第948話 精霊の試合だ。4(反省会。)
エルヴィス邸の客間にて。
昼食には遅く夕食には早いので簡単な物を摘まみながら先ほどの戦いを振り返っていた。
「ふむ・・・マリは余裕がなかったというのじゃな?」
「余裕というより先読みをしながらですから外の様子を無視していたというのが正確な所。
先の先・・・この攻撃の次の攻撃、どういった受けをされるか、反撃は何をしてくるのか。
それを同時に考えながらの戦いでしたので集中していた。」
「それは何と言うか達人域なのだろうな。
あの攻防をしながらそこまで考えていたとは。」
「私達の配下達も武芸に打ち込むとそうなるのかしら?」
ゴドウィン伯爵とジェシーがため息を漏らす。
「でもそれって戦バカと言われる人達の特徴ですよね。」
パラスがマリを見ながら言う。
「某とニオとテトは戦バカではないが。
概ねそうだな。集中し過ぎるという点で戦場とかでは使えないだろう。」
マリが頷く。
「難しい物ね。
で。マリ。今回の見世物で槍の評価が上がると思う?」
ジェシーがマリに聞く。
「現状よりかは研究を始める所が増えると思われるが、出回っているのが・・・試行錯誤は必要だろう。」
マリが目線を落とす。
「ふむ。フレデリック。」
「はい。
マリ殿。実は槍用の木材の発注は先ほどの間にヴィクターに指示をしております。
魔王国から数十本を当面は輸入し、製作の検討をしようと思います。」
「わかりました。
まだ槍についても始まったばかりという事。」
「ええ。これからになります。
それに伴ってある程度の槍の型を絵のような物で残せないでしょうか?」
「ふむ・・・ニオと相談して何か残しましょう。」
「うむ。
槍関係は型も物も始まったばかりじゃ。
根付くのも少し時間がかかるだろうの。
あまり気負わずにやっていくしかないのじゃ。
ジーナ。今日の見学はどうであったかの?」
「はい。
マリ。あの最初の型見せの2つ目と4つ目が私用、1つ目と3つ目がパラス用で良いのでしょうか?」
「その認識で結構。
パラスに関しては最速の突きと受け流しからの2次攻撃の方法をまず教える。
ジーナに関しては相手への牽制をしてからの袈裟斬りと受け流しからの致命傷を与える方法を教える事になる。
この2つを知っておけば同程度の者から攻撃を受けても逃げることが出来るだろう。
主と話し日程が決まってから剣術の基礎から始めるが、この2つが出来るようにする事が目標になる。」
「「わかりました。」」
ジーナとパラスが返事をするのだった。
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こっちはテイラーの魔法具商店。
「ふん。ふん。ふん。」
チビテトが腕立て伏せをしている。
「我の前でするな。」
チビニオが呆れながらお茶を飲んでいる。
「ははは。
2人とも頑張ったし、お互いに決着は付かなかったものね。」
鈴音がテトの横でお茶を飲みながら言う。
「ふん。ふん。ふん。
マリにもニオにも引き分けだった・・・完全に運動不足だったわ!」
「いや。テト。
我ら精霊の身体能力なんて多少の差はあってもほとんど同等に作られていると思うんだがな。
それにテトは魔法戦もこなすだろう?
我と摩利支天殿では魔法戦は出来ん、そう思えばテトの方が上だろう。」
「組手でも負けたくないの!」
「はぁ・・・我が儘だな。」
ニオが呆れる。
「で。スズネさんの話では槍の試験製作が始まるんだね?」
「はい。
親方達は今、工房に籠って槍の先の形状や柄の作り方の打ち合わせ中です。
ニオ。槍の先はどういう形が良いの?
一応提案はしてみるけど。」
「我は十文字のこの様な形状が良いと思うが・・・
用途にもよるだろうな。
対人、対各種魔物、対特殊魔物 等々。」
ニオがその場にあった紙に十文字槍を書く。
「特殊魔物?」
「リザードドラゴンやドラゴン用だな。
外皮が固い場合は鋭利にするのが良いとは限らない。
槍斧・・・ハルバードという線もあり得るか。」
「槍斧・・・槍の先に斧を付けるんだったかな。
でも槍の先の重量がかかって柄のしなりが激しくて、柄も鉄にしたら総重量が大変な事になって戦争では使えないとか言われているけど。
個人用かもね。」
テイラーが苦笑する。
「そうともいうな。
それに柄の材質も大事だが・・・槍斧も十文字も欠点と言えば薙ぎ払うのに向きがあるという事だろうな。
その点では真っ直ぐな直槍が扱いやすくはあるな。」
「ん~・・・まずは直槍から研究した方が良いんだね。」
「今日。ニオが解説の時に使っていたのと同等なら良いのかな?」
鈴音が考える。
「いきなりあの域に達せるなら凄腕集団という事だろう。
あの槍もなかなかの出来だった。
乱打の際に狙った所に上がり、狙った所に落せるのだからな。
あのしなりが保てるような柄が量産出来ればそれだけで槍の製作だけで食べていけるだろう。
それに剣に切りかかれた際に業物以外なら耐えられるような強度も必要だな。
まぁなんにせよ。いろいろ作らないといけないだろう。」
ニオが「精進が大事だ」と笑う。
「ん~・・・柄のしなりと強度かぁ・・・・」
鈴音はそう言いながら「ん?昔の刀の鞘とか槍の柄って漆を塗るんだっけ?あれは防腐・防虫用なんだっけかな?そういえば木には水が染み込むんだよね。水気が入らないように漆塗りなんだっけ・・・あれ?なら木を浸ければ水が染み込むという事?あれれ?もし木を朝霧(黒)の体液に浸けてオーブンで焼いたら鉄を巻いた感じになるのかな?ん?違うか?」鈴音が何やら変な事を考え始めるのだった。
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