第947話 精霊の試合だ。3(槍の講義と模擬戦。)
マリとニオが槍の解説を始めていた。
マリとニオの前には木で十字の作られた置台とその上にフルプレートが設置された模擬用の人形が数体設置されている。
ニオの手には先ほどの日本号と違い、普通の槍があった。
日本号はコノハに返却済み。代わりに無名だがしっかりとした槍先と柄がある一般的な槍を借りていた。
「槍の最大の利点はその長さにあります。
これは相手との間合いを取るという意味もありますが、距離が長くなる為、振り下ろすもしくは薙ぎ払う際に剣以上の威力を相手に与えられるからです。
では。ニオ。
突き、払い、振り下ろしを。」
マリの言葉にニオが頷き、前にでる。
「せい!せい!せい!」
中段から構え、突き、払い、振り下ろしを行った。
模擬用の人形の当たった場所は大きく凹み見るも無残な形になっていた。
「「「おおおお!」」」
周囲から歓声が上がる。
「また1対1の際の槍の凶暴さをお見せしましょう。
ニオ。上段からの乱打。」
マリがそう言うとニオが上段に構え刃先を少し下にし構える。
と次の瞬間、槍先を上げたと思ったら模擬用の人形の左上から当て、当てた反動を利用し上に上げすぐに打ち下ろすさらに当たった反動を利用し・・・連打の早業。
「せい!」
ニオが最後の一打として横に薙ぎ払うとフルプレートが横に飛んでいく。
「「「・・・」」」
その場の全員が何も言えないで見ている。
「これが槍のしなりを利用した乱打になります。」
「ううむ・・・これほどとはの・・・」
「昨日説明された強度としなりが必要とはこういう攻撃の為なのですか・・・いや。この動きは我らが持つ槍では出来ないでしょう・・・
マリが眉をひそめた理由がわかりますね。」
両伯爵が唸る。
「ヴィクター。」
「はい。フレデリック様。」
「至急。シモーナ様宛に商隊を通して槍用の木材の発注をしなさい。
本数は50本。長さは加工も含め4mです。
まずは騎士団か兵士の中で1小隊で試験をします。
良い結果が出れば追加発注もします。
それとハワース商会に行き国中から固くしなりのある槍用の木材の調達を依頼しなさい。
まずは試験用として木材を丸ごと20本程度で良いでしょう。
加工はハワース商会か武器関係の工房にさせます。」
「はい。
では。すぐに動きます。」
ヴィクターが会場を後に・・・いや、モニカ達が居る方に向かう。
「・・・アナタ。私達はどうする?」
「帰ってからだな。
今すぐは動けないだろう。
ある意味エルヴィス家の結果を見てからでも良いと思っている。」
「わかったわ。」
ゴドウィン伯爵とジェシーが頷く。
「最後に防衛戦での槍の防御方法ですが。」
マリがそう言うとステノ技研の面々がニオと模擬用の人形の間に陣取り1m×1.5mの盾を持って横並びで地面に立て身を屈める。
「この状態からの防御というのは。
上方からの振り落としになります。」
ニオは振り落とし、模擬用の人形に当て真上に上げまた振り下ろすを繰り返す。
模擬用の人形の頭や肩を中心に当たった場所は大きく凹み見るも無残な形になっていた。
「ううむ・・・これは槍の性能じゃの。」
「1対1でもそうですが、防御の際でも槍のしなりを活かすのですね。
素材選びが大変そうですが・・・ん~・・・」
両伯爵が考え込む。
「・・・アナタ。」
「まずは戻ってから現状の槍を使って今の動きが出来るのかの訓練が必要だ。
今後の慣例の戦争では槍の使い方を学ばないと危ういかもしれないな。」
ジェシーとゴドウィン伯爵がひそひそ話をしているのだった。
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槍の紹介を終えた後、本日のメインイベントである模擬戦の戦いになった。
「では・・・模擬戦一本目開始!」
審判のマリが両者の中間で宣言する。
ニオは槍と同じ長さの木棒を持ち中段に構える、テトはロングソード用の木剣を左に構えていた。
先に動いたのはテト。
一気にニオに詰め寄る為に剣を左横に構えたまま走り込んでくる。
ニオは瞬時に上段に構えを変え、テトが振って来るのを待つ。
テトが大きく踏み込み横に薙ぎ払う為に動作を始めるとニオが上段のまま少し屈み棒先をテトの方の地面に付けテトの薙ぎ払いを柄の部分に走らせる。
そして柄の中間に来た際に棒の先を上げその勢いのまま剣を反対側に流すとともにテト側に体を入れてくる。
「チッ!」
テトは自分の意思で前に飛び込み、飛び込み前転をし、すぐにニオと距離を取る。
実はニオがテト側に体を入れた際に足払いをしていたが、テトが自ら飛び込んで行ったので足払いは空振りに終わっていた。
またテトも剣を流されての強引な飛び込みをして、態勢が乱れていた為、大きくニオと距離を取った。
「「「おおおお!」」」
周囲から歓声が上がる。
・・
・
その後もマリ対ニオ。マリ対テトの模擬戦をしていた。
その際の獲物は木剣と木棒。
勝敗については3試合とも相打ち状態で終わっていた。
「うむ!3人とも素晴らしかったの!
では。今日の精霊同士の模擬戦を参考に皆も精進するように!」
「「「はっ!」」」
エルヴィス爺さんの言葉に兵士や騎士団が返事をする。
「以上を持って今日の模擬戦は終わりです。
解散!」
フレデリックがそう言うと皆がバラバラと城門外の演習場から退去していく。
「ふぅ。見ごたえがあったのぉ。」
「いや。これほどとは。
やはり精霊戦というのは凄いですね。
模擬戦前は槍の有益と教えておいて、ニオ対テト。ニオ対マリでは一進一退。」
エルヴィス爺さんとゴドウィン伯爵が内容の濃い試合に満足している。
「でもあの2名だったからこそニオに肉薄出来たんじゃないの?
あれが一般兵の槍使いと一般兵の剣使いでは結果は違ったはずよ?
乱打は良い攻撃ね。」
「そうですね。
でもニオが繰り出した乱打が出来る一般兵を作るのも至難の業じゃないでしょうか?
出来ても3振りとかが限度かと・・・ニオは10振り以上していましたよ?」
ジェシーの言葉にアリスが答える。
「それを受け切るテトは異常だな。」
「あれは凄かったわよね。
四方八方からくる槍に全て剣を合わせて行くんだものね!」
ゴドウィン伯爵が呆れる横でジェシーが楽しそうに言う。
「皆さま。屋敷に戻りましょう。
お茶の用意と昼食の用意が出来ています。」
「うむ。では移動しようかの。
もうこんな時間か。」
エルヴィス爺さんが懐中時計を見て結構時間が過ぎている事を確認する。
「楽しかったね~。」
「異常な3人が居るのはわかりました。」
パラスがジーナに言うとジーナが疲れた顔をさせながら呟くのだった。
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