第935話 裏路地から匂いがする。4(出立。)
「キタミザト殿。
用意が終わりましたよ。」
アナベルに連れられて先ほどまで居たニルデともう一人の女の子が家から出て来る。
犬耳と尻尾がある女の子なのだか、これがジルダだろう。
この子も首輪はなかった。
「「これからよろしくお願いします。」」
2人が頭を下げる。
「・・・荷物は何もないのですね?」
「ええ。持ち物はないですね。
すみませんが、用立てて貰えますか?」
「構いません。」
「あ。これは少しですが残っていたタンポポ茶です。」
「ありがとうございます。
では。行きますか?」
「婆ちゃん!行ってきます!」
「婆ちゃん!頑張るから!」
ジルダとニルデがアナベルに手を振りながら来た時に案内した男性を先頭に武雄達と一緒に歩き出す。
アナベルはにこやかに手を振って送り出すのだった。
・・
・
「あ。」
武雄が不意に止まる。
「所長?」
「トイレ借りてきます。」
「婆ちゃんとの感動の別れが・・・」
「台無しー。」
ニルデとジルダがジト目で見る。
「ちょーっと行ってきます。」
と武雄が離れる。
・・
・
「戻って来たのですか?」
アナベルが出迎えた時の席に座り武雄を苦笑しながら再び出迎える。
「ええ。トイレを。」
「・・・奥ですよ。」
「失礼します。」
武雄が奥に行く。
とすぐに戻ってくる。
「失礼しました。」
「キタミザト殿。よろしくお願いします。」
「はい。しっかりと仕事をして貰います。
では。」
武雄が会釈をしながら退出していった。
「早かったですね・・・」
アナベルが席を立ちトイレに向かう。
だがその途中に置いた記憶がない革袋が置いてあった。
中を確認すると金貨100枚が入っている。
「はは。粋なのか恥ずかしがり屋なのか・・・
ありがたく使わせて貰います。」
アナベルが玄関に向けてお辞儀をするのだった。
武雄は皆と合流を済ませ路地の出口で武器を腰に付けていた。
「すっきりです。」
「そんな報告は要りません。
では。所長どうしますか?」
「宿に直行ですかね。
その後今後の予定を決めないと・・・人員多くなったし。」
「ですね。
では。帰りましょうか?」
「あ!」
ビエラが手を上げて答えるのだった。
------------------------
アナベルの家にて。
「失礼します。」
男性2名が玄関から入って来る。
「ん?・・・貴方は?」
「セイジョウと言います。
こっちは私の精霊のバロール。」
「よろしく。」
「で?キタミザト殿の連れというわけではなさそうですね。」
「大統領府付き。」
「私の命もここまでですか。」
アナベルが静かに覚悟を決める。
「いえ。別にどうのこうのしませんけどね。
先の男性達と何を話していたんですか?
それを知りたいんです。」
「え?・・・いや。普通にお茶を出して雑談をしただけですが・・・
あ、養女をあの男性に託しただけです。
アズパール王国で農地の拡大をするとかで人手として2名連れて行かれました。」
「ん~・・・バロール。」
セイジョウが目線をバロールに向ける。
「嘘ではないだろう。
その御仁に出したお茶を所望したいが。」
「ええ・・・構わないです。」
アナベルが奥に行ってタンポポ茶を持って来る。
「え・・・これは・・・珈琲?」
セイジョウがマジマジとコップの中を見ながら言う。
「ん?どうしましたか?」
「いや・・・何でも・・・
飲みます。」
セイジョウが一口飲む。
「美味いっ。
やばい。久しぶりに飲んだ。この味最高だよ!」
「・・・我はいつものお茶が良いがな。」
「貴方もこのお茶が飲めるのですか。
この地区に住む者以外では眉をひそめる味なんですが・・・」
「いや。十分に美味しいね。
そうか。おっちゃんこれを買いに来たんだね。」
セイジョウがウンウン頷く。
「実は売ってはいないのです。
私達はいろいろと訳ありが多くて輸送も出来ないでしょうからと断り、アズパール王国で作ろうという話で2名を送り出しました。」
「ん~・・・なるほど。
農業の一環か。おっちゃんもやるね。
バロール。うちでも作る?」
「部下一人を使えない者が・・・」
バロールがため息をつく。
「・・・
じゃ。うちに何人か移住して貰おうか?
農地と身の安全の約束はするよ?」
「え?え?ですが・・・私達の中で若くタンポポ茶の製造経験があるのは先に送り出した2名で後は若いのは居ないのですけど。」
アナベルが急展開に驚く。
「ん?若くなくて良いと思うよ。
そっちの方が軋轢なくて良さそうだし。
とりあえず来てくれてこの珈琲を作ってくれないかな?
もちろん。貴女が来ても良いけどね。
とりあえず誰か紹介をして欲しいな。
もちろん謝礼もちゃんと出すから!」
「では。明日までに大統領府の領地に行きたい者を募ります。
それでよろしいですか?」
「良いよ。
では。明日謝礼を持って来るからね。」
セイジョウがそう言い席を立つ。
「失礼した。」
バロールも席を立つ。
・・
・
「はぁ・・・今日は運が良いのか悪いのか・・・」
室内に残されたアナベルは頭を抱えるのだった。
------------------------
武雄達は宿を目指して歩いていると。
「あ。所長だ。
お疲れ様です。」
と雑貨屋と食材を買いに行った皆に見つかる。
「はい。皆さん。おつか」
「キタミザト殿!?その子達は?まさか・・・」
フォレットが聞いてくる。
「追加で。」
「終わったと思ったら追加!?」
「はは。すみません。」
武雄が苦笑をしながら謝る。
「・・・よし!
チビちゃん達!服を買いに行ってから宿に行って湯浴みだね!」
「「え!?」」
ニルダとジルダが呆気に取られる。
「キタミザト殿は湯浴みの用意をしておいてください!」
「わかりました。」
「よし!行くよ!」
フォレットがニルダとジルダの手を握り連れ去っていく。
「あ・・・あの!?」
「その人は大丈夫ですから安心して着替えといで~♪」
混乱するニルダを武雄はにこやかに見送るのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




