何とか改善出来た方なんですよ。
前は酷くて。」
・・
・
「こちらが寝床です。
こちらは廊下からのみでお願いします。」
武雄が窓から覗くが全員が寝ていた。
「一日の大半を寝て過ごしています。」
「大半ですか。」
「ええ。ここに来るのは体力、気力が尽きた者達です。
余生の場と考えて頂ければ良いかと。」
「そうですか。」
・・
・
「すみません。あの煙突から煙が出ている所は?」
武雄が移動中の渡り廊下から見える建物を見ながら聞く。
「焼き場です。」
「・・・そうですか。」
武雄は焼き場に向け黙祷をする。
「不思議な方ですね。」
女性看守が言う。
「こういう者も居て良いとは思っています。
してはいけませんでしたか?」
「いえ。死者に対しての追悼をするのは生者としての尊厳を守る重要な行いでしょう。
この国の者ももう少しその辺をしっかりとして欲しい物です。」
「・・・」
武雄は何も言わずに焼き場を見ている。
「次に行きましょう。」
女性看守が歩き出すのだった。
・・
・
女性看守に建物の扉前に連れて来られる。
「ここでお引き渡しをいたします。
所長より3体までの綺麗な亡骸をお渡しするように仰せつかっております。」
「よろしくお願いします。」
武雄が礼をする。
「では。中にどうぞ。」
女性看守が扉を開ける。
中は20畳ほどの広さで薄暗く3つの机に少女の遺体が横たわっていた。
そして奥の窓際にワンピースを着たこれまた少女が椅子に座って待っている。
「ようこそ。使節団殿。
こちらに。」
「失礼します。」
少女に促され武雄達が入室し、少女の前に立つ。
「本当は立ってお出迎えをしたかったのですが、足が・・・
座っての挨拶をお許しください。」
「いえ。こちらこそ無理を言って申し訳ありません。」
少女は銀髪で銀の瞳を持つ少女だった。
そして武雄が軽く礼をする。
「私の名はラーラ。
この施設の統治者です。」
「・・・はい。」
武雄が頷く。
「あ。ドゥルジ。ご苦労様。」
「いえ。主。勿体ないお言葉です。」
ドゥルジと呼ばれた女性看守がラーラの横にやって来る。
「使節団殿。
お時間は無いでしょうから単刀直入に聞きます。
貴方はなぜ3体の人間の形態の死体が欲しいのですか?」
ラーラが手をお腹の辺りで組み、真顔で聞いて来る。
「・・・1つは不憫だと思ったからです。」
「それは貴方がエルフを買った理由ですね。
対外的にはそれでも良いでしょう。
ですが、この場では相応しい言葉ではありません。」
ラーラが目を細める。
「・・・現在私が所属しているアズパール王国の東北部の地は魔王国と面しています。
対している魔王国の領主との戦力差が激しい為、万が一を期して情報を正確に早く集められる方法を模索しています。」
「それが3体の死体だと?」
「はい。
これはまだ正確な所ではありませんが、スライムが進化した際に取り込んだ死体になるという話があります。
数年。数十年いや数百年かかるかもしれません。
ですが、スライムと共生をし、行く行くは人間の姿形になれる者を森に潜入させることが出来たなら相手の行動がわかった際に直接街中を通って迅速な報告が出来るのではないかと考えています。」
「・・・壮大ですね。
貴方が言ったようにすぐの成果はないと思いますが。」
「すぐでなくても子の代、孫の代で領民を守れる有効な手段が手に入る可能性があるのなら私は手を打っておくべきだと思います。」
「その為に貴方は死体漁りをしたという汚名を着るのですか?」
「スライムに死体を与える事は私の独断であり、秘密裏に実施します。
国王陛下や領主の知らない所で行いますので死体を譲られた事についてはこの場の者しか知り得ない事と考えますが。」
武雄が真面目な顔をして答える。
「・・・私は何も貴方を脅すつもりはありません。
そうですか。スライムを。
ちなみどうやってスライムを飼いならすのですか?」
「・・・実際に今、持っているのですが。」
武雄が朝霧(緑)が入った小瓶を出し蓋を開けると朝霧(緑)が武雄の掌で大人しくしている。
「まぁ。準備は出来ているという事ですね。」
ラーラが頷く。
「領地に帰った際にある程度研究をしてからこの3体を使わせて頂きたいと思います。
もちろん。供養塔を事前に作り霊を慰めさせては頂きますが。」
「・・・死姦するのだと思っていましたが。」
ラーラが目線を下げて言う。
「そんな変な性癖は持ち合わしてはおりません。
ですが、亡骸を利用するという事は事実です。
秘密裏に研究をするにしても悪しき事だというのは理解しているつもりです。」
武雄が難しい顔をさせる。
「・・・その苦悩を持つのなら良いでしょう。
当方はこの地で揉め事を起こされ我らの楽園が閉鎖される事態は避けたいと考えています。
なので貴方の申し出も受けましょう。
ですが、引き渡すのに条件があります。」
「出来る事でしたら。」
「その緑スライムと引き換えでどうでしょうか。」
ラーラがにっこりとほほ笑むのだった。
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