第934話 裏路地から匂いがする。3(匂いの正体は?)
「タンポポの根ですか。」
武雄が不思議がりながらお茶を見ている。
「ええ。私達はタンポポ茶と言っています。
どこぞの屋敷でお茶を嗜んだ・・・まぁ私達元奴隷がお茶の代替品になる物をと探した結果なのです。
風味を付けるために軽く炒めなくてはいけないですけど。」
「植物の根は物によっては酷い結果になったのでは?」
「ええ。試行錯誤しました。
数日寝込んだり、お腹を下したり・・・苦労しました。」
アナベルが苦笑する。
「大変な苦労だったのでしょう。
・・・これをアズパール王国に卸せますか?」
タケオが考えながら言う。
「無理ですね。
まずこの根を売るのは構わないですが、商隊の流通に乗せると私達の存在がバレます。
取り締まりに引っかかる可能性がありますので。」
「そうですか・・・」
武雄がガッカリする横でパナも物凄く首を項垂らせていた。
「あ~・・・ならアズパール王国に誰か連れて行きますか?」
「え?」
アナベルの思いがけない提案を受け武雄が顔を上げる。
「ここに居ても未来はないのは誰しもがわかっています。
貴方は奴隷に対して丁寧そうです。
ならうちの街区の誰かを連れて行ったらどうですか?」
「私に取っては嬉しい限りですが・・・構わないのですか?
ある意味で貴女がされた奴隷売買と同じです。」
「ここで賄える人数は限られている。
なのに捨て子は増えて行くばかり・・・
生活が出来ないのであれば・・・出来る子を外に出すしかないのですよ。」
アナベルが真面目な顔を武雄に向ける。
その顔には「何名か引き取って欲しい」とまじまじと書かれていた。
「・・・2名。で・・・いかがでしょうか。」
武雄が伏し目がちに答える。
「2名・・・わかりました。」
アナベルが頷く。
と。武雄が席を立つ。
それを見てマイヤーとパナが席を立ち武雄の少し後ろに立つ。
「アナベル殿。
改めて私はアズパール王国 国王陛下より子爵位を頂いているタケオ・エルヴィス・キタミザトと申します。
私が住んでいる地にて農地の開拓を進めようと思います。
その際、このタンポポ茶も量産できる体制を整えたいと思っています。
貴殿の配下。2名を我が部下に召し上げたく思います。
何卒、良き人員をご紹介頂けないでしょうか。」
武雄が深々と頭を下げる。
「キタミザト殿。わかりました。
ニルデ。」
「は・・・はい!」
「ジルダと一緒にキタミザト殿の下で生きなさい。」
「婆ちゃん!私は要らないのでしょうか!
ここに居てはいけないのでしょうか!?」
「それはちが・・・ここまで良く私の世話を焼いてくれました。
ですが、私が紹介出来る中でタンポポ茶が一から出来て、尚且つ貴族に召し抱えられそうな人員はお前とジルダしかいないのです。
他の者達ではキタミザト殿に迷惑をかけてしまうでしょう。
それにこの国に居てもこの底辺からは上がれない。
上がるには私達を知らない土地で一から頑張るしかないんです。」
「わかりません!
貧しくても良い!婆ちゃんの傍が良い!」
ニルデが涙を流しながら言う。
「ニルデ・・・
キタミザト殿。」
「わかりました。
外でお待ちしています。」
武雄を先頭に室外に出て行くのだった。
「ニルデ。ちゃんと聞きなさい。」
「嫌です!婆ちゃんと一緒に住むんです!」
ニルデが嫌々をする。
「・・・ニルデ。
この地区に住んでいるのは何かに敗れた者、捨てられた者、そして逃げた者・・・いろいろ居るが私達はとても運がない。
その中でキタミザト殿がやって来たんだ。
そして努力すれば生活が良くなるという希望を示してくれた。
ニルデはまだ若い。今よりもお腹をいっぱいにさせて生きて行きなさい。」
「・・・」
「ニルデ。
私はこうも思うんだ。
キタミザト卿は農地を開拓すると言っただろう?
ならいつか・・・ニルデが努力して努力して農地を大きくしていくと何名かこの地から引き抜いて行けるのではないかとね。」
「!・・・」
ニルデが顔を上げる。
「大地主とは言わないでも数人が雇えるくらい大きな農場を作りなさい。
要請があれば私は行ってあげるから。」
「・・・また婆ちゃんと住める?」
「ええ。しっかりとキタミザト殿の下で農業をこなしていけばいつか大きくせざるを得ない。なら人手が足らなくなるだろう?
その時に私を呼べばいい。」
「・・・わかった・・・
あの人と一緒に行って大きな農場を作る!
そして婆ちゃんを呼ぶ!
婆ちゃんが死なないうちに!」
「ああ!なぁに心配ない。私はニルデより長寿だ。
私が死ぬよりニルデが先に死ぬよ!
ニルデが向こうで死ぬ前に大きな農場を作るんだね!」
「わかってる!
ジルダを呼んでくるから!」
ニルデが奥に行く。
「・・・私の命か・・・」
ニルデの後ろ姿を見ながらアナベルが呟くのだった。
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「・・・私。最低ですよね・・・」
武雄がアナベルの家から少し離れた場所で落ち込んでいた。
「・・・しょうがないでしょうね。」
マイヤーも複雑そうな顔をさせている。
チビッ子2名とビエラは呑気に武雄のリュックの上に座り家を見ている。
「・・・何だか言い争っていますかね?」
「ええ。」
「あ?」
「「それ違うから」」
ミアとパナがビエラの質問にツッコミを入れている。
「あ?・・・あ。」
「口減らしはまぁしょうがないでしょうが・・・
やはり住み慣れた所を離れるのは寂しいのでしょう。」
「ビエラ。それはドラゴンの感覚です。
別々に住むのが当たり前というのは種族的には少数です。
むしろドラゴンくらいなんじゃないですか?」
「あ~??」
ビエラが首を傾げる。
「え?なんですって?
それを他の種族に言ったら駆除されますよ?」
「なるほど・・・ドラゴンはそう感じるのですね。
でもミアの言う通りです。
他の種族の生活方式を尊重はしないと軋轢を生みます。」
「あ~・・・」
ビエラがヤレヤレと首を振るのだった。
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